俺は、あいを知りたいらしい

星揺

1章

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「翼、時間だ」

俺達しか居ない待合室に兄の声が響く。


「はい、兄さん」

兄の声で俺は、席から立った。

(しばらく日本とはサヨナラ、だな)


「翼、早く行け、時間だ」

吐き捨てるように兄さんは言った。


「そうですね、兄さん。行ってきます。しばらくの間、さよなら」

ひらひらと手を振ることも無く、最低限の荷物を詰めたキャリーケースを転がす。搭乗口へ向かう足は、いつもより少し軽かった気がした。


「翼…」

少し進んで遠くから兄さんに話しかけられる。

「何ですか?」

(自分で早く行けって言ったじゃないか)


「オレはお前に期待していない」

(キッパリ言ったな)

ストレートなその言葉が、兄らしかった。

「でも」

兄さんがじっと俺を見つめる。


「せいぜい、オレの役に立つ情報を持ってこいっ!」

兄の顔はいつものすかした顔とは違って赤みを帯びていた。


(ファンクラブの人が見たらどんな反応するんだろう)

兄のファンが今の兄を見た時を想像して笑ってしまう。

「なんだよ」


笑い声が自然と零れていたらしい。

(兄さんには言えないや)


「何でもありません!当たり前ですよ。」

兄さんにまで届くように、少し声を張る。


「そうか…。またな!」

「はいっ!わたくし灯阿あかしあ翼。灯阿家の為、尽くすことを誓いますっ!」

(半分くらい、嘘だけど…)

肩越しに見た兄さんは少し口角が上がってるように見えた。

(以外だな)

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