あの丘の家
涼野京子
第1話 幼き人
ここは、どこにでもある”普通の村”だ。でも不思議なことが起こるともっぱらの噂。
私はこの村で育ってきた。といってもまだ10歳だけどね。同級生はみんな子供っぽくて話が合わない。たった10人しかいない同級生だけど。綾子ちゃんて、なんか生意気だよね、上から目線だよねなんて言うから嫌いだ。私はいつも正しいことを言っているだけなのに。ハワイってどんな国?(ハワイはアメリカだってーの。国じゃねーんだよ馬鹿。小5にもなってまだそんなこと言ってんのかよ)とか、的外れな質問をしたり、男子たちはプロレスごっこにハマっていたり(女子は女子で今はやっている誰それがかっこいいだの)子どもっぽくてどうしても私はこの空気に馴染めない。そんな子どもたちの相手をしているの担任のすみれ先生だ。名前に似合わず、地味な人でいつも前髪をきちっと固めてスカートは膝丈で色気のないいかにも堅物そうな人だ。でも先生の秘密を知ってから私は先生から目が離せない。
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私は塾の帰り道に必ず商店街を通るようにしている。夜の商店街はスナックや居酒屋に入り浸る大人たちをみて絶対ああはならないと戒めのために通っている。私の塾の方向から見て商店街の最後の店と言ったらいいのか、そこは昔からあるスナックでなんでも70歳のママがいるらしいのだ。私の父もそこに良く通っている(父のせいでスナック嫌いというのもある)ので、酔いながらその話を聞いた。
「最近、かわいい子が入ってきたんだよ、なんだっけなー名前。れんげ?コスモス?」
「お父さんいい加減にしてよ。もうその話はいいから早く寝て」
「だってさー本当に綺麗な子だったんだよ。名前が思い出せない」
何度目だろうか。このやり取りを数回繰り返している。いつも酔っぱらうとお父さんはしつこい。同じ話を何回もするし、記憶もあいまいになる。急に叫んだと思ったらバタンと倒れて気絶したように眠る。今日は突然、ランドセルにしまおうとした私の漢字練習ノートの表紙を見るなり、ああそれだー、すみれだーと叫んで倒れた。すみれって先生の名前と同じじゃんと思っただけでこの時は気にも留めなかった。これが5日前の話。その次の日も塾があったのでいつも通り歩いていると、例のスナックから”すみれ”らしき女の人が出てきた。目が合うと微笑んですぐ店の中に戻っていった。一瞬の時間だったけれど私は先生だと思った。いつも眼鏡をしていて目立ってないれど先生の右目の下にはほくろがある。その女の人にも全く同じ位置にほくろがあったのだ。先生の秘密を知ることができた私は次の日から先生をじっくり観察し始めた。でも、特別変わった様子はない。いつも通りの授業を行い、いつも通りにさようならのあいさつをする。もしかして先生はあの時目が合った子を私だと気づいていないのかと思ったので先生を待ち伏せすることにした。
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