第5話

いつものように魔石を狩りに出発する。


やはり、この拠点の岩山周りには魔物どころか動物もいない。


それが気になる点ではあるが……こちらとしては好都合なのでまぁ良しとする。




獲物を探して遠出をすると、複数で行動しているゴブリンらしき反応を感知した。


1体だけ魔石の反応が少し強いが……見てみればわかるか。


ある程度距離を詰めて双眼鏡で見てみると、ゴブリン4体を確認した。


魔石の反応と数が一致したのでその集団を狩ることに決め、ローション罠を設置できる場所を探す。


ちょっと狭いが、近場では此処ぐらいしかないか。


まぁ、此処まで誘導する前に数は減らすつもりなので大丈夫だろう。


そう考えてその場に罠を設置した俺は、右手を魔鎧で覆ってからボルトがセットされたクロスボウを作成し、再びゴブリン達に近づいた。



「……」



3体は棒持ちで、残る1体は手ぶらだが腰に紐で袋を下げている。


荷物持ちか?それにしては袋が小さいし、魔石の反応が強いのはあいつなんだよな……まぁいい、あれ以外の棒を持ってる奴を先にやるか。


リーチが長い奴は単純に厄介だし。


まずは……あいつだ。



バシュンッ!ドッ


「ギ」


……ドサッ


「ギ?……ギギャッ!」


「ギャギャ!」



1体が倒れたことで、驚き慌てるゴブリン達は周囲の警戒を強める。


放ったボルトは頭に当たり、すぐに魔力として回収したので飛んできた方向がわからないようだ。


まだこちらには気づいていないので、もう1体倒しておく。



バシュンッ!ドッ


……ドサッ



「ギッ!……ギャギッ!」

「ギィッ!」



2射目には気づいたらしい棒持ちゴブリンが俺を見つけ、手ぶらのゴブリンと共に向かってくる。


俺はすぐにクロスボウを魔力に戻して腹部も魔鎧で覆い、宙に浮いて罠の方へ向かった。




ガサガサ……ガサッ!


ズルッ、バシャン


「ギィッ!?」


バシュッ、ドッ


「ギギッ!」



草むらから出てきた棒持ちが罠で滑り、そこを再度作成したクロスボウで射る。


やや遅れて来ていた手ぶらの1体は罠に気づいて足を止めたが……2、3mしか離れていないので確実に仕留められるな。


そう考えてクロスボウを魔力に戻し、再作成しようとすると……手ぶらのゴブリンは腰の袋に左手を入れ、右手をこちらへ向けてきた。



「ギャギガギガグガギ……」


「?」



何か言っているようだが……もしかして命乞いか?


腰の袋に入っている物をやるから見逃せとでも言っているのだろうか。


魔石で魔力を稼ぐ必要がある以上、そういうわけにもいかないのだが。


それに……どうせいつか狩ることになるだろうし。


というわけで、再びクロスボウを作ってそのゴブリンに向けたところ、



「ギャギガ!」



と奴が叫び、それと同時にこちらへ向けられていた右手から炎が放たれた。



ボウッ!


「うわっ!」



魔法か!?


咄嗟に左腕を魔鎧で覆い、身を守るように肘を曲げて前に出す。


だが、向かってくるのは炎だ。


当然、魔鎧で一回り太くなった程度の腕では防ぎきれない。


そう思っていたのだが……



「……マジか」



俺の前には身を隠せるほどの黒い壁が出来ており、向かってきていた炎を全て防ぎ切っていた。


ダメージ自体は発生していたようで、その分を肩代わりした魔力は消費されてしまったが。


壁は左腕から出現しており、触れてみると触感があるのでこれも魔鎧であるらしい。


その分、魔力の消費は激しくなっているが……大きさと形を変えられるんだな。


自分一人なら全身を魔鎧で覆えばいいが、守る対象がいる場合には使えそうだ。



「ギ……ギャギガギ……」



腰の袋に手を突っ込んだまま、再び何らかの言葉を発するゴブリン。


魔法らしき現象が発生していたし、呪文か何かだろう。


俺はそれを……そのまま待っていた。


数秒後、ゴブリンは再び炎を放つ。



「ギャギガ!」


ボウッ!


「……ダメか」



向かってくる炎は前回と同じように俺の盾に防がれた。


それは……俺の試みが失敗したということになる。



バシュッ、ドッ

バシュッ、ドッ

バシュッ、ドッ


「ギッ……」


ドサッ



手ぶらのゴブリンはクロスボウを防ごうと腕を上げたので1発では倒せなかったが、何度か撃ち込み、頭に命中させて倒すことができた。


先程、ゴブリンの魔法に対して俺がやろうとしたのは、"魔法を魔力として吸収する"という実験だ。


敵は1体だし、状況的に試せると判断して試したのだが……残念ながらそれは無理だったようだ。


魔法は魔力そのものではなく、魔力によって引き起こされた"現象"という扱いになるのかもしれないな。




実験は残念な結果に終わったが、1つわかったことがある。


魔物が魔法を使うと、そいつが持つ魔石の魔力が減るということだ。


2発で大体半分ぐらいになっている。


とりあえず、魔法を使うやつは優先して倒すことにしよう。


魔石の魔力を減らされるのは困るからな。


そう考えながら魔石の回収に取り掛かろうとしたところ、魔法を使っていたゴブリンが持っていた袋に目が行った。


魔法を使う時、2回ともこれに手を突っ込んでいたな……


気になったその袋を手に取ると、その中身を確認する。



「……?」



入っていたのは赤い石だ。


ビー玉よりも一回り小さく、きれいな球体というよりはあまり加工をしていない自然な形に見える。


2、3個しか残っていないが、このゴブリンはこれをどう使ったんだろうか?


触れながら呪文らしき何かを言っていたが……当然覚えていないので自分も試そうとは思わず。


その石を服のポケットに入れながら、魔石の回収を始めようと右手に魔鎧を纏う。


すると……仕舞おうとしていた赤い石の1つが消え、それと同時に



ボゥッ!



と右手が火に包まれた。



「なっ!?……え?」



驚いて一瞬慌てた俺だったが、過度な熱さを感じない事に気づいて右手を観察する。


燃えているのは右手だけで、手首から上に異常はない。


ということは……魔鎧の範囲だけか。


その右手で落ちている木の葉に触れてみると、普通に火が燃え移った。


どうやら、赤い石で魔鎧の性質を変えることができるらしい。


魔力の消費は幾分激しくなるようだが。


一度魔鎧を解除し、赤い石に触れず魔鎧を再び使うと……いつも通り。


ふむ。


何かに使えそうだし、見つけたら拾っておくか。


今まで見た覚えはないが……それは俺が魔石以外の物を回収する気がなかったからかな?


と考えた俺は、魔石の回収を終えてから狩りを再開した。





その日の狩りを終え、拠点に戻った俺はとりあえず風呂に入る。



「結局、赤い石は見かけなかったな。まぁ、魔石以外に気を取られて魔物に奇襲されるわけにもいかないし、必要なら"紛い物"で作ればいいか……お」



呟きながら風呂を出ると雪が降っていた。


本格的に冬入りか……というか、この辺りも降るんだな。


実家の方では多くて10cmほどは積もっていたが、この辺りでも同じぐらい降るのなら気をつけないと。


実家か……餅とおせち、用意するか。

5年ぶりだし、ちょっとお高い物にしてしまおう。


これまでに気づいたことだが、知識の詰まった本とは違って基本が写真であるメニューは比較的低コストで作ることができ、それを参考にして欲しい物を作成すれば魔力を節約できるのだ。


まぁ、メニューの中で作らなかった料理の分だけ魔力は無駄になりそうだが、メニューを魔力に戻せば問題ない。


その理屈で言えば知識の詰まった本も無駄にはならないが、この世界の文字ぐらいしか勉強する気はないからな。


とりあえずは……今日の夕食を決めよう。



「よし、今夜はチーズドリアと野菜たっぷりのミネストローネでいくか」



そう言って俺はテーブルの上に料理を作成し、とある店のメニューを魔力に戻すと食事を始める。



「うん、んまい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る