畦道

@202407

第1話

私は1人で畦道を歩いていました。いつから歩いているのか思い出せません。

目的地もなく、ただ、ぼんやりと真っ直ぐに伸びる畦道を1人でずっと歩いていました。

どのくらい歩いたのか

気がつくと周りに田んぼはなく

水面が地平線まで伸びていました。

「いつの間に?そんなにぼんやりしていたのか」と自分自身に驚いて立ち止まり周りを見渡していると、潮の香りがしたので「ずっと歩いていたし、いつの間にか海まで来ていたのか」と変に納得しました。

改めて周りを見ても前も後ろにも人はなく、今まで歩いて来た畦道が1本続いているだけです。私は少しさみしい様な心許ない様な心持ちになりましたが、こんな誰もいない何もない所にいるのは嫌だったので、また歩き続ける事にしました。

目の前には青い水面とそれを割るようにして続く道があるだけです。私は、また、ぼんやりとしながら歩いていました。

ふと、遠く離れた左側の水面に何か黒いモノが見えた気がしました。

目を凝らしましたが、もう何もありません。気のせいと思いそのまま歩き続けました。

すると、また左側の水面に黒いモノが見えました。

見えたと思った間にその黒いモノは消えました。が、すぐにまた見えました。

少しずつですが

その黒いモノが消えたり現れたりしながら、どんどん私の方へ近付いてきていることに気付きました。私は歩くのを止め、道に突っ立ったまま近付いてくるソレを見ていました。そのうちソレが黒い半円状のモノで水面に出たり入ったりしながら、こちらへ近付いて来ていることが分かりました。

私とソレとの距離が2メートルぐらいになった時、急にソレが私に向かって水面から飛び出してきました。

「え!?」私の驚きをよそに、ソレは私の胸に飛び込んできました。

ソレは1メートルほどのアザラシです。

私は落とさない様に必死に抱き抱えました。

アザラシは私の腕の中で

「きゅーーーーッ」

と一言鳴きました。

私はこのアザラシが畦道を挟んだ右側の方へ行きたいのだと理解して、右側の水面へそのまま優しく放り入れました。

放り込まれたアザラシはこちらに向かって

「きゅーーーーッ」

と一言鳴くと嬉しそうにどこかへ泳いで行きました。

私はなんだか、とても良いことをしたような気持ちになって嬉しくなりました。

すると、左側の水面から、それを見ていた別のアザラシが1匹同じように

「きゅーーーーッ」

と鳴きました。

鳴き声の方を見た瞬間

そのアザラシもまた、同じ様に私の胸に飛び込んできました。

私は「こいつも右側へ行きたいんだな」と理解し、同じ様に右側へ優しく放り入れました。放り込まれたアザラシは満足そうに、一言鳴くとどこかへ消えました。

すると、また左側から

「きゅーーーーッ」

と鳴き声が聞こえたかと思った瞬間、数えきれないくらいのアザラシが水面から顔を出して一斉に鳴きだしました。

私はギョッとして立ちすくみましたが、次々に私の胸へと向かって飛んでくるアザラシを、一心不乱に受け止め右側へ優しく放り入れ続けました。

何匹何十匹、右側へ放り入れたのか、いつまで続くのか、永遠に感じ始めた頃

私の腕がプルプルと痙攣し始めました。膝もガクガクと笑い出しています。しかしアザラシは飛んで来ます。

「落としては絶対にダメだ!」という強い信念と気合いで頑張りましたが

「もう‼︎むりーーーーーッ‼︎」と叫んでしまいました。

その瞬間、目が覚めました。


「またこの夢か」


これは私が子供の頃から定期的に見る夢です。


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