短編書庫

きひら◇もとむ

未来

連日の熱中症警戒アラート発令。

この猛暑の中、年一のイベントで今週はずっと屋外で仕事だ。

初日、フラフラになりながらもやりきった。

二日目、三日目と疲れが抜けずに身体が重い。

そして四日目が終了した。

心身ともに疲労困憊。限界は既に超えている。


『あと一日乗り切れば連休』

呪文のようにブツブツと呟きながら車に乗り込んだ。シートに座りドアを閉めると同時に「はぁー」と大きな溜息が出た。



お風呂から出てドライヤーで髪を乾かし終わった時にスマホが鳴った。

見ると彼からの着信だ。


「もしもし」

「あ、俺」

「うん」

「今、平気?」

「いいよ。今日も暑かったね。仕事ご苦労さま」

「あぁ。……疲れた」

「大丈夫?」

「多分ダメ」

「えー?!熱とかあんの?深夜外来の病院行ったほうがいいんじゃないの?」

「……うん。でさ、今からちょっとだけ会えないかな?」

「は?今からなんて無理だよぉ。こんな時間じゃ電車も終わっちゃうし」

「いや、それは大丈夫。いまマコの家の前だから」



「こんな時間にどうしたの?」

「仕事きつくてさ。ちょっとシンドいんだよね」

「ダメだよ。そんな時に無理しちゃ。早く帰って休まないと」

「わかってる。だからマコの顔を見に来た。元気になれるから。頑張れるから」

「でも家逆方向じゃん」

「そんなの関係ない。俺はマコに会えれば元気になれるから」


そう言うと両手でぎゅーっと抱きしめられた。


「ありがとう。これであと1日頑張れるよ」

「……ばか」

「え?」

「ばかバカ馬鹿っ!!」

「ハハッ、確かにそうかもな」


「ねぇ」

「ん?」

「結婚しよ」

「は?」


「だから結婚しよ」

「え?」

「コースケが大変なとき、私もそばに居たいもん」

「いや、でもそういうセリフはだな、俺から言うのが……」

「何?私じゃご不満ですか?」

「めっ、滅相もございませんっ!」


「じゃあさ、結婚しよ」

「……はい。よろしくお願いします」

「うむ。では褒美を遣わす。誓いの口吻じゃ」


そう言って少し背伸びするとマコは僕にキスをした。


この先尻に敷かれそうな予感がしなくもないが、彼女となら楽しく暮らせるだろう。

こんな未来が待っていると思えば、猛暑だろうと極寒だろうと何だって乗り越えられそうな気がした。

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