英雄日記

@2Zhiroaka

第1話 英雄日記

このここに書き記されている物語は一人の少年が英雄になるまでの物語である——————




その日は雲一つ無い晴天だった。

俺はいつも通り日課である読書をし、ある程度満足した後部屋を出てお母さんに挨拶をした。

何一つ変わらない平和な日々。


いや、あったな。一ついつもと違うこと。


それは今森に一人でいることだ。

俺の故郷の村は全体からみれば小さい方で、もちろん村人は少ないし、裕福ではないだろう。

少し歩いたところには大きな街があり、そこに出稼ぎに行くものや、家で花を作ったり…まぁ、いろいろだ。

だが、一番の資金源はむらの周りにある森からだろう。そこから魔物を刈ったり、木の実を取っている。意外と弱い魔物の出現率が高いことや豊富な

自然があり、冒険者でもない俺たちにとってとてもありがたい場所なのだ。

裕福ではないものの、生活に困らない程度にはお金は入ってきていたし、同じ環境に生きている村人は俺に優しかったので、幸せに暮らしていた。


まぁ、今一人で森にいる理由とは全くとして関係がないのだが。

理由として一言で表すのならば興味と憧れだろう。

俺は村人たちが出稼ぎに出ている場所でさえ、知識として本から知っただけだ。実際に歩いたり、感じたり、見たり、一切してこれなかった。

単純に外の世界をみてみたかったのだ。

そしてもう憧れだ。こちらのほうが理由として大きいだろう。

狭い部屋で与えられたのは外の知識をつけるための本だ。唯一親から与えられたプレゼントはとても嬉しかったのを覚えている。嬉々として読んだ多くの本は俺を魅入らせるのには十分だった。

しばらくして、俺は一つの本に手を付けた。

題名は『英雄日記』

著者は書いていなかったが、その内容は素晴らしいものだった。仲間とともに苦難を乗り越え、

守るべき民を幸せへと導く…

きっとよくあるものなのだろうが部屋の中で過ごしてきた俺にとって大きすぎる刺激だったのだ。

自分もこんなふうになりたい…!と考えてしまうほどに。


そう。今俺は家から、いや村から脱走しているのだ。おかげであたり一面森が広がっていた。

森というものも本でしか読んだことがなかったが、

やはり現実とでは何もかもが違うものだった。

自分よりずっと大きい木。動く虫、動物、どこからか聞こえる何かの鳴き声。

俺今生きてるんだなぁ

と俺は歓喜に包まれていた。———————————————————————

夕方。脱走をしてきたのは朝なので、かなり時間が経ったと言えるだろう。辺りはすでに暗くなってきており、だんだんと見えづらくなる。

だが、ここでやっと不安が湧いてきた。


「疲れたぁ…おなか…すいたぁ…喉もカラカラ…」


脱走のときにご飯や水を持ってくればよかった。

そんな今更な考えが脳内をよぎる。

更に言ってしまえば今自分がどこにいるのか、どこに向かっているのかすらわからない。

更に更に言えば、人生こんな長時間歩いた試しがなく 、ここまで歩けているのが奇跡だろう。

おそらくだが、筋肉痛?というものが全身で起こっている。我ながら天才的な状況説明だ。


だがしかし!俺はこんなところで諦めるような人間じゃあない!英雄になるためにはこんな試練も乗り越えられる!


二日目。夕方。

これだめかも…

諦めかけていた。


昨日の夜。布団もなしの野宿は

多少好奇心からワクワクしていたが結果として

次の日の朝に筋肉痛の体が痛めつけられただけだと気づく。その体で動くのはかなりきついものであり、距離で言えば昨日の五分の一といったところだ。頑張ったほうだと思っているが、

道中人っ子一人としていない。これは本当に絶望だ。体的にももう動けない…


「はぁっ…は…ぁ…」


あれやばい。クラッとする。視界が…歪んで…

頭…いたい…お腹も…空いたなぁ…


ドサッ

…?


あれ倒れた…目が…閉じて…


俺の意識はそこで途絶えた。

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