風の通り道
西野 夏葉
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風が通り抜けていくような時間だった。
やがて、規則的な寝息が耳に届いてきた。この男の中では、既に切り替わっているのだろう。新しい明日へ。
その「明日」は、寝言のように掴みどころはないにしても、彼にとっては願ってもないチャンスで、自分と明日を天秤にかけた彼が選んだのは後者。彼は愛美のいない明日を選んだのだった。
男の味が混ざった、苦い唾液を飲み込む。もうすぐ自分だけが「昨日」に置いて行かれるという虚しさを、愛美は瞳から溢れそうになったものと一緒に、歯を食いしばって堪えた。
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