1.爆発音は日常?

『そろそろマッサージ終わりです、起きてください』


 俺がそう声をかけると、寝ていた人物がゆっくりと目を開ける。と、それとほぼ同時だった。俺からコロッとある物が落ちて。本当に彼が起きるのと、俺のアレが落ちるのと同時だった。


「おう! ……って、ギャアァァァッ!!」


『あ、すみません、頭落としちゃって』


「ふぅ。先生、驚かせないでくれよ」


『そろそろ『骨崩れない』食べないとダメかな?』


「ああ、その方が良い。あれ、結構長い間効くんだっけか?」


『3ヶ月くらいですかね。今日、置いてあるかな?』


「俺もご飯食べてから帰るかな」


『奥さんがご飯を用意して待っているんじゃないんですか?』


「いや、今日はあいつの友人と、ここで遊んでるんだよ。だから勝手に食べてくれってさ」


『そうなんですね』


「もしもレイトンが居れば、誘ってご飯でも食べるか」


『今日は混んでいるんで、このまま直接食堂に行った方が良いかもしれませんよ。はい、終了です。ゆっくり立ち上がってくださいね』


 俺の言葉に、俺のマッサージを受けていた冒険者のピーターさんが、ゆっくりと起き上がるとベッドから降りた。そして腕を上げ背伸びをし、その後腕をブンブン回す。


「相変わらず先生のマッサージはよく効くな。腕が簡単に回るようになった」


『本当は疲れが溜まる前に来てもらえると良いんですけど、みなさん忙しいですからね。いつでも良いですから、気になった来てください』


「ああ! またよろしく頼む!」


『それじゃあ後は、いつも通り受付でハンコを押してもらってくださいね』


 ピーターさんを見送り、俺はベッドの上と使ったタオルなんかを片付けて、他のお客さんの様子を見に行く。すると午前中のお客さんはあと2人で、しかも後10分くらいで終わるということで、俺は先にお昼ご飯を食べに行くことに。


 俺は受付まで行くと、受付担当のジジとニーナに声をかけた。


『それじゃあ、先にご飯に行ってくるよ。何かあればすぐに呼びに来てくれ。最初はリルと食堂に、その後は中庭にいるから』


「はい、分かりました!!」


「ゆっくり休憩してきてくださいね」


『ちなみに午後の予約は?』


「今日はいつもよりも予約が多いですね。今のところ20人ですが、夕方皆様が戻ってくると」


『最低でも10人は増える感じかな。みんなには悪いけど午後もよろしく頼む』


「はい!!」


「もちろんですよ!!」


『じゃあ、お昼に行ってくるよ』


 2人に手を振り、食堂に行く前に俺はある場所へ向かった。俺の大切な子がいる場所へ向かうんだ。今日は子供達と遊んでいるって言っていたから、たぶん託児所だろう。


 託児所へ向かう道を、一応色々な物をチェックしながら歩く。もしも何かの不備があったり、お客さんが何か困っていることがあるなら、それの対応をしないといけないからな。


 何故俺がそんなことをするのか? それは俺がこの施設の経営者で責任者だからだ。だからお客さんのこと、そしてここで働いてくれている従業員のことを考えて動かないといけない。施設を運営する上で、どちらも大切なことだからな。


「おっ、スケ先生こんにちは!!」


『こんにちは』


「スケルン、これからご飯?」


『ああ。これからリルとご飯をね』


「スケさん、この間はありがとう!!」


『別にどうって事ないよ。それよりもまた大怪我して、家族に心配かけないようにしないとな』


 俺が働いている店舗から出てくれば、いつもこんな感じだ。みんなが笑顔で俺に声をかけてくれる。それは従業員だけじゃなくお客さんもだ。俺はそれが嬉しくて、それだけで元気が出てくる。


 もちろんそれだけじゃない。お客さんが施設を利用している時の、とっても楽しそうのしている姿。従業員達のしっかりと働いてくれている姿。時にはお客さんと一緒に、楽しそうにしている姿を見ると、この施設を作って本当に良かった思うんだ。


 みんなに挨拶をしながら、かなり広い施設の中をどんどん歩いて行く俺。15分くらいすると、託児所が見えてきた。更に託児所に近づけば、楽しそうなリルと子供達の声が聞こえてきて。


 託児所の前に着き、中へ入る前に託児所の中を除けば、みんなが楽しそうに遊んでいた。今日はいつもよりも人数が多いだろうか? みんな仲良く遊べているようで良い。時々喧嘩になる時もあるけれど、子供の喧嘩だから可愛いものだ。


 俺はドアの前に付いているベルを鳴らす。すると中にいた、託児所で働いているジェド先生が俺の方を見てきて手を上げた。その隣ではリルが俺に気づきドアに突進しようとして、アマディアスさんに押さえられ。


 ベルを鳴らすのには理由がある。もし急にドアを開けて、子供達が託児所の中から飛び出したら? 何もなければ良いけれど、もしもそれで転んだり、そのまま何処かへ走って行ってしまったら。

 なにしろここに居るのは、普通の人間の子供達だけじゃないからな。一生懸命追いかけても、なかなか追いつけない場合が。


 だから託児所の中には防護柵が設置してあって。託児所に用事がある人はベルを鳴らし。中に居る先生が、防護柵がしっかりと閉まっていることを確認してから、ドアを開ける事になっているんだ。


 先生の合図をもらって、俺はドアを開ける。


『スッケーパパ!!』


 アマディアスさんに押さえられているリルが俺の所に来ようと、さらに首を吊る感じに。


『待て待て、今そっちに行くから』


 俺は防護柵を跨いで中に入る。それを確認してアマディアスさんがリルから手を離せば、思い切りリルが俺の方へ走ってきて俺に飛びつき。子供達も俺の周りに集まってきた。


「スケせんせいだー!!」


「せんせい、あそぶ?」


『まほ、みちゃい!』


『ボールであそぶ!!』


「ほら皆さん、まずはご挨拶からですよ。はい、並んでください」


 アマディアスさんにそう言われた子供達。すぐに俺の前に並んで。


「「「スケせんせい、こんにちわ!!」」」


『『『こんにちわ!!』』』

 

 と、元気な声で挨拶をしてくれた。俺はリルを少しだけ押し退けながら、みんなに挨拶をする。


「こんにちは。みんな今日も元気かな?」


「「「げんき!!」」」


『『『まんまん!!』』』


 みんながブンブン腕を回したり、走り出したり。うん、やっぱり防護柵は大切だな。


「さて、それでスケは昼食ですか?」


『はい、ちょうどキリが良かったので』


「そうですか。皆さん、先生はこれからお昼ご飯です。残念ですが遊ぶことはできません」


『え~!』


「あそべにゃい?」


 まぁ、凄いブーイングだった。そして俺の方をジト目で見てきて。ごめんな。お腹が膨れるってことはないけれど、それでもご飯の感覚を味わいたいし、休憩なんだ。


 そうみんなに言おうとした俺。そんな俺よりも先に、アマディアスさんがみんなに話す。


「ですが私達もお昼ご飯の時間ですからね。今日のお昼のデザートは氷ミカですよ」


「氷ミカ!!」


『ふわあぁぁぁ!!』


「こおりミカ、たべる!!」


 みんなが、わっ!! と、テーブルの方へ移動していく。それを見て何とも言えない気持ちになった俺。俺よりも氷ミカか。氷ミカって言うのは、凍らせたミカンみたいなもので、子供達に大人気のデザートだ。


 だからみんなが、氷ミカって聞いて、とっても喜んでくれたのは良いんだけど。でも俺のことはあっさりと、もう良いのか、と思うと、なんか何とも言えない気持ちに。


「ふふふ、子供達は素直ですね。それで午後はいつも通りですか?」


『はい。なのでリルを午後も頼んで良いですか? 何処かへ遊びに行くと言ったら、自由に行かせちゃって良いので』


「分かりました。リル、どこへ行っても良いですが、行く時は私に声をかけてくださいね」


『うん!!』


『それじゃあ、リル。ご飯を食べに……』


 そんな話している最中だった。


 ボンッ!! という爆発音が聞こえ、少しだけ窓ガラスが揺れる。爆発音がした方向を見る俺とアマディアスさん。子供達とリルといえば、爆発音は無視で、ご飯ご飯の大合唱だ。

 まぁ、爆発にはみんな慣れているからな。みんなが怖がらないことは良いことだけれど、もう少し危機感を持った方が良い気もする。


 それにしても、今の爆発音。施設の南側から聞こえてきたが、今日は一体何が起こった? すぐに連絡が来ると思うけど。


 俺が思っていたことは当たっていた。10分後、託児所の窓の所に、ダイアナが飛んで来た。そう、飛んできた、とはそのままの意味で。宙を飛び、俺の気配を感じて、ここまできてくれたんだ。ジェドが窓を開ける。


『スケ先生大変です!!』


『何があった?』


『ジェラルドがトイレを爆発させました!!』


 何をやっているんだよ!!

       

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る