第4話 鬼望隊

「メルサー総隊長、相手の情報が何も分かっていない以上、国民を逃がすことに集中してもいいっすよね。

 ってか、だから俺たち光戦機動隊が呼ばれたんすよね?」


「ああ、そうじゃ。

 機動力に優れた2番部隊が、このイカれた状況に適しているとわし自ら判断した」


 そう言うと、メルサーは大きく息を吸い込み、全員に聞こえる声で言った。


「整列っ!」


「「「はっ!」」」


「鬼望を持ち、鬼望のために最善を尽くせっ!」


「「「はっ!」」」


「総員、行動開始っ!」


「「「鬼望隊に幸あれっ!」」」


 直後、仮面の男と隊員は、揃って行動を開始した。


「はーい、仕事開始」


 彼らは、凄まじい勢いで崩壊したリベルタの街を駆けていく。


「あの集団は一体、何者なんでしょうか?」


 少し離れた所から様子を伺うピンク髪のヒューマノイドは、そう呟いた後、何発か光線銃を撃った。


 しかし、


「あれ?」


 彼らには1発も当たらない。


「どうして私の攻撃が当たらないのでしょう?」


 首を傾げるヒューマノイド。


「ふっ……」


 その様子を見て、仮面の男が言う。


「俺の部隊とまともに張り合えるやつ?

 んなもん、いるわけねぇっつーの。

 何せ俺らは、最速だからな」


 どうやら、謎の光に包まれた彼らの足が、人間離れした速さで進む事を可能にしているようだ。


「よーしお前ら、ここからは個別に動くぞ!」


「「「はっ!」」」


「それと、かすり傷すら負うんじゃねぇぞ!」


「「「はっ!」」」


 解散後も、彼らはヒューマノイドの攻撃を華麗にかわし続け、国民を船へと逃がした。


「おいお前ら、そろそろ潮時だ!」


「「「はっ!」」」


 それからすぐ、仮面の男は女の子を1人抱えた状態で戻ってきた。


「おじさん、ここどこ?」


「お、おじさんって……俺まだ21だよ?

 そんな老けて見えるかなぁ……はぁ」


 仮面の男の指示を受けた隊員たちもまた、避難の遅れていた国民を抱え、元いた場所へと戻ってきた。


「戻ったな。行くぞ」


「「「はっ!」」」


 そして、仮面の男と隊員たちは国民を連れ、船へと向かう。


「なぁ嬢ちゃん、ここに知ってる顔はいるか?」


「んーとね……あそこっ!」


 女の子の指さす先には、ついさっき見たばかりの綺麗な女性が座っていた。


「なるほど。そういう事か」


 女性が自身の膝に顔をうずめ、小刻みに体を震わせているのを見て、仮面の男はなんとなくの状況を察した。


「へぇ、あの綺麗な人がママか」


「うん、ママは綺麗だよ!」


「そうだな。

 よーし、早くママのとこ行ってあげな」


 仮面の男は女の子を優しく降ろした。


「お兄さんありがとね!」


「そうそう、よく分かってんじゃねぇか」


 そう言うと、仮面の男は笑った。


「えへへ」


 船乗り場に向かう途中、女の子は1度だけ振り返ってみたが、もうそこに男の姿は無かった。


「……おじさん……」


 女の子がボソッと呟くと、ヒラヒラと1枚の紙が落ちてきた。


『お兄さんな』


 その時、雨が降り始めた。


「ふふふ、変な人」


 それを見た女の子は紙をポケットにしまうと、溢れんばかりの笑顔で母親の元へと走った。


「ママー!」


「この声、まさか……ユア!?」


「ママ!」


「ユア!」


 母親は人混みをかき分け、女の子を力強く抱きしめた。


「それじゃあ、そろそろ行きますよ。

 これ以上雨が酷くなったらたまりませんので」


 船長は船の周りに人がいないことを確認すると、急いで船を出した。


「ユア……ごめんね、ごめんね」


 船が出航してからというもの、母親は何度も何度も繰り返し女の子に謝罪していた。


 そして、そんな母親に対して女の子は、何度も何度も「うん!」と繰り返し元気な返事をしていた。


「総隊長、どうやら全員無事に行ったみたいっすよ。

 それに、今雨が降るなんてラッキーっすね」


 隊員たちを引き連れ、メルサーの前に整列する仮面の男。


「なぁ、クラチよ」


「な、なんすか総隊長」


 突然名前を呼ばれた仮面の男は、メルサーの元へと急いで駆け寄る。


「ほれっ」


 突然後ろで組んでいた手を解き、メルサーは白い布に包まれた球状の何かを山なりに投げた。


「……おっとっと。

 な、なんすか、この重たいの。

 まぁ、とりあえずこの布取るっすよ」


 そして流れるように、仮面の男は布を払った。


 すると次の瞬間、仮面の男だけでなく、その場にいた全員が足をガクガクと震わせ、膝から崩れ落ちる状況に。


「これってまさか……!」


 それもそのはず、白い布がひらりと着地し、姿を見せたそれは……。


「見たら分かるじゃろ?

 ヒューマノイドの首じゃよ」


「うーわ、これは流石にセンスないっすよ」


 先程まで国中を飛び回っていた、黒髪ヒューマノイドの頭部であった。


「ふっはっは」


 メルサーは余程嬉しかったのか、1人で笑っている。


 しかも、この変な空気を祝うかのように、雨がよりいっそう激しくなった。


「このおっさん、色んな意味でやべぇわ」


 しかし、メルサーが持ち帰ったこの1級の首が、人類奪還計画を進める大きな一歩となったのは言うまでもない。



 場所は変わり、リベルタの一等地に立つマンションの地下深く……。


「帰ったぞ」


「……どーん、どーん……」


「世界が僕を呼んでいる!……わけじゃなさそうだし」


「私にはさっぱりなの」


「あたしは興味すらないわ!」


「うーん……。俺が見た未来だと、これから楽しくなりそうって感じかな」


 薄暗いリビングに置かれた黒いソファと、異様な気配を放つ謎の6人組。


 彼らの後ろには、黒い6輪の花が描かれたフラッグが交差する形で飾られている。


 果たして、彼らは何者なんだろうか……。

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