第2話
鈴峯共学高等学校に通う三年生。
それが私、
「いらっしゃいませ」
「……!?…!…??」
……イケメンだ。サラサラの黒髪に、美人すぎる顔立ち。美しい鼻筋。すらっとしたモデル体型。キリッとした目付きなのに、時折憂いを帯びた表情で天井や外の景色をボーッと眺める。
そのギャップに私の心臓は撃ち抜かれた。
「(え?え?待って待って!顔面偏差値たっか!何でそんなにお顔が綺麗なんですか!?)」
テレビ観る男のアイドルグループなんて目じゃない。本当に同じ人間なのか疑いたくなるレベルのイケメンがそこには居た。
しかも、こんなゴミカスみたいな存在の私に向かってにこやかに笑いかけてきた!!
これは夢か?夢なのか?ちょっと頬を抓って現実か夢なのか確認してみるか…。
「……いった…」
うん、これは間違いない。現実だわ。じゃあ、あれかな。ドッキリ企画の最中か。とんでもないイケメン店員がコンビニで働いていたら女はどんな反応をするのか検証する、みたいな。
いや、仮に本当にドッキリだとしても誰得なんだよそれ。女は全員野獣なんだ。そんなデメリットしかない企画なんてやったら世界中から非難の嵐だ。
「(なら…や、やっぱりこれは…。運命の出会いイベント…!)」
あまりの衝撃に言葉が出なかった。心臓の鼓動が高鳴り、胸が苦しくなる。
「…?お客様?どうかされましたか?」
「……い……ぅ…あ…」
…おい。何やってんだよお前。人間国宝級の王子様が心配して話しかけてきてくれたんだぞ!早く返事をしろよ!処されたいのか?
「………っ」
恥ずかしくなって足早に雑誌コーナーに逃げ込む。何やってんの私。雑誌なんて殆ど読まない癖に。
「ふぅ……」
落ち着け私。とりあえず深呼吸して心を落ち着かせよう。
「(すー……はぁ……すー……はぁ……)」
…よし。少し落ち着いた。
私は普段買わないようなファッション誌を手に取り、ペラペラとページを捲りながら先程のイケメンの店員さんについて考える。
「(何でこんなコンビニにお、男の人がいんの?しかもあんな格好いいとか反則じゃん。……ていうかさっき私、変な顔して無かったよね?大丈夫だよね?ブサイクな顔面が更に酷くなってたらもう人生終わりやぞオイ)」
そういえば、前に6ちゃんねるで、「【超朗報!】コンビニで美人すぎるイケメンが働いていた!!」とかいうスレタイを見た事があった気がする。
そのスレ主が掲示板に上げた写真には、確かに男が写っていた。写ってはいるのだが、写真の解像度が悪過ぎた。オマケに、撮影者が興奮のし過ぎで元々の写真自体が手ブレしているせいもあって、はっきり言ってよくは分からなかった。
当然「嘘乙ww」とスレ民達に馬鹿にされ、そのスレは秒で解散となった。当時、そのスレ板には私もいたので、私も文句の一つでも書き込んでやろうとしたら、急に6ちゃんねるがサーバー落ちして有耶無耶になってしまった。
そのスレ主に殺意を覚えたのは記憶に新しい。
もしかしなくても、あの時スレ主が、言っていたイケメンとはこの方の事だったのではないか?
いや絶対そうだ!だってこの人の笑顔、今まで見たこと無いぐらいに綺麗なんだもん!
だが、ここで一つの疑問が残る。こんなに超絶イケメン店員なのに、どうしてSNSでは話題が一個も上がらないんだ?
男成分が不足したこの世界において、男性の存在は希少価値が高い。だから、少しでも噂が立てば、直ぐに拡散されて瞬く間にネットニュースになる筈……。
何か理由があるのか?それとも何者かが情報を操作している…?
そんなことを考えているうちに、私は手に持っていたファッション雑誌が、いつの間にやら最後のページまで辿り着いていた。
内容?そんなの一切読んでないんだから分かる訳ないやん!そもそもファッションなんか何一つ分かんねぇよ!
慌てて本を閉じて元あった場所に返す。すると、レジの方から声が聞こえてきた。
「ありがとうございました。またお越しくださいませ」
「……ふぁ……」
【悲報】またイケメンの新たな犠牲者が出てしまった様だ。ジャック、私はどうすればいい? どうすれば私は冷静になれる?
心臓のドキドキが止まらなかった。人生初の初恋…。いや、それは嘘だ。初恋は二次元アニメの【ガンダヌ】の葛城 隼人君だ。
三次元なんて糞。二次元こそが至高だとずっと思っていた。だが、今は違う。
「……すき…」
気が付いたら口から想いが漏れていた。…あぁ、ダメだ。もう抑えきれない。生身の人間との恋がこんなに素晴らしいものだったなんて知らなかった。
「……へへ…ウヘヘ…」
さっきのイケメンの人、絶対に私の事を女として意識していた。だって、私の顔を見たら顔を真っ赤にしてたし…(してません)
決めた。
これから毎日このコンビニに通う。あの人が職場にいようがいまいが関係ない。あの人が吸ってる空気を私も吸う。
そうすれば、あの人が常に目の前にいる様な気分になれる。…そんな気がした。
あれ…?そういえば、私って何しに此処に来たんだっけ?
あ、思い出した。
「たい焼きアイス…」
そうだった。たい焼きアイスを買いに来たんだっけ…。気持ちが舞い上がり過ぎて忘れてたわ。
アイスコーナーの前まで行き、ケースの中に入っている冷凍庫を開くと、大好物のたい焼きアイスを一つ手に取る。
さっさと買ってあの人で抜き…ゴホン。さっさとたい焼きアイス買って帰りますか。
…んん?待てよ?
会計って事はあのイケメン様を目の前で崇める事が出来るのでは!? そう考えた瞬間、私は自分の身体が熱くなるのを感じた。
私みたいなゴミカスがあの人の視界に入っていいのか?そんなの犯罪じゃない?
いや、今更尻込みしても仕方ない…か。手に持ったアイスも、このままだとドロドロに溶けちゃうし。うん!もう行くっきゃないやろ!
「いらっしゃいませ」
「……ぅ…ぁ…」
「(ひぇ…。やっぱり無理無理無理ィィ!そんなキラキラした笑顔を私に向けないで!浄化されちゃうって!あば、あばば…)」
「195円になります」
「………っ…」
「あの…?」
待って。待って…。手が震えて財布から小銭が出せないぃ!お願い!早く出て!私の右手!
早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く!
「はい、200円お預かりします」
「……ぅ…あ…」
「5円のお返しです」
「(やったぁぁぁ!!何とか乗り切ったぁぁぁぁぁぁ!!! )」
思わず心の中でガッツポーズをしてしまった。
イケメン様がお釣りとレシートを手渡しする際に、私の手をしっかりぎゅっと握って、お釣りを渡してくれた。
「……ぁ……」
ああ…もう死んでもいいかも……。いや、死んだらあの人に二度と会えなくなるからやっぱパスで。後、触られた右手はもう二度と洗わない。この五円玉は樴条家の家宝にしよっと。
「ありがとうございました。またお越しくださいませ」
絶対また来ます。貴方に会いに。
こうして私は、コンビニに通いつめる事を決意した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます