ねこのカム

戸崎 遥

猫がいた

 祖母の家に飼い猫がいた。彼はなかなかふてぶてしい奴で、いつもツーンとした態度をとるやつだった。幼い私にとって彼は興味惹かれる存在だった。祖母の家に住み着く四足歩行のもふもふ。そいつがちょろちょろと私の周りをうろつくのだ。気にならないわけがない。

 ある日、私は彼にちょっかいをかけることにした。隙を見て転がっているもふもふの頭を撫でる。もふもふは気持ち良さそうに、ニャアとないた。

 衝撃走る。

 私の胸のうちをポカポカが駆け巡った。妙に愛おしくてたまらない。なんなの、このもふもふは。抱きしめたくてしょうがない。ああ、こんな感覚は知らないぞ。

私は初めて小動物に恋をした。


 もふもふの名はカムといった。祖母はよく噛むからカムという名前なんだよ、

といっていたが、名付け親の叔母いわく自動車の好きな部品からつけたらしい。

たしかに私は噛まれたことが一度もなかった。

 

 あるときカムと戯れたくなった私は以前のように頭やおなかを撫でてあげた。前みたいに喜んでくれるだろう。もう一度、ニャアとないておくれ。

 しかし、そんな淡い期待感とは裏腹にカムは勢いよく私を引っ掻いた。

 しつこい。

そう言われた気がした。

 よかれと思ってやった行動が拒絶され、そのギャップに驚き泣いてしまった。

 母は、

 「猫さんはしつこいととっても嫌がるのよ。」

と教えてくれた。

 どうやら、このふてぶてしきもふもふは、気分屋な性格らしいことを悟った。

 引っ掻かれてできた傷はしばらくヒリヒリとしみる痛さを私に提供した。

  

 痛えな、と思ったけれども、私の心と体に忘れられない跡を残した。


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ねこのカム 戸崎 遥 @haruka_10zaki

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