相性

結婚式の帰り道。

私たちは入社五年目の同期三人で歩いていた。なぜか私はいつもより少し早足で先頭を歩いている。幸せな光景を見て足取りが軽くなっているようだ。


「それにしてもミユキさんの花嫁姿きれいだったね」


純白のドレス姿のミユキさんを思い出し、後続の二人を振り返る。


「いつもはさ、テキパキ仕事して男勝りなミユキさんが今日はとーってもキレイで可愛かったよね」


「まぁもともと整った顔してるから……」


私の言葉に高津くんは少し残念そうだ。ちなみに彼はミユキさんにアタックして玉砕した過去がある。


「どちらかというと可愛いっていうよりキレイ系だけど、今日のミユキさんはめっちゃ可愛かった……」


都筑くんがしみじみと言う。


「そりゃー結婚したんだもん。それが幸せオーラなんだろ」

「うん、女のコはね、好きな人の前では可愛くなれるんだよ」


「なんかさ、俺も結婚したくなっちゃったなー」


またしても都筑くんがしみじみ発言。それに高津くんが即反応する。


「あれ?お前彼女いたっけ?」

「いや、これから探す」

「そうかそうか」

その返事に高津くんは嬉しそうに肩を叩いた。


「でもさ、ちょっと失礼な言い方しちゃうけど、あの旦那にミユキさんはもったいなくね?」


高津くんはこの期に及んでもまだ納得できていないらしい。


「やっぱり相性がいいんだろうな。お似合いだから相性がいいってわけでもないんだぜ。ほら、美男美女で皆からお似合いだって言われてた八木さんとこ別居中だってよ」

「え?!そうなの?知らなかった……」


都筑くんのスクープ発言に私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。八木さん夫婦は三年前に社内恋愛で結ばれた会社イチのイケメンと美女。誰もが羨む理想の二人だった。


「どんなに美男美女でお似合いだと思われてても大事なのは相性なんだよ」

「ふーん、そんなもんなのかなぁ。相性ねぇ……」


わかるようなわからないような、でも二人にしか分からないことってきっとあるのだろう。


――相性、相性、相性……


頭の中で『相性』の文字がゲシュタルト崩壊するほどで考えていたら、不意に私は話し始めていた。


「あ、ちなみに私と都筑くんって相性いいんだよ」

「そうなの?」

「うん、うお座とさそり座は同じ水のグループだから」

「そーなんだ。でもなんで江尻は俺がうお座って知ってんの?そんな話したっけ?」

「え?えっ、なんか誰かと話ししてるの聞いたのかなっ」

「ふーん」

「なぁなぁ江尻、じゃあ俺とは?俺射手座なんだけど」

「えーっと、わかんない。……さそり座はうお座と相性がいいってことしか知らないもん」

「何だよそれ! で、江尻は都筑と相性がいいから嬉しいんだ?」

「ち、違うよ、そんなんじゃないよ!

ただ都筑くんはうお座なんだーって、それだけだよ。ほ、ほらっ、うお座の人なんてたくさんいるし、だって人間の十二分のイチはうお座なわけでさ。だから都筑くんだけが相性いいわけじゃなくて、それにねぇ、星占いなんて全部当たるわけじゃないし……」


途中から自分でも何を言ってるんだか分からなくなっていた。


ふと気づくと都筑くんがこっちをじーっと見ている。


「どした江尻?顔紅いけど大丈夫か?」



その翌日。

今日は何かと忙しい。

忙しさにかまけて散らかった部屋の掃除と食材の買い出し。ホントは結婚式前に行きたかった美容院。給湯器の調子が悪いから管理会社に連絡しとかなきゃ。あ、そういえば好きな作家さんの新刊もゲットしたい……。


「あぁぁぁ~!!」


あれこれ考えてたら断末魔の叫びを上げてクッションに顔を埋めた。

とりあえず一番簡単な私の現実逃避法だ。


♫ ピロピロピロン


そんな私にスマホが脳天気な着信音で追い打ちを掛けてきた。


「な、なんだよぉ~?」と声に出しながらスマホを手に取ると都筑くんからの着信だった。


「都筑くん?!どしたの?」

「うん、江尻さ、今日ヒマ?」

「えっ?えーっとえーっと、うん、特に予定は無いけど……」

「じゃあさ、メシでもどう?」

「え、いいけどなんで?」


一呼吸置いて都筑くんが言った。


「俺なりにさそり座との相性を確かめてみようと思ってね」

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