死体の無いスプラッタ

「う~ん。ここが、50人以上が死んだ現場なのかい?」

「……ええ、そのはずです。」

「これは困ったねぇ~!


 死体が1つもない。」


 能登羽が指差した先の現場には、死体どころか、血すらも見られない。


「もしかして、掃除されたのでしょうか?


 50人が殺されるような事件ですから、闇の世界の組織が絡んでいるはずです。ですらから、掃除屋がいるはずです。その掃除屋が50人分の死体を片付けたのではないでしょうか?」

「それはないねぇ~。


 いくら腕利きの掃除屋でも、通報から僕たちが来るまでの短い時間で、全てを片付けられるはずがない。」

「確かに、通報から大きく見積もっても20分も経っていません。


 通報では、50人が殺されたという内容でしたから、通報者は50人が殺されたところを見ていた。もしくは、50人の死体を見たことになる。


 例え、50人の死体を見た時だとしても、たった10分で50人の死体を処理することも不可能だし、ましてや血などを現場から掃除することなんてなおさら無理です。」

「不思議だねぇ~。」

「いたずら電話だったのでしょうか?」

「さあ、それは分からないね。だけど、せっかく来たんだから、聞き込みでもしてみようか?」

「そうですね。


 ……ちょうどあそこに人がいるので話しかけてみましょう。」


 神宮寺が指差した先には、何かをバックに片付けている男がいた。能登羽はすぐにその男の元へと近寄っていく。


「すいません、今よろしいですか?」

「……はい、いいですけど……。」

「私は刑事の能登羽と申すものです。」

「刑事? 何かあったんですか?」

「実は、ここでさっき50人以上が殺されたという通報がありましてね。」

「……へえ。」

「驚かないんですね。」

「ええ、もちろんですよ。


 だって、私はここで50人以上が殺される所を一部始終を見ていましたからね。」

「!?」


 能登羽と神宮司はその男の発言に驚いた。


「それは本当ですか?」

「ええ、ついで言うなら、50人の内、14人は私が殺しました。」

「!?」


 能登羽と神宮司はまたもやその男の発言に驚かせられる。


「それは、自白と考えてよろしいですか?」

「……フフフ、はい。」

「それでは、私達は……。」

「何ができるって言うんですか?」

「……どういうことですか?」

「死体の無い殺人の犯人を逮捕することができますか?」

「……!!!」

「死体どころか、殺人が行われた証拠もない!


 私は確かに自白しました。しかし、事件が明るみにならなければ、その自白に意味はない。」

「では、その殺人の詳細についての自白は頂けますか?」

「ハハハ、無理ですよ。それを言ったら、私は殺人犯になってしまうじゃないですか?


 刑事さん。勝負をしましょう。


 刑事さんは私が犯した殺人を見つけることができたならば、私は素直に警察に出頭しましょう。


 しかし、刑事さんが殺人を見つけることが出来なければ、私はまた人を殺します。」

「ほう、スリリングな勝負ですね。タイムリミットはありますか?」

「タイムリミットは明日までだ。明後日、また人を殺すことになっています。」

「なるほど、それまでにあなたが起こした殺人の証拠を見つければいいのですね。」

「刑事さんに出来ればの話ですけどね。」

「大丈夫です! 必ず、この殺人事件を見つけて見せます。」

「頑張ってください。私は逃げませんよ。


 これ、連絡先です。」


 その男は電話番号が映ったスマホの画面を能登羽と神宮司に見せた。神宮寺はすぐにその電話番号をメモした。


「それじゃあ、期待していますよ。」

「……1つだけ質問させてください。」

「1つだけですよ。」

「あなたの名前は?」

「質問はそれだけですか?」

「ええ。」

「私は小谷です。」

「ありがとうございました。近々連絡を差し上げます。」

「期待してますよ。」


 小谷はバックに荷物を詰めて、どこかへ去ってしまった。


「本当なんですか? あの小谷って男が14人も殺した犯人だというのは?」

「ああ、彼がそう言うのだから、そうなんだろう。」

「仮に本当だとしても、どうやって死体を処理したんですか?


 彼はあの大きめのバックしか持っていませんでした。大きいバックと言えど、死体が1つでも入るとは思えません。」

「あのバックの中には死体はおろか、血の付いた凶器らしきものもなかった。」

「そもそも死体を持ち運べたとしても、死体回収の問題が残る。」

「そうですよね。


 ん?」


 神宮寺はポケットからスマホを取り出した。そして、電話をした。


「えっ!?」

「どうした?」

「……さらに謎が増えました。


 この現場には今日、50人以上の人間が立ち入っていないそうです。」

「なんだって?」

「この現場に入る唯一の出入り口にある監視カメラを調査したところ、48人の出入りしか確認できませんでした。


 この現場を見渡すことのできる場所には多数の人間の出入りが認められましたが、その場所からこの現場に通じる道はなく、その場所にいた全員の安否が確認されています。」

「ということは、この現場には48人全員が死んでも、50人には達しないわけだ。それに、さっきの小谷は生き残っているから、余計に辻褄が合わない。


 本当に50人が殺されたという証拠はあるのかい?」

「さきほど、通報者に事情聴取したところ、53人殺されたという証言が取れました。」

「53か。


 小谷が死んでいないとすると、47人全員が死んだとしても6人の死体が足りない訳か。」

「それに、もう1つ。


 監視カメラには、48人全員がこの現場から出ている所が確認されたそうです。」

「なんだって!


 ……もう訳が分からないねえ。」

「ゾンビのように殺されても復活したのでしょうか?」

「……今なんて?」

「えっ!? ゾンビの様に復活したのでしょうかって言いましたよ。」

「……なるほどねえ! そういうことか!」

「分かったんですか?」

「ああ、だが、動機が分からない。」

「動機ですか? 


 ……そういえば、1年前にこの現場であの窃盗事件が起こったんじゃありませんか?」

「そうだ! でかしたよ、神宮司君!


 これで、全てのピースがそろった。小谷はあの凶器を使って、14人を殺した。そして、殺された53人も全て、あのたった1つの凶器で殺された。」

「たった1つの凶器?」

「ああ、片手で持てるが、相手に当てると即死になる凶器だ。」

「そんな凶器があるんですか?」

「ああ、その凶器なら、足りない死体を作り出すこともできる。


 この不可解な事件を全て解決することができるんだ!」


 能登羽はそう言って、小谷の電話番号を自身の携帯電話に打ち込んだ。

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