一章_10

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※注意

今回の話、女性が襲われるシーンがあります。

苦手な方は飛ばされることをお勧めします。

ご注意ください。

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 ギルが視界の端に捉えていた騎兵の一団はアルケライオスが率いていた部隊の中で数少ない八名の騎兵である。アルケライオスがティグラネスの軍についていくと決めたときに急遽招集した貴族家の三男以下の部屋済み達で構成されていた。


 先頭の男が馬を駆けさせながら剣を抜き、村に向かって走る村人に追いつくと背中を斬りつけてそのまま駆け抜ける。


 スカッとした。血の匂いが鼻を刺激し、手に残った生々しい感触が男を興奮させた。


 先頭の男を含め、この八名の男達は皆、自家では肩身の狭い思いをしていた者達ということで共通していた。兄である長男・次男は家を継ぐ次代の当主とそのスペア。長男は勿論のこと、スペアの次男であっても戦や病の絶えない世の中のこと長男にいつ何があってもおかしくないと家格にあった教育が与えられる。


 しかし三男を境に家庭内の扱いは一変する。経費の節減として教育費は削られ、衣類などをはじめ与えられる生活用品の質はガクンと落ちる。それに伴って家付きの臣下や使用人達からの視線も軽くなる。それでもまだ三男はスペアのスペアということでまだ良いほう。四男以下となると家庭内では居ない者扱い。最底辺の貧乏貴族よりも酷い生活であった。


 村に突入した八名の騎兵は日頃の鬱憤を晴らすように逃げ惑う村人たちを撫で斬りにし、面白半分で火を放った。

 襲撃の知らせを受けて逃げ始めていた村人たちは、予想以上に早い敵の侵攻と突入してくるなり問答無用の殺戮にパニックになっていた。


 八騎はバラけ、狩りを楽しむように村人を追い回して村中を駆けまわった。

 そうこうするうちに一騎が逃げる若い女を見つける。女は直感的に自分が狙われたと感じると、一緒に走っていた小さな二人の子供に逃げる方向を指さし、自分は二人とは反対のほうへと走った。そんな女の前に男は馬を回り込ませ、女の足を止めさせると馬から飛び降り、まったく躊躇なしに拳を繰り出した。


 突然殴られ吹き飛んだのはリノだった。転がるリノを追いかけるように近づいた男は追い打ちとしてリノの腹に一撃蹴りを入れる。呻くリノの髪を掴んだ男は恐怖と痛みで悲鳴をあげるリノのことなど構わず引きずりりながら大声をあげる。


「おーい! いいもん見っけたぞ!」


 仲間に呼びかけたあと、男は泣き叫ぶリノを蹴り飛ばし、更に馬乗りになって「うるせぇよ、黙れ!」と打擲する。そうしている間に二騎、三騎と男の周囲に集まって来ては馬を降りて「おっ!結構美人じゃん」「いいね、いいねぇ」「やれやれぇ!」と囃し立てながら囲んでいく。


 馬乗りになっている男がグッタリと動かなくなったリノから荒々しく衣服を剥ぎ、自身もズボンを下ろして腰を動かし始める。「次は俺な」「おい!抜け駆けすんなよ!」「ちゃんと順番決めようぜ」と盛り上がるなか、彼らに追いついてきたバクトア配下の歩兵が怒声を放つ。


「何をなさっておられるのですか!?」


「何? 何とはなんだ?! 平民ごときが口の利き方をわきまえろ! 見て分からんか?!ご命令通りに村人を皆殺しにしている最中ではないか!」


「――っ、確かに皆殺しにせよとのご命令でしたが、そうであればきちんと軍務を果たして頂きたい。 それとも、まさか女を犯せと命じられましたか?」


 心情的にはアルケライオスよりも、ティグラネスと当然ながらバクトア側の歩兵は、ほとんど苦し紛れに貴族の男達に抗議した。


「ははははははっ! 何言ってんだコイツ。そんな命令出るわけねぇだろ! 後でちゃんと殺すんだ。別に殺す前に何したって構わんだろうが!」


「あははははっ! まったくだ。 それにほれ、俺達は抵抗する敵の女と一対一の真剣勝負の最中だ。邪魔すんじゃねぇよ」


 ニヤついた男の目線の先で、言い合いなどまったく耳に入らず一心不乱に腰を振っていた男が「うっ……」と言って体を震わせ動きを止める。


「ほら見ろ、早速一人負けちまった。 とんでもねぇ強敵だよこの女。 ははっ!」


「――あぁ…… 負けた負けた、俺の負けだよ。 次、誰だ?」


 ピクリとも動かない女から腰を外してズボンを上げる男と、「次俺な」と言ってズボンに手を掛けながら歩く男を歯噛みしながら見る歩兵の耳に遠くから退き鐘の音が聞こえた。


「お聞きの通りです。 今、退却の指示が出ました。その女は捨て置いてお退きください」


「……チッ! 分かった。退くよ。 先にお前らはとっとと下がれ。 俺達は殿しんがりとして暫く残る。この女だけはキッチリ始末しておかねぇとな」


 突然退き鐘が鳴らされたことで本陣に何かあったと分かろうものなのに、未だ勝手な行動を続けようとする男達に歩兵の男は顔を真っ赤にして怒る。


「お退きください!!」


「うるせぇっ! 平民ごときが!俺達に口答えするのか!!?」


 怒気を含んだ息を深く吐き、説得を諦めた歩兵の男はクルリと踵を返し歩き始める。その男に別の歩兵が駆け足で近寄ってくる。


「ジタル隊長、いいんですか? あれ」


「いいわけねぇだろう!」


 つい怒鳴ってしまった隊長はすぐに冷静さを取り戻して気まずそうに部下の歩兵に謝罪した。


「……すまん。兵をまとめろ本陣まで退くぞ」


「はっ!」


 歩兵の隊長は一度足を止め、憎々し気に振り返って騒がしい貴族の男達を見ると吐き捨てる。


「エイラムの恥め! あれでは盗賊と同じではないか」

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