短編書庫
きひら◇もとむ
未来
連日の熱中症警戒アラート発令。
この猛暑の中、年一のイベントで今週はずっと屋外で仕事だ。
初日、フラフラになりながらもやりきった。
二日目、三日目と疲れが抜けずに身体が重い。
そして四日目が終了した。
心身ともに疲労困憊。限界は既に超えている。
『あと一日乗り切れば連休』
呪文のようにブツブツと呟きながら車に乗り込んだ。シートに座りドアを閉めると同時に「はぁー」と大きな溜息が出た。
☆
お風呂から出てドライヤーで髪を乾かし終わった時にスマホが鳴った。
見ると彼からの着信だ。
「もしもし」
「あ、俺」
「うん」
「今、平気?」
「いいよ。今日も暑かったね。仕事ご苦労さま」
「あぁ。……疲れた」
「大丈夫?」
「多分ダメ」
「えー?!熱とかあんの?深夜外来の病院行ったほうがいいんじゃないの?」
「……うん。でさ、今からちょっとだけ会えないかな?」
「は?今からなんて無理だよぉ。こんな時間じゃ電車も終わっちゃうし」
「いや、それは大丈夫。いまマコの家の前だから」
☆
「こんな時間にどうしたの?」
「仕事きつくてさ。ちょっとシンドいんだよね」
「ダメだよ。そんな時に無理しちゃ。早く帰って休まないと」
「わかってる。だからマコの顔を見に来た。元気になれるから。頑張れるから」
「でも家逆方向じゃん」
「そんなの関係ない。俺はマコに会えれば元気になれるから」
そう言うと両手でぎゅーっと抱きしめられた。
「ありがとう。これであと1日頑張れるよ」
「……ばか」
「え?」
「ばかバカ馬鹿っ!!」
「ハハッ、確かにそうかもな」
「ねぇ」
「ん?」
「結婚しよ」
「は?」
「だから結婚しよ」
「え?」
「コースケが大変なとき、私もそばに居たいもん」
「いや、でもそういうセリフはだな、俺から言うのが……」
「何?私じゃご不満ですか?」
「めっ、滅相もございませんっ!」
「じゃあさ、結婚しよ」
「……はい。よろしくお願いします」
「うむ。では褒美を遣わす。誓いの口吻じゃ」
そう言って少し背伸びするとマコは僕にキスをした。
この先尻に敷かれそうな予感がしなくもないが、彼女となら楽しく暮らせるだろう。
こんな未来が待っていると思えば、猛暑だろうと極寒だろうと何だって乗り越えられそうな気がした。
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