小さな大人と大きな子供
こた神さま
〜プロローグ〜
彼との出会いは、10年前。
私が中学3年で、彼は、小学5年のクソ生意気な少年だった。
その頃、私は、学校でイジメを受けており、学校へ行くのが嫌で、よくサボって公園で時間を潰していた。
そんな、ある日の日曜日。
私は、いつものように公園へ来ていた。
日曜日だという事もあり、公園には、親子連れや恋人同士が来ていて、何となく居心地が悪くて帰ろうかと、ベンチから立ち上がった時だった。
彼が私に話し掛けてきたのだ。
「お姉さん、いつも、ここに居るね。」
驚いて振り向いた私に、彼は、にっこりと笑いかけ手に持ったサッカーボールを指でクルクルと回した。
『何だ、ガキか……。』
自分もガキのクセに、そんな事を思いながら、そこを立ち去ろうとした私に、彼は言う。
「今日は、ここじゃ、ゆっくり過ごせないでしょ?俺、静かな所、知ってるんだけど、一緒に行く?」
あどけない顔で、そう言った彼を私は、不思議な気持ちで見ていた。
公園から少し離れた場所に、大きな池があり、私達は、そこへ来た。
その日は、丁度、春で桜の花が満開で、微風に花びらがヒラヒラと舞っていた。
「綺麗な所でしょ?」
「うん……。こんな良い所なのに、誰も居ないのね。」
私が言うと、彼は、ニヤリと笑って、こう言った。
「ここは、心霊スポットだから。この池に幽霊が出るから誰も近づかないんだよ。」
「う……嘘……でしょ?」
小さく呟いた私に、彼は、あははと声を上げて笑った。
「うっそぉ〜。」
「もう!やめてよね!私、怖いの苦手なの!!」
少し怒ったように私が言うと、彼は、口元に優しい笑みを浮かべた。
「ごめん……。でも、ここなら、静かに過ごせるでしょ?」
桜の花びらが舞い散る中、優しく微笑む彼は、とても大人びて見えた。
「俺、勇気。お姉さんは?」
「夏樹。」
私が名乗ると、勇気は、片手をスッと差し出した。
「よろしくね、夏樹。」
知り合ったばかりなのに、馴れ馴れしい。
だけど…………。
私は、自然と勇気の手を握り返していた。
「これからは、俺が夏樹を守るから。」
「えっ……?」
「だから、もう……。一人で泣かないで。」
勇気に、そう言われて、私は、何故だか涙が溢れ、子供の前なのに、声を上げて泣いた。
勇気は、黙ったまま、小さな手で、私の頭を優しく撫でてくれた。
何故だか、あの日の事を思い出し、私は、クスッと笑った。
勇気も、もう大人になっただろうな。
私の事なんか、もう忘れてしまったかもしれない。
そんな事を思いながら、新しく引っ越したアパートへ私は、向かっていた。
青い空、白い雲。
そして、美しい桜の花が咲き乱れる春の季節。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます