百合営業じゃ終わらせない!(終わりたくない!)
甘恋 咲百合
第1話 『百合営業しない!?』
恋歌と私は昔から一緒だった。
初めて出逢ったのは確か、幼稚園の年少辺りからで、多分その頃から私たちには大切な約束がある。
『2人がずっと笑い合える関係でいること』
今にして思えばとても漠然とした約束で、でもそれが私たちを繋いでくれている特別で何にも変え難い絆のようなものだった。
子役になったのは2人が5歳くらいの時、私たちくらいかそれより下の子がドラマで演技をしているのをみて同じように演技をしてみたいと思ったから。
(正確にはその子が役で沢山の子と和気あいあいとしているのが私たちの約束と結びついてある種の既成事実のようなものだったから。)
私たちの両親は割となんでもやってみろの精神の人だったから小さいながらテレビの真似をして、セリフを言ってみたり、いわばごっこ遊びに毛が生えた程度。
それでも今の事務所に応募してみると、すんなり合格…社長曰く恋歌は声の通りが良くて華奢な感じ、私はハキハキしていて感情豊かなところが決め手らしい。
「……貴重なお話ありがとうございます。質問は以上になります」
今日はそんな私たちがデビューして10周年、その節目としてインタビューを受けていたところである。
「いつになっても質問されるのは慣れないなぁ…人前で演技するのは自信あるのになぁ」
インタビューも終わり、少しだけ息を整えて緊張でどもりまくって身振りが多くなったり、甘噛みを連発する自分を思い出し今にも爆発しそうな私を横目に恋歌が優しくフォローを入れてくる。
「あはは…でも私は現場だと元気ハツラツ!ってしてて堂々としてる天音ちゃんも好きだけど、こういうところだと緊張しいになる天音ちゃんもギャップがあって好きだなぁ」
そういう恋歌こそ、現場や世間の反応だと清楚な雰囲気で大人な雰囲気が魅力らしいけど、今みたいなおっとりしていてふわふわした喋り方になるのが私は好きだ。
お互いにギャップがあってそれもある種、「演技とは別の括りとして私たちの人気にも繋がっている」と社長はよく言ってくれる。
私としては嬉しいのやらなんやら難しい心境――。
「そういえばさ?この後恋歌の家で勉強教えてもらっていい?明日テストがあるんだ…」
「いいよ、もう仕事は終わったし、このまま直接来る?」
「行く!」
そんな他愛のない会話は周囲からは幼なじみとしての私たちの関係しか映らない。
前はそれでも満足してたし、事務所も同じということで仕事も一緒になることが多くて楽しかった。でも今は…。
私が恋歌のことを恋愛的な意味で意識するようになったのは半年前の私の誕生日の時。
子役から始まってもうすぐ10年目ということで、2人だけのお揃いの物が欲しくなって、2人の名前が彫られたアニバーサリーリングを買うことに。
「わ〜、天音ちゃん天音ちゃん、これ凄く綺麗!」
珍しくいつもの感じと違ってハイテンションな恋歌。
そんな恋歌と一緒にどのデザインがいいか相談している時、ふと恋歌が髪の毛を耳にかける姿に私の胸は鼓動を強めた。
今になって考えると、一目惚れ…にしても少女漫画にありがちな、なんともチョロい思考回路をしていると自分ながらに思う。
それから今まで学校で話す時、帰り道、一緒にご飯を食べた時、勉強を教え合う時…どれをとっても恋歌が輝いて見えてどんどん想いが溢れてきそうな、そんな毎日。
「やっぱりチョロすぎるなぁ…」
「何が?」
まずい、思いっきり声に出てしまってた汗
さっきのインタビューばりに慌てて「なんでもない!」と誤魔化し、下手なことを口走っていないかビクビクしながら恋歌の家に急ぐのでした。子役から10年もこの仕事をやってるにしては色ボケが過ぎる。
結局その後は何事もなく、いつも通りの私を貫き恋歌の家に辿り着いた。
「お邪魔しま〜す!」
「あれ?お母さんたちまだ帰ってないのかなぁ?あ、メール来てた」
「恋歌ママまだ帰ってないんだぁ………」
恋歌ママが居ない…恋歌ママが居ない…恋歌ママが居ない!?
困った、ここに来て予想だにしていない恋歌との2人きりシチュエーションが実現してしまった。いつもは恋歌ママが居るから保たれていた私の理性が…理性が…。
『も〜、恋歌ったら。勉強なんてあとにして私に構ってよ〜』
『あ、天音ちゃん?勉強…するってさっき…』
『え〜?それはそれ、これはこれ、だよ?』
な、ななななな何を考えてるんだ私は!?
さすがに妄想のレベルが色ボケなんて生温すぎるくらいボケすぎている!
――と、1人で勝手にヒートアップしていて恋歌の「買い物で遅くなってるんだって〜」という言葉すら頭に入らなくなっている私を他所に恋歌のスマホが鳴る。
「もしもし、あ、お疲れ様です〜!はい、はい…ほんとですか!?」
恋歌がすぐにスマホを取ったことで我に返る。口ぶり的に多分社長だろう。すごく驚いているみたいだけどなにかあったのかな…。その後一言二言話し終えると、今までに見た事がない目の輝きをした恋歌が狼狽えている私に迫ってきた。
「聞いて天音ちゃん!私、この前言ってたドラマの配役に決まったって!それも主役の!」
我に返った私は間髪入れずに入ってきた恋歌の喜びに満ちた言葉を何とか解読し始めた。
前言ってた…ああ、恋歌が昔から好きな小説がドラマになるとかって最近トレンドに上がってた…そう、確か内容は高校生の女の子が部活の先輩に恋して、だんだん距離を近づけていくとかそんな感じだったような…。
「ほ、ほんとに!?」
思わず本音が漏れてしまったけど、それに気づくはずもなく恋歌は誕生日プレゼントを貰った子供みたいにはしゃいでいた。
……もちろん恋歌が好きな仕事が出来るのは嬉しい…けどドラマで共演した演者がその後…なんてことが100%ないとは限らない。
急に飛び込んできたドラマの話、さっきから狼狽えっぱなしの私は意を決して目の前で喜んでいる幼なじみに向かってとんでもないことを言い放つ。
「ね、ねえ恋歌」
「なあに?天音ちゃん?」
「えっと…その、私たち!百合営業しない!?」
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