第6話 委員長の秘密
翌朝。
遥と仲直りをした俺は、いい気分のまま委員長に話しかけた。
「おはよう、委員長。ちょっといい?」
「山下くん、おはよう!今日は機嫌がいいね」
委員長は相変わらず笑顔が素敵だ。
「あ、うん。昨日、委員長のおかげで遥と仲直り出来たよ!」
「そうなの?良かったね!」
委員長は自分の事のように喜んでくれた。
「何かお礼がしたいんだけど何がいいかな?」
「えっお礼!?別にいいよ~」
「そんな事言わないでよ。俺がお礼をしたいんだ」
俺が真剣に頼むと、
「ん~…分かった。じゃぁ放課後までに考えとくね」
委員長は渋々折れてくれた。
「分かった」
委員長との約束を無事に交わすことが出来たので、自分の席へと戻った。
すると、後ろの方で遥と佐倉が話しているのが聞こえてきた。
「遥さぁ~今日は随分と機嫌良くな~い?」
佐倉美月。
肩までの金髪に緩いウェーブ、濃いめの化粧。
ボタンが三つほど開けられたブラウス、覗いた胸元に光るネックレス。
スカートなんて「それもうパンツ見えるだろ」ってくらい短い。
つまり佐倉はギャルと呼ばれる人種だった。しかも男を何人も弄ぶビッチとい噂もある。
また、遥を自分と同じ道に引き込もうとしている奴だ。
なので俺はこいつがとにかく嫌いだ。
女子にもこいつを嫌ってる奴は結構多いらしい。
「え~、そんな事ないよ~」
てかなんで女子は喋る時こんなに声が高くなるんだ。
遥も俺と喋る時なんて超低いってのに。
「ほんと~?」
「ほんとだってば~」
二人はキャッキャと甘い声を出し合いながらいちゃついている。
マジでお前ら百合かよ。
そんな事を考えていると、夕夜が朝練から帰ってきた。
「おーっす、大樹!今日は機嫌いいか?」
「おう。実は昨日、遥と仲直りしたんだ」
「へぇ~、良かったな!昨日のメールってその事だったんだな」
「あぁ……昨日は誤魔化して悪かったな」
「いや、いいよ。今日教えてくれたんだし」
「そうか……夕夜は理解が早くて助かる」
「ま、お前の親友だしな」
夕夜はそう言って自分の席に戻った。
放課後。
委員長から、
『話したい事があるから空き教室まで来てください』
とメールがあったので、急いで向かった。
しかし空き教室にはまだ誰もいなかったので待つ事にした。
すると直ぐに足音が聞こえたので委員長が来たと思ったのだが、入って来たのは遥だった。
「なっ!?お前なんで!!」
「なんか怪しかったから着いてきたのよ。それより、こんな所で何してるの!」
「あ、いや…別に何でもないよ」
「何でもない訳ないでしょ!じゃなきゃこんな所、あんたがわざわざ来るはずないもん!」
「……」
俺はなんて言ったらいいか分からなくて黙る。
「答えなさいよ!」
俺と遥が争っていると今度こそ委員長がやってきた。
「え!?遥ちゃん!?何でここに……」
委員長はびっくりして鞄を落として、床に中身をぶちまけた。
「やっぱりあんただったのね。最近あんた達の仲が妙にいいから怪しいと思ったんだせどーーん、なにこれ……?」
遥は床に散らばった物の中から一冊のスケッチブックを拾った。
何かこの展開……前にもあった様な…。
「あ、それはダメーー!」
委員長が遥を止めようとするが、既に遅し。
遥はスケッチブックを開き、中には男同士の絵がーー。
しかもこの絵、どこか俺と夕夜に似てるような……。
「いや~!!」
委員長は悲鳴をあげ、この世の終わりの様な顔で涙を流している。
彼女のこんな姿は初めてだ。
「何よこれ……。大樹と逢坂くんじゃない……」
じっと見つめるその目はみるみる輝いていく。
「こ……これっ、小原さんが書いたの!?凄いじゃない!」
「うぅ……。ぇ?引かないの?」
委員長は涙を拭きながら、驚いた顔をする。
「引くわけないじゃない!だってあたしも腐女子だからーーぁ……」
ばっか……何で自分で秘密をカミングアウトしちゃうかなぁ……。
「えぇ!?遥ちゃんも腐女子なのーームグッ!」
俺は慌てて委員長の口を塞ぐ。
「委員長、声が大きい!……ここじゃダメだな。どっかに移動しないと」
そう言って手をどけると、委員長は無言で俺を睨み付け怒っている。
「あんたにしては気が利くじゃない!」
「じゃあわたしの部屋でいい?学校から近いし」
「分かった」
俺達は委員長の家にお邪魔する事にした。
「さぁ入って」
「「お邪魔します」」
委員長は学校近くの賃貸マンションに住んでいて、中に入ると少し汚かった。
といってもよくあるゴミハウスみたいのじゃなくて趣味のものが散らばっている程度だが。
「ごめんね~わたし掃除は苦手なの……」
「その割りには食品ゴミとかないね」
「わたし料理得意だから自炊してるの」
「えぇ!?凄いね!」
ひかりも毎日家事してくれるし、なんだか情けなくなってくるよ……俺。
「でもこんなに散らかして、オタバレとかしないの?」
遥はやっぱりそこが気になるみたい。
確かに……。
「よく遊ぶ加藤さんと中山さんは知ってるけど、二人も腐女子だから問題はないよ」
「確かに二人とも陰キャだもんね」
「おいっ!二人に失礼だろ!」
ったくこいつは……。
委員長も困った顔してるだろ。
「だってほんとの事じゃん」
「そうだとしてももっとオブラートに包めよ!」
「ふふっ…」
委員長は俺達のやり取りを見て笑っていた。
「な、なに?」
「二人共、本当は仲いいんだ、と思って」
「そんな事より委員長。さっきの絵……」
俺は委員長に気になってる話題を振る。
「あの絵?山下くんと逢坂くんだけど」
「やっぱり!?なんて事書いてんだよ、委員長!」
「わたしって絵を描くの、好きなんだよね」
「そうだとしても俺と夕夜はダメだ!」
「え~いいじゃん~。遥ちゃんも分かるでしょ、逢×山」
「あたしは山×逢だと思う」
「いや、そこはどうでもいいわ!」
「「どうでも良くない!!」」
……息ぴったりてすね。……二人共。
「ご、ごめん」
怖すぎて謝っちゃったよ、俺。
「なに言ってるの、遥ちゃん。山下くんはどう考えてもヘタレうけでしょ」
「確かに大樹はヘタレだけどそこをあえて攻めにすることでギャップ萌えってのが生まれるのよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ二人共。委員長、放課後に呼ばれた理由って結局なに?」
なんかドタバタして忘れてたけど、俺が委員長にお礼をするって約束だったんだよな……。
「あっ、そうだったね。一緒に買い物に行って欲しいってお願いするつもりだったんだけど、せっかくだし遥ちゃんも一緒に行こうよ!」
「えっそれってーー」
デートじゃないの!?
「いいけど……」
遥は俺が最後まで言う前に答えた。
「やった!ちょうど明日は土曜日だし、明日にしようよ!」
「うん、いいよ」
「あたしも」
「じゃ、俺達もう帰るわ」
「うん、じゃぁ明日、駅前に集合ね!」
「オッケー」
明日の約束を取り付け、俺達は委員長の家を後にした。
帰路を二人で自転車を押しながら歩いている途中、俺は遥に話しかけた。
「良かったな。同じ趣味を持つ友達ができて」
「うん……でも、もしかしたら友達にあたしの事、話してるかもしんないし…」
「ばっか……委員長はそんなことしないよ」
「……あんたって香純の事好きなの?」
「……何でそんな事聞くんだ?」
「だって香純を庇ってるじゃん。それと、質問を質問で返さないでよね。馬鹿みたいだから」
「……へいへい。委員長の事は……好きだけど、それは友達として、かな……」
「ふーん。そうなんだ…」
「んだよ」
「別にー」
もしかして遥はヤキモチを焼いているのだろうか。
そう考えながら自転車を押していた。
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