F4.フィギュリズムとフィギュアーツ

「信良‼ スベリ‼」

「「はい?」」

「フィギュリッパー試験を受けろ‼」

「「フィギュリッパー試験?」」

 何のことだろうか。ハンター試験のようなものだろうか。などと二人は顔を見合わせる。

「何です、それ?」

「受けると何か良いことあるんですか?」

「というより受けた方が得という話だ。それに受かればプロになれるんだから」

 悟の言葉を聞き、二人のテンションは爆上がりする。

「受ける?」

「受ける受ける」

「てか、光月ちゃんは? 私とスベリだけ?」

「ふっふっふ」

 信良の素朴な疑問に、光月は不敵に微笑む。

「私、もう受かってんですよね♨」


「え? 光月ちゃんプロだったの? サイン貰っていい?」

「お前もプロになるんだよ、信良」

 信良の間抜けな回答に呆れる悟は、しかしプロになるには必要なものがあるという。そういうと、悟の身体に変化が現れる。変身というものだろうか。モノクロ漫画からカラー漫画に変わったような、爆発的な色気の移り変わりだ。

「これはフィギュリズムという。スベリにはまずこれを出来るようになってもらう」

「えー‼ むずー‼ てか、お姉ちゃんは?」

 スベリは首を傾げるが、それに答えるのは悟ではなく信良だった。信良の身体も先程の悟のような現象に包まれる。

「お姉ちゃんも出来たの‼ バカリズム‼」

「フィギュリズムだ。しかし」

 信良のフィギュリズムは数十秒ほどで終わり、物凄く疲弊している。

「問題は持続時間だな。信良はその状態をせめて一分耐えられるようにしろ。スベリはまず色気の放出からだな」


「58、59、60‼」

「よし、一分耐えたな。スベリはまだ二十、三十といったところか。スベリはそのままで、信良は次の段階へ行くぞ」

「次?」

「フィギュアーツ‼」

 悟の身体は先程のような状態に加え、風の鎧を纏っているようなエフェクトが追加された。風の呼吸だろうか。

「か、かっけー‼ 風の鎧‼」

「風着という風を切る初歩の技だ」

「わ、私もこんな感じのこと出来るようになるんですかー⁉」

「ああ、出来るさ。だからフィギュリップって競技は、ワクワクして辞められないんだ‼」

 悟の誘い文句に、信良の胸は高鳴る。魂がフィギュリップに吸い取られていくような感覚を覚え、恐らくこの高揚からは一生逃れられないと信良は悟る。人は皆ロマンを求めて生きているのだ。ロマンのない人生など人生ではない。織田信良の小さなロマンスは大きくドーンしていく。ありったけの夢を掻き集めて。

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