29.目覚まし鳥の良い悪い
『みんな入るぞ!!』
声をかけてから、目覚まし鳥達がいる家の中に入る。
『スケおじさん、お疲れ様ぁ』
『スケおじさん来た!』
『今日の果物はなぁに?』
俺が中に入ると、すぐに沢山の目覚まし鳥が集まってくる。
『今日はブブドだぞ。全員分あるから、ちゃんと分けて。後から起きてくるみんなの分も残しておけよ』
『『『は~い!!』』』
『よし、じゃあ今いるメンバーで、ブブドを食べながらで良いから、いつもの話し合いを始めるぞ』
『分かったぁ!』
『僕、みんなを呼んでくるよ!』
『私も!!』
今集まってきていた何羽かが、他の今いるメンバーの中で、起きているメンバーを呼びに行ってくれた。俺はみんなが集まる間に、広い部屋へ移動。そこに置いてある6個の大きなテーブルに、均等にブブドを置いていく。
ブブドとは葡萄に似ている木の実で、目覚まし鳥に人気の木の実だ。そして目覚まし鳥だけど。この目覚まし鳥と言われる鳥達。何を言おう、施設にとって大切な従業員である。
俺がブブドをテーブルに並び終えるとほぼ同時に、続々と目覚まし鳥達が部屋へ入って来た。そしてそれぞれ2つずつ、ブブドを食べ始める。みんなとっても美味しそうに食べるんだよ。
時々、評論家みたいに、今日の木の実はとか、果物はとか、説明口調の目覚まし鳥もいて、俺はそれを聞いて笑いそうになる。しかもその能書きを、周りの目覚まし鳥は完璧に無視して食べているのが、また笑えるんだ。せっかく一生懸命話してるのにな。
みんなが食べながら、いつもの話し合いでも良いかと思っていたけれど。あまりにも美味しそうに夢中で食べているから、みんなが食べおわっれから話し合いをすることに。15分くらいでみんなブブドを食べ終わった。
『さて、それじゃあ今日は、どっちから話しをする? 良い方かそれとも悪い方か』
『う~ん、前は悪い方からだったから、今日は良い方からで良いんじゃない?』
『うん、それで良いよ。みんなは?』
『『『良い方から!!』』』
『よし、じゃあ良い方から、みんな報告してくれ!』
『はい、はい!! 僕のお客さん、ええと番号は301。今日帰った人です。お礼にいっぱいお菓子をくれました!! だから良い人です!!』
『どのくらいもらったの?』
『みんなで食べてって、いっぱいだよ。だから後でみんなに配るね!!』
『『『やったー!!』』』
301号室、と。俺は今出た部屋番号を紙に書き留める。
『じゃあ次は私よ。412。私の好きな匂いの、匂い袋をわざわざ用意してくれたの。とっても良い人よ。いいえ、良い人すぎるから、次にその人が来たら、また私が担当するわ!! どう、この高級な香り』
匂い袋をを首から下げている目覚まし鳥。みんなに匂い袋の匂いを嗅がせようと。羽をパサパサ動かす。
だがその両隣と近くにいる目覚まし鳥は、皆羽で顔を隠し、体をなるべく遠ざけようとし、物凄く嫌そうな顔をしていて。少し離れている目覚まし鳥達も、羽で顔を隠していた。この匂いは……。
俺はなんとなくだけど、香りを感じることができる。これも争いに巻き込まれてからだから、それが影響しているかもしれないけれど。
この匂いの感覚。どうにも果物が腐った、臭い匂いな感じがするんだよな。本人が好きなら良いんだけど、他の目覚まし鳥達に迷惑がかかるのは……。まぁ、これは目覚まし鳥達に解決してもらおう。
『つ、次良いかな?』
『ぼ、僕のお客さんも良い人でした! おもちゃを買ってくれました!! 526です!』
『私のお客さんは、髪飾りをわざわざ作ってくれたわ。それに必ず部屋に戻ってくるたびに、木の実を持ってきてくれたの。332よ』
次々に報告してくれる目覚まし鳥達。今回はいつもよりも、目覚まし鳥達が気に入ったお客さんが多いようだ。まぁ、良いお客さんに対しての基準が、目覚まし鳥達基準だから、時々それはどうなんだろう? と思うときはあるけれど。
『さて、他にまだいるかな?』
どんどん話しを聞いていき、みんなの発言が止まったところで、俺はみんなに声をかける。するとみんな、どう? まだある? と確認し合い、その後全員が首を振ってきた。
うん、やっぱり今日は良い感じだな。良い報告が20件以上もあった。さて問題はこれからだ。
『じゃあ、今度は悪い方。どうかな?』
『はい!! 506! 奴はダメです!! おやつも何もくれませんでした!! 欲しいってお願いしても無視しました!! それにわざと見せびらかして、自分だけ食べたんです!!』
『最悪だ!!』
『ちゃんとやり返した!?』
『うん!! 思いっきり鳴いてやった!! そうしたらビックリして、受付のお姉さんに文句言った。でも僕の話しを聞いて、僕の話しが本当なのが分かると、文句言ったお姉さんに怒られてた! 最後ごめんなさいしたよ。でも、あいつはダメ!!』
『『『うん、そいつはダメ!!』』』
506はダメ、と。後で連絡がくるな。
『あいつもダメよ。せっかく私が起こしてあげたのに、どうせならもっと綺麗なお姉さんに起こしてもらいたかったって言ったの! 目覚まし鳥の中じゃ美人の私に対してよ!!。あいつはもう絶対にお断りよ!』
『……』
『あ~あ、あいつには言っちゃいけないこと言ったな』
『耳、壊れたんじゃない?』
『おい、今あんまり話しかけない方がいいぞ』
シュッシュッと、小さい足で足蹴りをする、今話していた目覚まし鳥の女の子。匂い袋の子じゃにけれど、みんなが少し話していた目覚まし鳥から離れた。うん、この後のご機嫌取りは、他のみんなに任せよう。だけど……。
その客もダメだな。自分で頼んでおきながら、文句を言うのはダメだ。俺はきちんと部屋番号を書き留めた。
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