いたって普通な乙女なんだからね!

木場篤彦

第1話シたくない……あなたとなんて

 自室では、物音ひとつしない静寂がある。

 勉強机の前でキャスターで移動させられるチェアに身体を収め、ヘッドフォンで何かしらを聴いている女子高生がいた。


 潮田凪が自身の手が流れる映像に遮られないように持ったスマホの画面に視線を注がせ、ヘッドフォンのスピーカーから流れる声に意識を集中させていた。

 私の空いている右手は、僅かに開いた脚の下ろしていないショーツの中に忍ばせ、二本の指を膣内で挿れたり抜いたりを繰り返していた。

 ヘッドフォンのスピーカーから流れる声——三人の裸の男性と腰に掛かりそうな艶のある黒髪の女性の気持ちよさそうな喘ぎ声で、自慰行為オナニーを致している私だ。

 夕飯を済ませ、自室に籠って、スマホでAVをオカズに自慰行為に及び、ヘッドフォンで雑音を遮断しているのに、自身の淫らな激しい呼吸は乱れているのが聴こえる。


 スマホの画面に流れるようなハードな男女の行為で満たされない欲求を抑えようと恥ずかしい行為に及んでいる私だが、画面で堕ちていく女性のような場面——逃げ出せないような大勢の男性に失神するまでサれるのは、実際のところ恐怖心を抱いて、実家いえから一歩も出られずに引き篭もるだろう。

 二人の男性でも、私の非力な抵抗は無意味に終わるのが目にみえる。

 私は可愛くない女性なので、そのような心配はしていない。


 私は交際している男性も居らず、過去に遡っても一人の彼氏も居ない。処女な私である。

 恋愛に無縁な私で、惨めになって、いっこうに味わえない快感を妄想して、両親にバレないように密やかに致している。


「おぉ〜い、優等生らしく課題をっ——」

 私が自慰行為に夢中になっている最中に、ヘッドフォンをしているのに聴こえる物音が増えた。

「はぁはぁ……んあっぁあ"……あぁんっんあー!あん、あぁんんっ……はぁんっああ"……あぁあああぁぁんんんっっ!」

 私は淫らな乱れた呼吸と喘ぎ声があわさり、大きくなっていた。

 私の右肩にそっと触れた感覚があり、頭だけで振り返ると、一人の女子高生が私の右肩に片手を置いて、ニヤニヤと笑顔を顔に張り付かせ、佇んでいた。

「ひぃっ……みっ……みれぇ、美玲ぃ。なんで……あんたが?」

「凪ぃ〜ヘッドフォンして、何ぃ聴いてたのかなぁ〜?私って凪の笑い声を聴いたのかなぁ〜?笑い声にしてはやけに艶かしいわ・ら・い声に聞こえたなぁ!」

 私はスマホの画面を彼女が見えないように返し、ヘッドフォンを首にかける。

 新北が上半身を曲げ、鼻が触れ合うような距離まで顔を近付けてきて、いじめっ子のようなニヤけ面で楽しそうに言わそうとした。

 私にとって、新北美玲という友人は自慰行為を致していることがバレてはならないという危険人物だ。

 よりにもよって、新北に実際に目撃されたのが痛手で、言い訳の余地もない。

「な、ななっ……なんだと、思うぅ……?」

「ん〜そうだなぁ……いかがわしい映像とかぁあ〜?ソレをオカズにオナってた、とかかな?どう、正解ぃ〜い?」

「……はいぃ、そう……ですぅ。美玲、このことはどうかっ——」

「言わない言わない。凪にしては、あっさり認めるじゃん!でもコレは、流石に言い訳のしようが無いもんね〜凪ぃ〜い!」

 新北がめざとく私の右腕の手首を掴んでぬるぬるした液体がまとわりつく指をみつめる。

「ほんとに言わない?美玲が広めないって信じて良いんだよね!?ほんとにお願いだからっ!」

「親友を信じてよ、凪っ!私が手に入れたい玩具オモチャをみすみす手放すわけないじゃん。広めて、周囲まわりの視線が気になって不登校になったら、私の愉しみが減るじゃん……親友が不登校になって、無事に一緒に卒業出来なくなったらダメだもん!ふふっ、凪が私に怯えてくれてる……ってことは、凪は私の要求を突っぱねることは出来ないんだよね。そんな怯えないでよ、凪。私は玩具いいなりの凪を壊すことはしないからさ」

「おもちゃ……言いなり……美玲、嘘だよね?親友じゃないの、美玲?ねぇ、美玲っっ!?そんな風に見てたの、私のこと?」

 私は彼女に掴まれた右手を懸命に振り払って抵抗するが、彼女の握力が弱まることはなく、強まっていくので、彼女から逃れられない。

 新北は掴んだままの私の右腕を自身の唇に近付け、そのまま右手のぬるぬるした液体が付着した二本の指を一本ずつ口に咥えた。

「ひぃっ、なっななに……すんの、美玲ぃ?何してんのか分かってんの、あんた……?」

 ちゅぱちゅぱとアイスを舐めるかのように美味しそうに舐める彼女。

「分かってるよ。凪、美味しかった。ご馳走様。でもこれくらいじゃ少ないんだ……欲求不満なんだよね凪は。サれたいんだよね……その願いを叶えてあげるよ、私が。痛くしないから、安心して。私に……委ねて、私の親友いいなり

 彼女が言い終わると同時に空いた片腕をショーツに伸ばし、ショーツを下ろしもせずにぐしょぐしょに濡れたワレメに指を触れ、膣へと指を挿れた。

「えっ?あっ……いやぁ、美玲ぃっ……ちょ……ちょちょっ……あっあぁ……待っ——ひゃん〜っ!あっああ"〜っっ!ちょっ——」


 私は容赦ない彼女に絶頂かされ、チェアの下のフローリングに水たまりができ、今も水たまりに私の身体を伝ったアレが滴り落ちている。


 満足して帰っていった新北美玲は、帰り際にこう言い残していった。


 ——凪、これから私でしか気持ち良くならないようにしていくからよろしくね!


 私は、好きになった男の子に快感を教えてもらいたかったのに……


 私は、明日から新北美玲の友人ではなく、玩具どれいに降格となった。


 明日からの高校生活がより一層の憂鬱となった。


 私は同性愛者じゃないのに……彼女によって——。


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いたって普通な乙女なんだからね! 木場篤彦 @suu_204kiba

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