第70話 ナナセ、リスティと話し合う

 その日は、夏の終わりを感じさせる激しい雨と風に見舞われていた。やがて雷も鳴りだし、昼なのに薄暗く時折稲光が街を不気味に照らし、恐ろしい轟音が街中を襲う。

 ヒースバリーの街は、この暴風雨のせいか人通りは殆どない。いつも多くの冒険者で賑わう広場も今日は閑散としていた。




 全てのファミリーがハイファミリー同盟の傘下になる、という知らせはムギンを通して全ドーリアに伝えられた。

 このことは特に混乱を生まなかった。何故ならリスティは「全てのファミリーが上位の魔物狩りに参加できる可能性がある」と付け加えたからだ。ファミリーの活動はこれまで通りで、腕が良ければハイファミリーに昇格できるかもしれないという。

 これまでハイファミリー同盟というのは、ある種の特権階級のような存在で、一般のファミリーとは一線を画していた。その線をなくすというリスティの言葉は、全てのファミリーに希望を与えたのである。


 そうしてリスティの人気は更に上がり、リスティ様、リスティ女王と崇める者が増えた。一方で、何故急に全てのファミリーを同盟の傘下に入れたのか、その理由を訝しむ者もいた。




 リスティとナナセ達との会合は、荒れ模様の天気の中、冒険者ギルド総本部の一室で開かれた。ギルドの二階にある広い部屋だ。ここは審問会を開くときに使われるのだが、普段は使用されていない。

 中央に巨大な丸型のテーブルが置かれ、椅子が等間隔で設置されている。部屋は全て真っ白で飾りも何もない。


 先に来たのはナナセとルイン、そしてタケルの三人だった。そのすぐ後ろからブラックが入ってきて、指示されるままに三人並んで椅子に座った。外は雷の音がひっきりなしに鳴り響いているが、ギルドの中はしんとして、何の音もしない世界だ。


「お前ら知ってたか? ここで審問会が開かれるんだぜ」

「審問会に出たことあるんですか? タケルさん」

 ナナセが質問すると、タケルは笑いながら首を振る。

「俺はねえし、仮にあったとしても審問会のことは言っちゃいけないことになってる。審問会に選ばれたメンバーはそういう契約を結ばされるんだよ。メンバーは全員顔を隠して出席するって話だぜ」

「へえ……」

 ナナセとルインはタケルの話に興味津々だ。レオンハルトの新人狩りの件で、審問会が開かれた時のことは二人とも殆ど聞いていない。二人が聞いているのは処分の結果だけだ。




 だだっ広い部屋で、三人はそわそわとリスティを待った。リスティはなかなか現れない。彼女の遅刻癖を知っていたナナセは平然としていたが、ルインとタケルは段々イライラしてきている様子だ。


「まだ来ねえの? こんなに待たされるなら飯食ってくりゃ良かった」

「リスティはいつも遅れてくるんですよ。もう少し待ちましょう」

「ほんとに来るのかな」

 ルインはリスティが本当に来るのか懐疑的だった。今日の話し合いもルインは否定的だった。話し合いなんて無駄だよ、とため息をつくルインをナナセとタケルがなんとか説得して連れてきたのだ。


 ブラックは立ったまま、ムギンを抱えて何やらずっと作業をしているようだ。重々しい空気の中、タケルがいよいよ苛立って席を立とうとしたその時、ようやく部屋の扉が開いた。


「お待たせしました」


 従者のマオがそう言いながら扉を開けると、笑顔のリスティが堂々と入室してきた。いつも華やかな彼女だが今日は一段と派手だった。ピンクを基調としたドレスは体のラインに沿ったマーメイドラインで、キラキラと輝く宝石がスカートに散りばめられている。通信機能もあるピアスも彼女独自のデザインで、大きなピンクサファイアの宝石がピアスから釣り下がり、歩くたびにゆらゆらと大げさに揺れる。


 ナナセの今日の服装は、いつものメイジ用ローブだ。ルインも同じようにローブを着ていた。二人にとってはこれが戦闘服なのだ。タケルも二人と同じように戦闘用の防具姿だ。革のベストとパンツを身に着け、ヒールの高いロングブーツを履いている。三人とも武器は持ってないものの、ここを戦いの場だと認識しているかのような姿だった。


 ブラックに指示され、ナナセ達と向かい合う形にリスティは座った。リスティの後ろにはマオ、ゼット、ベインの三人がリスティを守るようにずらりと並ぶ。

 ゼットはナナセを睨みつけているような目つきだ。ナナセはゼットの視線に気づき、思わず目を逸らした。


「ゼットも来るなんて」

 ナナセはこそっと隣のルインに耳打ちをした。

「大丈夫? ナナセ」

 ルインは心配そうにひそひそと話す。

「……大丈夫」

 気丈に答えたナナセだったが、その目には不安の色があった。



「リスティ、約束の時間を一時間過ぎました。時間は守っていただきたいです」

 ブラックがリスティに釘を刺すと、早速ゼットが食ってかかった。

「そっちが勝手に呼び出したんだろ? リスティ様は忙しいんだよ!」

「それは承知しています。ですが時間を指定したのはそちらでは?」

「何なんだよお前、ガーディアンの癖に俺達に意見すんのか?」


「やめて、ゼット。こちらも随分急いだつもりなのだけど。あなた達が私の屋敷に来てくれたら、私は遅刻しなくて済んだのにね」

 リスティは笑顔でちくりと嫌味を言った。

「申し訳ありません。私はこのギルドの外に出ることができませんので、こちらに呼び出させていただきました」

「……あら、そうなの? ガーディアンって不自由なのね」

 フンと馬鹿にしたような目で見たリスティは、退屈そうに髪を撫でた。


 ブラックは円形のテーブルを挟んで座るナナセ達とリスティを見守るように、間に座った。お互いに自己紹介をさせた後、口を開く。

「それでは時間も押していますし、始めましょう。私は双方の意見を聞くために立ち会わせていただきます。まずはナナセから、ハイファミリー同盟の在り方についての意見があるとのことでしたね?」

 ナナセは緊張気味な顔で「……はい」と頷いた。


 リスティはナナセをじっと見るとにっこりと微笑んだ。

「ナナセ、久しぶりね。あなたがファミリーを抜けてからずっとどうしているか気にしていたのよ? 今日はわざわざガーディアンを通して私を呼び出すなんて……いったいどんな話なの?」

 リスティの顔は笑顔を崩さないが、その瞳に警戒の色があることにナナセは気づいていた。ナナセがリスティと最後にあったあの日、リスティがナナセを追放すると告げたあの時の目と似ているとナナセは思った。


 ナナセはふうっと息を吐き、口を開く。

「今日はリスティにお願いがあって来たんです。あなたが解散させた『リバタリア』を元に戻して欲しい」

 リスティは思ってもいなかったことを言われたのか、きょとんと首を傾げた。

「……あら? ナナセ、リバタリアに所属していたの?」

「ううん、隣にいるルインが入ってたんだよ。いきなり解散されちゃって困ってるんだよ。リバタリアを解散させた理由は何なの?」

「あなたに理由を話す必要あるかしら?」

 リスティは眉をひそめる。リスティをフォローするかのように、ゼットが前に出てきた。

「リバタリアはハイファミリー同盟に反抗的な態度だったんだよ! ファミリーが一つ解散したくらいでわざわざこんな所にまで呼び出して、お前は何なんだよ」


 いきり立つゼットの剣幕に、ナナセは怯えたような顔でビクッと体を震わせた。ナナセの様子を見たタケルがすかさず割って入る。

「お前こそ何なんだよ急に出てきて。ナナセは今リスティと話をしてんの! ちょっと黙っててくんない?」

「はあ? てめえこそ引っ込んでろよ」

「ゼット」

 リスティがピシャリとゼットをいさめると、ゼットは急に大人しくなり「……はい、リスティ様」と小さい声で言った。


「タケルさんって言ったわよね? あなたの噂は聞いてるわ」

 リスティは笑顔を浮かべ、タケルに話しかけた。

「へえ、俺のことを知ってんの?」

「勿論よ。ユージーンからあなたの話を聞いていたのよ」

 リスティからユージーンの名前が出ると、タケルの表情が曇った。

「ユージーンから? どうせ碌なことじゃないんだろ」

「そんなことないわ。ユージーンは初代自警団長だったあなたのことを尊敬していたみたいよ」

「あいつの言うことなんで嘘ばっかりだよ」

 タケルはフンと鼻で笑った。


「ユージーンは私の為に働いてくれているわ。とても誠実な男よ。これからは守護団長として、ノヴァリスの平和を守る為にもっともっと働いてくれるはずよ」

「ユージーンの話は今はいいよ。それよりもリバタリアのことだ。あんたの気まぐれで、あちこちのファミリーが解散させられたらたまったもんじゃねえ。まずどうしてリバタリアを解散させたのか、リバタリアの奴らには説明する義務があるんじゃねえの?」

 タケルの言葉に頷きながら、ルインはじっとリスティを睨んでいた。ルインの視線に気づいたのか、リスティはルインを見つめて微笑んだ。


「ルイン、突然解散ということになって驚いたでしょう。でもあなた達のリーダーはリバタリアを守ることをしなかったのよ。私のファミリーに上級冒険者や上級職人を入れてあげてもいいと言ったのに、ロイドは拒否したの。彼らはリバタリアよりももっと素晴らしいファミリーに移れるはずだったのに、ロイドはそれを妨害したのよ」

「それがリバタリアを解散させた理由なの? 八つ当たりにもほどがあるんじゃない」

 ルインはリスティを睨み続ける。


「八つ当たりなんて失礼ね。私はあなた達を救おうとしたのよ? せっかくファミリーに入っているのに誰とも話さないなんて……かわいそうなドーリア達を私のファミリーに受け入れてあげようと思っただけ。私のファミリーに入ればいつも仲間が沢山いて、毎日楽しく暮らせるのよ?」

「だからそれが余計なお世話なの。私達は干渉しない関係が良かったのに、あなたはそれを無理やり壊したんだよ」


 リスティは目を大きく見開き、信じられないと言いたげに首を振った。

「あなた、ファミリーなのに干渉しないなんて本気で言ってるの? ファミリーは強い結びつきがあるものなのよ? みんなでご飯を食べたり、一緒に魔物狩りをしたり……ファミリーってとっても楽しいものなのに」

「こういう連中は付き合いが悪いんだよ。自分勝手で仲間に対する思いやりがないんだよな」

 ゼットはナナセを睨みながら口を挟んだ。


「リバタリアの理念は私の理想に反するわ。ファミリーとは常に共にあるものよ。だから無くしたし、今後もリバタリアのようなファミリーを許すつもりはありません。協調性のないドーリアが200人近くもいたなんて! 今後は私が自ら、彼らにもっと適したファミリーを用意してあげようと思ってるの」

「素晴らしい! リスティ様はそこまで考えてくださっているんだぞ?」

 堂々と言い切るリスティをうっとりと見つめ、ベインが拍手した。ゼットは得意げな顔でナナセ達を見ている。マオはずっと表情を変えずに立っている。


 じっと話を聞いていたナナセは、無表情のまま口を開いた。

「……要するに、リスティにとって気に入らないファミリーだから、リバタリアを潰したってことだね。リバタリアを放っておけば、あなたの思い通りにならないドーリアが増えていくだけだもんね。あなたのやり方はいつも同じ。私を勝手な理由でファミリーから追放したのもそうだよね」

「アハッ、追放しただなんて、人聞きの悪いことを言わないで? ファミリーを抜けると言ったのはあなたでしょ?」

 リスティは固まった笑顔のままナナセを見つめた。明らかにリスティの顔に動揺が見て取れた。


「いいや、リスティは私をキャテルトリーの飛行船乗り場まで呼び出して『追放する』と言ったよね。そのせいで私はファミリーを追い出され、仲間達に挨拶すらさせてもらえなかった。それどころか、ダークロードのメンバーには私から抜けたと言っていたらしいよね? セオドアとノブに聞いたよ」

 睨むようにナナセはリスティに言い放った。リスティは笑顔を崩さないまま、自慢のベージュ色の髪の毛を撫でた。


「何を言っているの? ナナセったら、私があなたを追放できるわけないでしょ? ダークロードのリーダーはゼットなんだから」

 ナナセはゼットに視線を移した。ゼットは何故かナナセからパッと目を逸らす。

「どうせリスティに言われるまま、ゼットが追放したんでしょ? あなたはリスティの言いなりだもんね」

 ゼットはすぐに視線を戻し、ナナセを睨む。

「知らねえよ。お前が勝手に抜けたんだろ? 俺達のせいにするなよ……ったく、過去のことを今更ぐちぐちと……お前の話がそんなことなら、もう帰るぞ」

 ゼットの隣でぼうっとしていたベインもようやく話に加わってきた。

「ナナセ、君がリスティ様に嫉妬してたのは分かるよ。リスティ様は素晴らしいヒーラーで、君は地味なメイジだったからね。だけどもう昔のことなんだから、今更ここで言うことじゃ……」


「悪いけどベイン、黙っててくれる? あなたの言うことはいつも見当違いだから」

 ナナセはじろりとベインを睨んだ。ベインはリスティの腰巾着で、全てリスティの言いなりに動く男だ。ただリスティに同調するばかりのこの男と話す必要はないと、ナナセは思った。


「ブラックさん、お願いします」

 ナナセはブラックに声をかけた。ブラックは「はい、お待ちください」と言い残すと部屋を出て行った。

「何なの?」

 怪訝な顔でブラックの背中を見送るリスティに、ゼットは「ほら、あいつもいなくなったしもう帰ろう、リスティ様」と促した。


「まだ帰らないで。話は終わってない」

 ナナセは低い声でリスティに言った。今まで見たことのない彼女の表情に、タケルとルインは心配そうにナナセを見守る。


 ブラックはすぐに戻って来た。だがブラックの後ろに続き、一人の男が入ってくるのを見てリスティは目を丸くした。

 ブラックの後に続くのは、リバタリアのリーダー、ロイドだった。


「……あら、お久しぶりね、ロイドさん」

 リスティは作り笑いのような笑顔でロイドに声をかける。

「どうも」

 ロイドはリスティを見ずに軽い挨拶を返した後、ナナセ達の横の椅子に座った。


「ロイドさんに来てもらったのは、ここでリバタリアを復活させる為だったんだけど。でもリスティはその気がないみたいだね」

 ナナセはリスティを睨みながら言った。

「そうだったの? せっかく来ていただいたのに申し訳ないけど、無理ね」

 リスティはため息をついた。

「どう思いますか? ロイドさん。今までのやり取りを見ていましたよね」

 ナナセがロイドに声を掛けると、ロイドは頷いた。

「……ああ、そこのガーディアンがここの様子を見せてくれたからな。別室で全部見てたよ」

 ここでの話し合いの様子を全て見られていたと知ったリスティは、それでも平然としていた。


「外でこそこそ見てないで、ロイドさんも最初から参加するべきだったと思うわ。ロイドさん、あなたは解散に同意したのでしょう? 今更元に戻したいと言われても困るのよね」

「同意? ユージーンに脅されたんだぞ、俺は。解散しなければ、メンバーは今後魔物狩りができなくなるって言われたんだ。解散に同意すれば、メンバーに迷惑をかけずに済むと思ったんだ……」

 ロイドは悔しそうにテーブルの上で拳を握った。

「脅すなんて。ユージーンは少し物言いがきつい所があるかもしれないけど、あなたを脅すようなことはしていないはずだけど。おかしいわね……」

 とぼけるリスティに、タケルが苛立った顔で口を出した。

「ロイドが脅されたって証言してんだ。脅しで解散させたんだから、解散は取り消せ。リバタリアを元に戻せよ。リバタリアがあったからってお前らが困ることはねえだろ? リスティのきまぐれで振り回される身にもなってやれよ」


 リスティはすっと真顔になり、タケルをじろりと睨んだ。

「口を挟まないで。私が決めたことなのよ。覆すことはないわ」


「そうやってナナセを追い出し、ルビィを追い出し、コーヒーゾンビもファミリーごと追い出したな。気に入らない奴を片っ端から追い出して、自分は女王様気取りか。笑える」

 アハハハと高い声で笑うタケルに、ゼットは眉を吊り上げて「リスティ様を侮辱する気か!」と叫んだ。

「侮辱? 俺は事実を並べただけだぜ。そこの女王様の気まぐれに付き合うほど、俺達はお人よしじゃねえんだよ」


「気まぐれなんかじゃないわ」

 リスティはあからさまに不機嫌になっていた。髪をばさりとかきあげ、並ぶナナセ達を睨みつける。


「全て理由があるわ。ナナセ、あなたは私の歓迎会を抜け出したわよね。あなたは私が仲良くしてあげようと思ったのに、それを拒否したのよ。ルビィは私のヒーラーの能力が低いと罵り、私の服をダサいと笑ったわ。コーヒーゾンビは私に報酬を渡すのを拒むばかりか、ルビィを仲間に引き入れたのよ。リバタリアは私の悪口をコソコソと言っていたわね。ねえ、もういいかしら? あなた達と話しているとイライラする。みんな、帰るわよ」


 リスティがマオに視線を送ると、マオは慌てて椅子を引いた。リスティは立ち上がり、出口に向かって歩き出した。ゼットとベインはリスティの後に続く。


「おい待てよ、話はまだ終わってねえぞ」

 タケルが慌てて声をかけるが、リスティは何も言わずに部屋を出て行ってしまった。


 がらんとした部屋で、タケルは呆然としていた。

「信じらんねえ。無視して帰りやがった」

「ほら、やっぱり話し合いなんて無理だったんですよ」

 ルインは扉を睨みながら呟く。


「……リスティ、私が歓迎会を抜け出したこと、やっぱり怒ってたんだ」

 ナナセは昔のことを思い出していた。リスティが「ダークロード」にやってきて、ゼットが彼女の歓迎会を開いた。ナナセは途中まで歓迎会に出ていたものの、タケルからの呼び出しで先に出て行ってしまったのだ。あの時、リスティは「気にしないで」と笑っていた。彼女の笑顔に嘘はないと信じていた。


 だが、やはりそれは嘘だったのだ。出会った頃から、リスティは本心を明かさない女だった。

 それに気づいたナナセは、背筋が寒くなる思いがした。


「悪いね、みんな。リバタリアの為にここまでしてもらって」

 ロイドは申し訳なさそうに言った。

「いえ、こちらこそ力になれなくてすみません」

 ナナセはしょんぼりと肩を落とした。




 苛立ちを隠せない様子のリスティに、ぴったりと付き添う三人の従者。ゼットとベインは「失礼な奴らだ」とか「リスティ様にあんなことを言うなんて」などと文句を言いあっている。


 そんな中、マオだけは浮かない顔をしていた。ナナセは「自分はリスティに追放された」と言っていた。リスティは否定していたが、親友だったルビィもリスティに追放された。あの時はリスティの言うことは全て正しいと思い、ルビィを冷たく突き放した。ルビィの傷ついた顔を思い出し、マオは複雑な気持ちを抱えていた。


「マオ、早くして」

 リスティの声にマオはハッと我に返った。彼女達はギルドの出口まで来ていて、外は相変わらず雨と風が強い。マオは慌てて自分のバッグからポータルの鍵を取り出し、地面に落とした。マオの足元に円形の光る柱が現れ、マオとリスティは一緒に光の中へと消えた。ゼットとベインはリスティを先に見送り、自分達もポータルを使い帰って行った。


 リスティ達が消えた後、一際大きな稲光が広場を照らし、近くに雷が落ちた音がした。まるでリスティの理不尽な怒りを表しているかのようだった。




 そして嵐が去った後、ヒースバリーよりもずっと南にある小さな村「シャトルフ」の近くにある森の中で、不思議な光が一瞬現れてすぐに消えた。


 光は石柱で作られた枠のオブジェから発せられたもので、光が収まった後、そこに新たな「扉」ができていた。

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