家に帰ったら愛美の笑顔
星空ゆめ
家に帰ったら愛美の笑顔
家に帰ったら 愛美の笑顔
扉を開けて玄関に上がると、パタパタと足音が近づき、しばらくしてピタッと止んだ。
目の前に 愛美の笑顔
私は「ただいま」と返し、スーツをクローゼットにかけて、息つく間もなく食卓に向かう。キッチンには、みそ汁をよそう愛美の笑顔。テーブルの上にはデミグラスソースで彩られたハンバーグ、わずかに熱を発しているブロッコリー、にんじん、ポテトサラダ。しゃもじを手に取り米をよそって愛美に手渡すと、代わりにとみそ汁を渡された。はし、はし、と呟きつつ棚から持ち手が黒色と、赤色のものを一膳ずつ取り出し、振り返ると、愛美がちょこんと椅子に腰かけていた。「はい」と言って赤色の箸を手渡すと、箸の一直線に沿うように目尻と口元が横に伸びる。箸を手渡し、愛美の笑顔。
「いただきます」。ポテトサラダに手をつけ、次に小さく切ったハンバーグを口に運ぶ。「おいしい」、おいしい。チャキ、チャキと一人分の食器だけ擦れて音を発していることに気づいた。箸先から顔をあげると、両手に顎を乗せ、ニコニコした愛美が私を見ていた。
米、ハンバーグ、愛美の笑顔。ブロッコリー、にんじん、ポテトサラダ。ハンバーグ、ハンバーグ、愛美の笑顔。日本茶、愛美の笑顔。愛美の笑顔。
ごちそうさまと、両手を合わせ、食器をシンクに持っていき水を回しかけた。食器を洗う私と、私から受け取った食器を拭く愛美。ん~ん~んん~ん~ん~と愛美は鼻歌を奏でだした。私は、鼻歌に併せて口ずさんだ。
ん~ん~んん~ん~ん~
Oh,woah woah woah woah woah
ん~ん~んん~ん~ん~
Oh,woah woah woah woah woah
ん~
woah
ん~
woah
一対だった。
濡れた手をタオルで乾かしテレビの前のソファに腰かけると、同じように濡れた手を乾かした愛美がトコトコと近づき、私の隣に腰かけた。ふんわりとソファが沈み、横に振り向くと、愛美が座っていた。テレビのリモコンに手をかけた愛美は、どうやら映画を観ようとしているようだった。リモコンの矢印ボタンを連打し、私の顔を覗く。再びボタンを連打し、顔を覗く。眼差しが真剣を帯び、矢印を連打した愛美と目が合う。「それにしよう」と同意すると、私の瞳孔に映ったのは、愛美の笑顔。私が電気のリモコンに手をかけ、「消灯」ボタンを押下するのと同時に、テレビのリモコンの「決定」ボタンが押下され、画面が動いた。映画が流れ出したのだ。
映画が流れると 愛美の笑顔
大きく伸びをして立ち上がり、愛美はそのまま風呂場へと向かった。擦りガラスの向こう側から微かに歌声が聞こえてきた。私は、シャワーヘッドをマイクに歌う愛美を想像した。歌声に併せて私も口ずさんだが、自分用のビールを取り出すために冷蔵庫に向かうと、風呂場からの距離は離れ、次第に愛美の歌声は聴こえなくなった。ザーッと、シャワーから流れる水流がタイルを打ち付ける音だけが家に響いている。ザーッ、ザーッと。
「やってらんねえよ」
プルタブをこじ開け、私はビールを一口にほお張った。
バスローブに身を包んだ愛美が目の前を横切り、映画を観ていた時に座っていた位置に再び腰かけた。振り返り、ぽんぽんと、誰もいない隣の席を叩いている。私は缶ビールの残りをシンクに流し、冷蔵庫から日本茶を取り出してテーブルへと運んだ。ぐびぐびとお茶を喉に流し込んだ愛美は笑っていた。
髪を乾かす間、私はじっと、愛美の横顔を見ていた。横を向くと、愛美が座っている。首の角度、わずか90度。時間にして一秒か二秒。そこに愛美は座っていた。愛美の匂いが鼻腔をくすぐった。私のではない、愛美の匂いだ。
ドライヤーを終えて顔を上げた愛美は私を見て笑った。私のではない、愛美の笑顔。
この世界で最も、そして次に大事なものの名を授かって生まれた女、愛美。
さっさと風呂を済ませ、明日から始まる出張の準備を終え、私もベッドに潜った。
「帰ってきたら……」と、今度は私から映画のタイトルを挙げると、愛美は笑ってベッドランプを消した。
「おやすみ、愛美」。徐々に世界が閉じていく。徐々に、ゆっくり、ゆっくりと闇に沈んでいく。
愛美
……愛美
…………あいみ
真っ暗闇の中で、愛美の笑顔だけが光を灯していた。
◆
「……ったく、くそアチィなぁ」
到着するなり同僚が愚痴をこぼし、口には出さなかったが心では確かに同意した。東京の7月の暑さもかなりのものだったが、名古屋のそれは一線を画していた。
「よくこんな……みんな傘も差さずに歩けるもんだなぁ」
同意を求められたが、照り付ける日差しに言葉を遮られ、うんともすんとも返すことができずにいた。現在の気温は35℃、最高で38℃にまで達するらしい。
「早いとこ行こうぜ。こんなとこ突っ立ってても寿命を縮めるだけだわ」
促されるままに、私たちは名古屋駅から南に向かって歩き出した。「そういえば名駅にはナナちゃん人形ってのがあって……」と同僚の話を聞き終わる前に目の前に6メートル以上の身長を誇る巨大な人形が姿を見せた。
「そうそうこれこれ」と指さして同僚はポケットからスマホを取り出して写真を撮りだした。
「さすがにナナちゃんも涼しげな恰好してるなぁ」
通路の真ん中で仁王立ちしているナナちゃん人形は肩まで出したワンピースを着て、片手の甲に缶ビールを乗せていた。
「あぁ~俺もビール飲みてえ~」
同僚の言葉が、ビールをシンクに流した昨日の記憶を呼び起こした。私は銀色のシンクを啜って懸命にビールを飲もうとする私の姿を想像した。しかしその想像は、ビール片手に笑顔で私に歩み寄る愛美によってすぐに霧消した。
「行こう行こう!ここにいると喉が渇く!」
ナナちゃん人形をに背を向け、私たちは再び歩き出した。ふと車道側に目をやると、ミッドランドなんとかといった施設が視界に飛び込んできた。どうやらそれは映画館のようだった。
映画。
毎週決まって、三本の映画をレンタルしていた。一つは邦画、一つは洋画、一つはアニメ映画。例外はなく、これら三つを一本ずつ借りて、一週間後の返却期限までに見終えることにしていた。今ではわざわざDVDを借りることはなくなり、サブスクリプションで済ませているが、映画を選ぶときにああでもないこうでもないと話し合い、エンドロールが流れている最中にも関わらずあーだこーだと感想を言い合う習慣だけは変わっていなかった。
「映画」
昨晩の寝る直前のことを思い出していた。私が見たい映画のタイトルを口にすると、愛美は笑顔で頷いた。今すぐに、ここミッドランドスクエアシネマでその映画が上映され、私の隣に愛美が座っていたら、それはどれほど幸福なことだろう。それは、人生をなげうつほどの価値あることのように私には思えた。スタバ、TSUTAYA、namco、アニメイト。今すぐ愛美と回ることができたならば、私はどれほど幸福だろう。それは、どれほど!
視線を車道から反対側に戻すと、先ほどまで隣を歩いていたはずの同僚は姿を消し、そこには愛美が立っていた。
呆気にとられる私の顔を見て、愛美はニカッと笑った。
◆
商談を終えた私たちは手ごろなカフェに立ち寄り身体の熱を冷ましていた。
「いや~こりゃダメかもな~」
アイスコーヒーを受け取った同僚の顔には諦めと悲哀が浮かんでいた。
「まぁ過ぎたことを悔いてもしかたのないことだし」
乾杯。まだ昼間を数刻回っただけだと言うのに、スーツ姿の男たちがコーヒー片手に盃を交わしていた。これがビールだったらなぁだのなんだの、ほとんど意味のない同僚の話を聞き流していたが、流そうとしてもそうもいかない単語に、私は本能的に振り向いていた。
「……ちゃん、だっけ?お前の彼女」
驚いた。なにせ同僚の口からその名前が出たことは、これまで一度としてなかったからだ。
「もう結構長いんだってな、お前たち。どれくらい前から一緒にいるの」
私は、東京に引っ越す前から、それよりもっと遠く、学生の頃から一緒に過ごしていることをありのまま伝えた。
「いやそれすげーな。そんな長く付き合ってるやつ周りで見たことねーぞ」
どうやら本心のようだった。というより、彼は本心しか口に出すことができないのだ。
しかし続く言葉はどうしても聞き捨てならなかった。
「しかしなーそれ相手はどう思ってるんだろうな」
私は疑問の意味がわからず、問い詰めるように意図を訊き返した。
「だってさーそんなずっと一緒にいてお互い結婚の話も出さずって、普通じゃないっていうか、いやいろんな形があっていーとは思うけど……」
比較的落ち着いた、静かな店内だったが、同僚の言葉は雑音に遮られ最後まで耳に入って来なかった。彼の言わんとしていることはわかったが、私にそれは無意味だった。いったい、人は他人の愛に対してどれほど理解力を有しているのだろうか。彼の理解はまったく浅はかだった。愚かですらあった。一聴の価値もない雑音でしかなかった。バカバカしい。バカバカしい。あーバカバカしすぎて、私は勢いよくコーヒーを飲み干し、お疲れと言ってその場を後にした。
◆
一週間後、どうでもいい後仕事を終えて、私は同僚とともに帰りの新幹線に乗車していた。流れる景色の一瞬間全ての場所に愛美の姿を認めていた。浜名湖に、富士山に、横浜に愛美の笑顔を見た。同僚の話はもはや聞く価値もなかった。なにか話しているようだったが、聞き取ることまではできなかった。
東京駅で下車し、直帰のため在来線の乗り換えに急ぐ私を引き留めたのはやはり愚直な同僚であった。
「俺はさ、こんなんでもお前のこと心配してんだよ。お前あんまり自分のこと話したがらないし、口数もそんな多いほうじゃないだろ。でもさ、せっかくこうしてなんかの縁で一緒になったわけだしさ、言いにくいことでも絶対言い合ったほうがいいからさ、だから……」
はやる気持ちを抑えきれなくなった私は適当なところで愚直の言葉を切り上げ、乗り換えのホームへと駆け出した。「おい」だのなんだの言って私を呼び止めようとしているようだったが、一度駆け出した歩みを止めることは何者にも叶わなかった。前方に、愛美の気配を感じた。
最寄り駅で下車し、足早に帰路に着く。家に帰ったら、愛美の笑顔。道を塞ぐ野良猫、ドーナッツみたいな形の雲、ガーデニングに凝っている誰かの家の門、近所の中華料理屋、夕方だというのにまだ暑い空気、履き古してぺしゃんこになった中敷き、住職のありがたい言葉がピン留めされている看板、行方不明になった子供の写真、街路樹に止まって鳴いているセミ、下校中の学童の挨拶、セブンイレブンの明かり、そのすべてを無視して家へと帰る。帰る。帰る!
家に帰ったら 愛美の笑顔
家に帰ったら 愛美の笑顔
家に帰ったら 愛美の笑顔
家に帰ったら、愛美の笑顔!!!
ほとんど私は駆け出していた。
勢いよく扉を開け、どすどすと玄関に上がる。突き当りを右に曲がると、愛美の笑顔。そこには、夕飯の支度をしている愛美の笑顔。私を視界に捉えた、愛美の、笑顔!
「ただいま」と嫌に陽気な挨拶をしてリビングにあがったが、愛美の姿はなかった。はじめは風呂に浸かっているのかと思ったが、浴室に人の気配はない。トイレの電気は消えている。洗濯物は取り込まれており、料理の匂いはどこからもしない。それどころか、愛美の匂いすら。玄関に戻りよく見てみると、愛美の靴がどこにもなかった。確かに、予定より少し早く帰ってきてしまった。それならば、たまには自分がとキッチンに立ち、土鍋を取り出して米を水に漬けておくことにした。米が水を吸収するまでの間、二人で映画を観る準備をすることにした。
目を覚ました時には21時を回っていた。どうやら気づかないうちに眠ってしまっていたらしい。起こしてくれればよかったのにと思いながら、部屋中を探し回ったが、どこにも愛美の姿はない。数時間前のメッセージに対する返信もない。靴も、匂いも、どこにも。血の気が引き、身体が冷たくなっていくのを感じる。愛美が、いない。どこにも。その時気づいてしまった。靴だけではない、どこにもないのだ。愛美が使っていたシャンプー、愛美が使っていたヘアアイロン、寝る前に読んでいた文庫本、洋服、バッグそのすべてが綺麗さっぱりこの家から消えている。まるで初めから誰もいなかったかのように、愛美のいた痕跡が消えてしまっている!
状況を呑み込めず茫然自失となった私は気づくと冷蔵庫の前に立っていた。独りでにシャワーが流れ出し、シンクの排水溝からビールがあふれ出した。あふれ出したビールは床を覆い、気づけばくるぶしほどの高さまで浸水していた。ザーッと音を立てながらシャワーは流れ、ビールは刻一刻と嵩を増している。早くここから逃げ出せと本能が訴えかけていたが、どうしても動き出すことができず、ビールは胸のあたりまで溢れだし、とうとう私はビールの海に溺れた。相変わらずシャワーの音だけが部屋に鳴り響いていた。ザーッと、水流がタイルを叩きつける音が、ザーッと。
ザーッ
テレビとソファの間にはカーペットが敷かれている。その上で目を覚ました私はすべてが夢であることを願ったが、家のどこからも愛美の匂いがしないことに絶望した。どこにも、ないのだ。愛美の笑顔が。
愛美のいなくなった家はもはや家としての機能を失い、電気はつかず、蛇口をひねっても水は流れず、冷蔵庫のビールは温くなり、土鍋の中は飽和して米がずたずたになっていた。唯一、シャワーだけが湯を流したが、それは不快だった。
私は、すべてを失った。
◆
一か月、二か月と時が過ぎた。会社の方は休職という扱いになったが、もはや出社する気力は残されていなかった。家に引きこもり、今日まで無意味な一日を大量に過ごした。料理の支度も洗濯も、悲しみによってすべて上書きされた。せめてあの夜観るはずだった映画だけは観ておこうと何度か挑戦してみたが、ついぞ達せられることはなかった。
休職して一週間ほど経ったある日、心配した同僚が私を外に連れ出したことがある。私は、心配の必要はない、少し休めばすぐに良くなると健常であることに努めたが、それも上手くいかなかった。街には愛美との想い出が、まるで手垢のようにびっしりとこびり付いていた。二人で行った映画館、二人で座った河川敷、二人で食べたパスタ屋、最寄りのスーパー、コンビニ、ゲームセンター、すべての場所に愛美の姿を認めた。すべての場所で、愛美は笑っていたのだ。私は同僚を突き放し、一人で家に帰った。
愛の不在は憎しみを、美の不在は醜悪を生みだした。
ある時、思い立って私は家の掃除を始めた。家のあちこちにこびり付いた愛美の手垢を洗い流してしまおうと考えたのだ。長い間怠ってきた風呂を磨き、シャンプーボトルを新しいものに変えた。トイレに消臭剤を設置し、リビングを換気した。玄関の靴を並び替えた。髪の毛一本残すまいと、床を徹底的に掃いた。掃除している間だけは、心が平穏であることを感じ取った。
しかし、時が経つにつれまたしても家は憎しみと醜悪によって満たされた。愛と美が欠落した空間を、いったいどのようにして回復することができるだろうか。それは、神も見放す、決して誰にも能わぬことではないのか。
教えてくれ、どうか。私はどうすれば救われますか。私に「お前は生きなければならない!」と声をかけるのは、いったい誰なのですか!
もっと、光を!
するとキッチンの方から鋭い光が瞬きだした。2か月間放置した土鍋が光輝いているのだ。
よく見ると光は土鍋の中から漏れ出ていた。私は蓋に手をかけ、光を直視した。そこには愛美の使っていたスマートフォンが取り残されていた。スマートフォンは独りでに音楽を流しだす。曲は、愛美で『MAYDAY』。
""
バイバイ 捨ててしまえ
いらない知らないゼンブ
気のせいだったな
逃避してもフリダシにもどっているだけだ
""
何時ぶりか、私は愛美の歌声に併せて、歌を歌うことにした。
""
「"ダレカタスケテ ボクハ ココダヨ"」
「声にすらならない夜を何回も」
「気付いてよ こんな世界でさ 息もしたくない」
「"オシエテ ナンノタメ ウマレタノ"」
「死にたくなるんだよ 聴こえますか?」
「朝がきてしまえば」
「「なんでもない」と笑うメーデー」
""
気づくと、蛍光灯が灯り家中に光が溢れていた。電子レンジはさっきからひっきりなしにBPM143の調理音を鳴らしている。ガスコンロは点火と消化を繰り返し、冷蔵庫のビールはプルタブが弾け中身が飛び出ていた。
曲が終わると同時に家中の扉が開閉を繰り返した。あのシャワーさえも、感動に打ち震えて熱い水滴を流している。テレビの電源が入り、内臓スピーカーから大音量のアンコールが流れ出した。スマートフォンは次の曲をかける準備にとりかかっている。私はテレビの前に向き直り、曲がかかるのを静かに待った。それではお聞きください。愛美で『愛世界』。
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Oh, woah
Oh, woah
Oh, woah
Oh, woah
""
聴きなれたイントロが流れ、愛美の奏でるメロディーに併せて歌った。シンクの食器たちがチャキチャキと音をたてている。駆動音を発せられる全ての電化製品が「ん~ん~ん~ん~ん~ん~」と口ずさんでいる。
愛美が歌い、私が歌う。
愛美が歌い、私が歌う。
一対だった。
""
ボクら あと何回呼吸したら
会えなくなんだっけ?
「どうなんだい 愛は伝えきれたのかい」
ううん まだみたい
「アイラブユー」まさに“新世界”
これがきっとそういう事かな
気のきいた台詞も言えないけど
バイバイまで歌おうか
""
サビに入り会場の熱気は最高潮に達した。シャワーヘッドは浴室を飛び出し、私の手の中に飛び込んできた。シャワーヘッドは手の中でスタンドマイクに代わり、蛍光灯は照明に、ソファは客席に、テレビの中の観客は今や私の目の前にひしめきあっていた!
""
バイバイ それじゃもうお別れらしい
分かってはいたが寂しいもんだ
何処にいたって思い出せるように
歌い合おうぜ この場所で
""
(Oh, woah) oh, woah
会場が一体となり、「Oh, woah」と全員が歌っている。愛美と、私と、観客と、全世界の全てが一体となって歌っている。
そしてライブは、クライマックスに突入する!
""
愛世界
サヨナラ 明日またね
なんてなんて 尊いんだ
アイセイハロー
死ぬほどダサいけれど
""
「キミ無しじゃ多分生きらんないや」
その時、天から齎された声が会場全体に鳴り響いた!
「救われた!」
声の圧があまりにも強く、私はステージから奈落へと落下した。空から、何かがひらひらと降り注ぎ、仰向けになった私の頬を撫でるのを感じた。純白の羽根だ。一枚、また一枚と数を増す。目を開けると、眩い光、目を灼くほどに、強烈な。
そこに、居る。
翼の生えた愛美が舞い降り、私の目の前に降り立った。
愛美は目を伏せ、口元には微笑を浮かべていた。
私は身体を起こし、愛美に「ただいま」と言った。
ステージに上がると、パタパタと羽根がはばたき、しばらくしてピタッと止んだ。
「おかえり」
愛美は目を細くして、ニカッと笑った。
家に帰ったら愛美の笑顔 星空ゆめ @hoshizorayume
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