無実の罪で監獄送りになった少女騎士、魔女に拾われる

笹塔五郎

第1話 大罪人

 揺れる馬車の中、少女――ルーティ・コルセンスは虚ろな瞳で自身の腕に取り付けられた鉄の枷を見つめていた。

 肩にかかるくらいの金髪。

 華奢な身体付きのルーティの腕以外に、首や足にも鉄枷があり、鎖で繋がれている。

 およそ少女の力では引き千切ることなど不可能で、普通に見ればあまりに厳重すぎる拘束であるとも言えた。

 だが、そこまでルーティを警戒するのには理由がある。

 ルーティは十六歳という若さで、『アルセッタ王国』の騎士となった。

 その年齢で騎士になるのは異例の早さであり、それだけ彼女の『剣術』の腕が高く、評価されたとも言える。

 元々、地方の孤児院で生まれたルーティに血の繋がった家族はいない。

 明るく社交的で、幼くともルーティは賢かった。

 故に、天涯孤独の身である彼女が人並み以上の暮らしをするためには、ある程度仕事を選ぶ必要があることも理解していた。

 魔力の量は人並みで、『魔術』に関しては勉強しても突出した能力はない。

 その代わり、『魔力を操る』という点において、ルーティは他の者より優れていた。

 そこで、ルーティは剣術を学ぶことにした。

 我流ではあったが、ルーティは自ら作った木刀を使い、毎日のように振るった。

 ――そして、自身の才能に気付いたのである。

 魔力の操作によって、必要なところで必要な『身体強化』を行う彼女のスタイルは、魔力の消費は少なく、それでいて効率的に使用することができる。

 魔力量が人並みでも、人並み以上の時間動くことができるのだ。

 そうして、ルーティは『騎士』に志願した。彼女の才能はすぐに認められることになり、士官学校の出身ではなかったが、ルーティは騎士になることを認められたのである。


(それなのに……どうして、僕は……)


 ルーティは大きく息を吐き出した。

 騎士になってからのルーティの活躍は、目覚ましいものであった。

 魔物の軍勢にも臆することなく立ち向かい、戦果を挙げる。

 王国内で犯罪行為を繰り返す組織の摘発にも加わり、彼女は多くの者を捕らえてきた。

 騎士としてのルーティは、すぐに国内でもその名を知られることになり、二年が経つ頃には『剣姫』と呼ばれ、次期騎士団長候補とまで噂されるようになっていたのだ。

 ――だからこそ、今の状況にあるのかもしれない。

 ルーティの活躍をよく思わない者は少なからずいた。

 それが一介の騎士であれば、これといって問題はなかったのだろう。

 ルーティは正義感の強い少女であり、貴族だろうと悪人であれば容赦なく摘発する。

 彼女が関わった一件で、王国内でも力を持つ貴族を敵に回してしまったという事実に、気付くのが遅れてしまったのだ。

 結果、ルーティは王族に対する暗殺計画を企てた反逆罪によって、捕らえられることになる。

 無論、ルーティからすれば寝耳に水のような話であった。

 何も知らないし、そんなことを企てたつもりはない。

 だが、『悪意』にすぐ気付くことができなかったルーティは、証拠もでっち上げられて、こうして監獄に送られることになってしまったのだ。

『コール魔導監獄』――王国における大罪人が収容される場所であり、そこに一度入れば、二度と出ることは叶わないとされている。

 無実を訴えたルーティであったが、彼女の味方は誰もいなくなっていた。

 ――その事実に、ルーティは絶望した。

 誰も助けてくれることはなく、ルーティが助かる術はどこにもない。


(僕、騎士になって、ただ……騎士として頑張ってきただけなのに……)


 ――騎士にならなければよかったのだろうか。

 けれど今更、後悔したところで、きっと遅いのだろう。

 王国の騎士として戻る道はすでに断たれ、ルーティはこれから犯罪者として一生を牢獄で暮らすことになる。

 処刑されなかっただけマシ、と考えるべきなのだろうか。

 おそらく、ルーティが処刑されなかった理由は、単純に彼女の剣術が優れていたからだ。

 有事の際に、ルーティを使い捨ての駒として利用することができる――そういう算段まで含めて、ルーティを監獄へと閉じ込めておくつもりなのだろう。

 どちらにせよ、これから先に自由になることは一切ない。

 まだ十八歳になったばかりのルーティにとって、あまりに重い事実であった。


(これならいっそ、処刑された方がいいのかも――)


 そう、考えた時のことであった。

 ガタンッ、と大きく馬車が揺れる。

 大きな石でも車輪で踏んだのだろうか。

 そんなことを考えたルーティであったが、すぐに違うということを理解した。

 頬に当たったのは鮮血――御者と、ルーティを監視する騎士の二人が同時に殺されたのだ。


「な……!?」


 後方で待機していた騎士が驚きの声を上げた。

 いきなり仲間の首が吹き飛べば、驚くのも無理はないだろう。

 ルーティですら、突然の出来事に呆然としていた。


「――ふふっ、この国もバカねぇ? 貴女みたいな『強い子』を、こんなところに閉じ込めちゃうなんて」


 聞こえてきたのは少女の声。

 ふわりと、ルーティの眼前に姿を現したのは、黒髪の少女であった。

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