幕間 一幕目「婚約者の評判」

「シャノワールで待ってる」

 昨日と同じく道場から逃走した隼人さん。

 彼が走ってきた先を見ると少し人集りができていた。

 隼人さんは極端に自分の話をしない。

 追いかける前に事情を知っておかないと誤魔化される可能性がある。

「何があったんですか?」

「あ、アリシア姫……」

「じ、実は……」

 クラスメイトに聞いてみるとどうやら斬りかかってきた一年生男子生徒を隼人さんが返り討ちにしたようだ。

「若狭君、大丈夫かい?」

「ええ、問題ありません。寸止めしようとしたのにムキになるなんて困った先輩だよ」

 どうやら虚勢を張っているのが件の一年生のようですね。

 これ以上変な噂を流されたくなかったのと。

 デート気分を台無しにされたことに対して少し憤りを感じたので文句の一つでも言おうと近づこうとしたが先程質問したクラスメイトたちに道を遮られる。

「アリシア姫聞きたいことが……」

「何でしょうか?」

「その……風見先輩に何かされてはおりませんか?」

「私達、食堂でのやりとりをお見かけして……」

 先程の食堂でのやりとり?

 あぁ、隼人さんが私の手首を掴んだことですね。

「風見先輩に少し剣術の意見を聞いたところ実践したくなったのを止められただけです」

 我ながら当たり障りない回答。

 後で隼人さんに褒めてもらおう。

「よかったです。風見先輩はよくない噂があるのでアリシア姫が心配で」

 噂で相手のことをよく知りもせずに勝手にレッテルを貼る。

 しかたないことだがその対象が大切な人だと聞いていていい気分にはならない。

「ご心配ありがとうございます。風見先輩ですが実際話してみるといい人ですよ」

 悪い噂はなくなってほしいが逆に隼人さんのいいところを知られてライバルが増えるのは好ましくない。

 何とも面倒くさい独占欲。

 つい昨日まではわからなかった感情だ。

「そ、そうだ。よろしければ手合わせをしていただいてもよろしいでしょうか?」

「申し訳ありません。この後予定がありまして」

「そ、そうですか……」

「……今日は無理ですがまたぜひ誘ってください」

「はいれ」

「喜んで!」

 これは交友関係が築けたと思ってよいのでしょうか?

 一瞬だけ視線を先程の人集り向けたが解散している。

 聞きたいことは聞けたので急いで隼人さんの後を追わないと。

「若狭……どこかで聞いたような?」

 頭に血が上っていたせいか思考回路が正常じゃないのかもしれませんね。

 無性に今すぐ甘いものが食べたくなってきました。

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