みじかめグレネード

釣ール

第一紹介:食らいついたら離さない

 覚えたての言葉はいつもふだんから使わないようなものばかり。

 そんな環境にほこりをもっていてもやがて去っていくことは大前提だいぜんてい


 お前たちといるのはもうあきた。

 二度とあらわないでくれ。

 そのためにとどめだけはさしておく。



◇ ◇ ◇



「見たい景色けしきっていつも自分から見に行こうとしないと見たって実感わかないんだよね」



 実津留みつるは何を当たり前のことだと言いたかったがここは彼に配慮はいりょして発言を変える。



「見たくなくても見させられる景色けしきもあるだろ?行かなかったやつをせめるつもりか? 」



 少し彼への当たりが強くなってしまった。

 しあわせのあり方の話だけで喧嘩けんかしてしまうくらいには自分たちの相性あいしょうは最悪だ。



 たとえば夏のあつさで動けないから中で楽しみたいと実津留みつるがいえば彼は寒いのが好きじゃないからと猛暑の中で半裸はんらで海へ行くこともためらわなくて恥ずかしいくらいに何から何まで違っていて行動している理由が実津留みつるさえ分からないほどだ。



 相性あいしょうがいい関係があるかどうかは異性いせいでもあるかどうかだ。



 この行動こうどう言動げんどう強者きょうしゃに制限され、やつらも人間だから「しあわせではない」ことを理由に権力けんりょく乱用らんようする世界で自分たちは共に行動できるかどうか心配な人たちもいるだろう。



「ここが指定された場所だ。」



 彼はいつもとはちがって仕事にとりかかる。



「いまお前はどんな気分だ?これから少しはマシな姿に変われるんだからハイテンションでいてほしいな」



 善悪ぜんあく正義せいぎ、そして報酬ほうしゅう趣味しゅみなど第三者が思い浮かぶ理由でこんな仕事をしているわけじゃない。



 勝利しょうりへの執着しゅうちゃく

 それだけしか実津留みつるは情報を伝えるつもりはなかった。



「あまりボロい仕事じゃないな。いつも思うが」



「見たくない景色をむりやり見ているだけだ。気にすることではない」



 指名手配犯しめいてはいはんをつかまえるような仕事。

 現代日本で賞金首しょうきんくびをつかまえられるのは自分たちだけだ。

 手に入れた報酬ほうしゅう理不尽りふじんに苦しめられている人間や動物や植物たちに支給しきゅうされるので暮らしていくのは円安えんやす物価高騰ぶっかこうとうしている世界ではカツカツなのだ。



 覚えたてのことばが自分たちにあるとすればそれは



『勝利』 のみだ。



 特定非営利とくていひえいりだの肩書きはなんにもない慈善事業じぜんじぎょう

 時代遅じだいおくれで自分勝手じぶんかって弱者救済じゃくしゃきゅうさいとはちがうが街に気軽きがるに歩ける人間ではない自分たちはいつか新しい環境へとむかうために勝利を追い求めている。



快感かいかんだけじゃ満たされないな」



 彼はいつも勝利後に気分が悪いとはきすてるように仕事の感想を実津留みつるにぶつけてくる。



報酬ほうしゅうの使い道に困るよな。俺達の場合」



 あと二人賞金首をたおせばこの仕事は他の人間へと変わっていく。

 よけいな規則違反きそくいはんさえなければ順調じゅんちょうに自分たちの方へも継続記念けいぞくきねんとしてボーナスがあるのだ。



「あと二人か。俺達も二人で継続して勝利してきたのはいままで一人のみ。組んでいた人間の安否あんぴは不明。二人そろってここまで来れたのは初かもな」



 やっと自分たちは解放かいほうされる。

 年齢ねんれいで言えば十六歳じゅうろくさい



 この仕事を終えれば大学卒業と同じれきも手に入る。

 慈善事業じぜんじぎょうのわりにずいぶんと待遇たいぐうきびしい。



 誰だ?変態は強者のあかしだと抜かしたやつは?

 昭和しょうわの連中だろうか?

 てめえらはれき経験けいけんでもあんのかよ?

 二人は唾を道にて今まで仕事中に悪口やいやがらせをした人間のしたことを忘れずに最後が近いからと愚痴ぐちを言い合った。



「もう君とこんなやり取りもせずにすむなんてね」



大歓迎だいかんげいだ。でもまた会おうぜ」



 鼻で笑いながらそれはないかもと二人の意思は通じあった気がした。

 実際じっさいはそうでもないかもしれないけれど。



 覚えたてのことばは上品な方がいいとされていた。



 そうじゃない場合でも生きていていいんだな。



 いくつもの見たくもない個人の変態特殊性癖し あ わ せをみせられてきても自分たちは自分たちで影響えいきょうされずにすんだからこそ手に入れたい目的もくてきがある。



 さようならでもよかった。

 二人の賞金首をねらいながら彼と実津留みつるぜん偽善ぎぜんの存在をにくむ。



 勝利はかならず手に入れる。

 あとはそれだけでいい。



~完~

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