第7話

 手作り感のある漆喰と木目のカウンターの奥は厨房になっていて、カウンターの後ろには2人掛けのテーブルが4席ほど置いてあった。

 突き当りは床が一段高くなっていて、簡易なステージと音響設備がぶっきらぼうに置かれている。

 オープンして間もない割にミキサーやアンプは軽く埃を被っているようで、他の準備に忙しくなかなかライブスペースを整えるまでには至っていないのだろう。

 マコちゃんは慣れた手つきでドクターペッパーの缶を開け、氷を入れたグラスに注いでどうぞ、と勧めてくれる。

 白髪と黒髪が綺麗に混ざったマコちゃんの髪はよく見るとツーブロックに刈り込まれていて、ラテン系の彫り深い顔立ちに似合っていた。

 きっちりとした七三の分け目は少し立ち上がり、小さな輪のピアスが光る耳元に向かって柔らかなカーブを描いている。

 伏し目がちに肩を揺らして、小刻みにグラスを磨くマコちゃんは凛として見える。

 中肉中背の特徴のない体型に古着のアロハと何気ないリーバイスを合わせているだけなのに、自分の年代や背格好にはどんなものが合うのかをよく知っているようで、何というかやる気に満ちている感じがする。

 天井に吊り下げられたスピーカーからは抑えめの音量でTylaのWaterが流れていて、メロウなのに情熱的な感じが心地良い。

 南アフリカのアマピアノというジャンルだと、タカオが言っていたのを思い出す。


 マコちゃんはグラスを磨きながらお嬢はこの辺に住んでいるのかとか、今日は休みなのかとか、仕事は何をしているのかなどを軽快なテンポで聞いてくる。

 私は少し遠くに住んでいて今は彼氏の家に遊びに来ていること、フリーランスでグラフィックの仕事をしていることなどをハイローラーを齧りつつもたもたと答えた。

 彼氏の家に遊びに来ていると声に出したから、頭の中にタカオの顔が浮かんでくる。

 大きな体に大きな手、浅黒い肌とブレイズに編んだ髪に、切れ長の涼やかな目元と薄い唇が少しファレルに似た雰囲気の、優しそうにも冷酷そうにも見える表情。

 昨日の夜眠りに落ちる前に見た少し苦しそうなタカオの顔も思い出し、疚しさからカウンターの端の方に目を泳がせると、そこには一面にポラロイド写真がピンで留めてあるコルクボードが立て掛けてあった。

 バーのような場所でグラスを片手に、楽しそうに笑う2人組や3人組。ところどころにマコちゃんらしき顔も見える。

 これはバーをやっていた時のですかと聞いたのとほぼ同時に、その内の1枚にタカオが写っているのを見つけた。

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