第41話 クールな同級生、ナンパされる
シルバーナイツを見終わった影山と花子は映画館を出てきた。影山は淡々としていて、隣にいる花子は上機嫌であった。
「ファンタジーアニメの実写化って聞いて少し不安だったけど、中々にクオリティ高かったよね!」
「まあ、頑張ってたね。多少ストーリーは削られてたけど」
「それはそれ。ストーリーが大幅に改編されてなかったら全然ありなんだよ。それにアクションも迫力あってよかった。学芸会クオリティが一番萎えるからねー」
「確かにアクションは良かったな。原作に忠実だったし」
アクションは。そのワードに何かとげのある印象を花子は受けた。
「…んー、陸なんか不満げ?」
「そうだなー、ちゃっとだけ」
「どこがダメだった?あたし的には及第点って感じだったけど」
「あー、ストーリーが削られて登場キャラが減ってたのがなあ。原作1から5巻分の内容やってたけど、3巻の内容ほとんど削りすぎだろ。俺モンガー大佐好きなのに一瞬も出てこなかったぞ!?」
ややテンション高めに話す影山に花子は少し怯んだ。というか引いた。自分の好きなものを語るときのオタクは基本的にテンション高くなり、多弁となるのが習性である。
「モンガー大佐ってマイナーキャラじゃん。別に削っても問題ないし…」
「いやいやいや、あの渋みのあるのがいいんだろ?それに8巻以降の重要キャラよ?それに、大佐の「ひよっこ、やらなければニワトリになれないぞ?」って台詞は強キャラ感溢れていい台詞なんだぞ?それがまるまるカットされてるなんておかしくない!?」
「えー、あたし覚えてないよ。陸ってたまに細かいところにこだわりあるよねー」
「うう、なんでこのエモさを理解して貰えないんだ…!」
グッと涙をこらえる影山。そこまで悔しがることか?と花子は呆れていた。
「ところで、お腹減ったね。そろそろご飯にしない?」
「…んー、まあ、そうだな。ご飯にしようか」
時間は13時40分。お昼ご飯を食べる時間帯であった。
「花子、何か食べたいのある?」
「ラーメン」
「ラーメンか。そしたら、華月行くか」
「行こ行こ」
華月はこの大型商業施設にあるラーメン屋である。濃厚な味噌ラーメンがおすすめで、影山の行きつけの店である。たまに花子も行くことがあるので、花子もその店のことはよく知っていた。店の前に行くと数人、店の前で待っていて、影山と花子も待つことにした。
「相変わらず混んでるよね。この店」
「13時でも混んでるとは。人気店は格が違うな」
「待つのは嫌いじゃないし、映画の感想会の続きでもしながら待ちますか」
「そうだな…ん?」
花子と話していると、店内から1人の少女が出てきた。ポニーテールで茶髪。スラッとしたモデル体型で無表情であるが整った顔立ち。影山はその少女に見覚えがあった。
「あの人、白井惑火だ」
「知り合い?」
「知り合いというか、同級生。クラスは違うけど、有名人」
白井惑火。
影山と同じ桜陵高校の1年生。影山と別のクラスであるが、冬野に並ぶ美人として有名である。冬野が天真爛漫の可愛い系美人で、対して白井は表情の変化には乏しいが、スラッとした体型にクールな様子が見られることからカッコいい系美人という話である。それ以外の情報は特に知らないが、クラスで寝たふりをしてると、まわりの男子の彼女にしたいランキングの話題にはよくでるほどの有名人である。
白井は影山のことには気づかず、スタスタ歩いて行ってしまった。特に知り合いというわけではないので、気づいたとしても話をすることはないだろうが、影山は何となく白井の後ろ姿を見ていた。
「美人だねえ。雪とはまた違った美人というか…」
「そうだな。だけど、それよりも気になったところがあるけど…」
影山は学校で直接会う機会がなかったので、今回白井を見てあることに気づいた。それは、少なからず妖気を感じたこと。つまり、霊感のある人間か、もしくは妖怪であろうと予測した。影山がシリアスな顔で分析していると、花子も影山の顔を見て頷いた。
「花子も気づいた?」
「うん、あの娘、おっぱい大きかったね…」
「…あ?」
影山とは全然違うことを考えていて影山は呆気にとられた。
「あれは、Eはあるか?花子さん的に雪がDくらいと分析するから、あれより大きいとなるとやはりEだろうか…」
「いや、何ふざけた分析してるんだ花子?」
「あ、ちなみにあたしはどれくらいだと思う?」
「興味ないわ!」
「正解はBでしたー、ちょっと興奮した?」
「するわけないだろ…」
「えー、じゃあ陸は巨乳派?それとも雪位の手に収まるくらいのちょうどいいサイズが好き?」
「言えるか!何でもいいだろ俺の好みなんて」
「なんでもいいの!?おっぱいなら何でもいいのか陸は!?」
「そういうわけじゃないって!てか胸の話はもういいだろ」
影山は顔を赤くし照れた表情で話をやめるよう花子に伝えるが、その照れた表情が面白くて花子はニヤッと笑い影山のほっぺをツンツンした。
「顔赤くしてー、照れて可愛いねー」
「子供扱いするな」
「はいはーい」
上機嫌な花子。そんなこんなで店の中に入れるようになり、影山と花子は店内に入った。2人とも同じ濃厚味噌ラーメンを頼んだ。
「おまたせしました~。濃厚味噌2つ」
影山と花子の前にラーメンが置かれる。濃い味噌のいい匂いは食欲を駆り立てられた。影山と花子は「いただきます」と言って食べ始めた。
「んー、相変わらずここのラーメンは美味しいよねー」
「だな」
その後は特に会話をすることもなく、黙々と2人で食べた。食べ終わって会計を影山がすまし、店内を出た。影山がスマホの時間を見ると現在14時30分。家に帰るにはまだ早かった。
「さて、ご飯も食べたし。あとはてきとうにぶらつくか。ゲーセンでも行く?」
「あー、ごめん。あたし、これから用事あるから帰る」
「え?そうなの?」
「うん、もともと15時から人に会う予定会ったのよ。いい時間になってきたしそろそろ行こうかな」
「そっか。なら仕方ない。花子、気を付けてな」
「うん。今日はありがと。映画楽しかったし、ご飯も食べれて満足だわ。じゃ、またねー」
そう言って影山は花子と別れた。1人となった影山はこの後どうしようか考える。そして、ふと、今日が影山がよく読んでいる漫画の新刊発売日であることを思い出した。
「漫画でも買って帰るか」
新刊を買うために影山は本屋に向かうことにした。5分くらい歩き、影山は本屋の前に着いた。すると、そこには先ほど見た白井と知らない男2人がいて、何やら話している様子だった。
「君1人?ちょっと遊ぼうぜ俺たちと!」
「俺たち金持ってるからさ。奢ってやるよ!」
「…」
旗から見て典型的なナンパであった。2人の男に言い寄られていかにも迷惑そうな表情で無言の白井。明らかに困っている様子であった。
(なんか困ってそうな感じだな。あまり関わりたくないけど、同級生として放ってはおけないよな…)
普段は自分から人に声をかけられない陰キャコミュ障ぼっちのくせにこういうときは積極的に行動できるのが影山という男である。謎の正義感で影山は白井を囲む男たちの方に近づいて行った。
「あのーすみません。その子、俺の連れでして…」
「え、何お前?俺ら今この子と話してんだけど」
「だから、その子は俺の連れで…」
と影山が言いかけていると、影山に気づいた白井が突然影山の隣に移動し、腕を組んできた。
「遅いよ。待ちくたびれた」
「え?」
「彼女待たせといて謝罪もなし?」
「え、あ、ごめん」
咄嗟に謝る影山。白井が影山を真剣な表情で見ていて、その目線から「演技に付き合え」という心境が汲み取れたので、影山も協力することにした。しかし、影山の心境としては絶賛ただならぬ状況であった。
(女の子が俺に腕を絡めて…!てか、胸が、俺の腕に…!)
真剣な表情でポーカーフェイスを貫き通す影山の心の中は穏やかではなかった。思春期である影山にとって白井の胸の柔らかい感覚はあまりにも刺激が強すぎた。
「なんだよ彼氏持ちかよ」
「次行こうぜ」
影山と白井の演技に騙された男2人はその場を去っていく。2人が周囲からいなくなったことを確認すると、白井は影山から離れた。
「ありがと。助かった」
「なら、よかった。それじゃ、俺はこれで」
影山が白井から別れて本屋に入ろうとすると、白井が「待って」と言って影山の服をつかんだ。
「まだ終わってない。もう少し付き合って」
「え、何でですか?」
「また誰かに絡まれるかも。そしたら、めんどくさいから」
「そうかもしれないけど、あなたは嫌じゃないんですか?知らない男とずっと一緒にいるのは」
「知らない男じゃない。君、影山陸でしょ?となりのクラスの」
「え、何で俺のこと知ってるんですか?」
「君、有名人だから。あと、敬語いらない。ウザイから」
「わ、わかった。てか、俺ってそんなに有名なの?」
「知らなかったの?冬野と付き合ってる冴えない男って話よ」
「さ、冴えない男って…」
冬野に比べてパッとしない平々凡々なぼっち高校生であることは影山自身も自覚はしていたが、他者からあらためて言われると悲しくなる影山であった。
「てか、俺は冬野とは付き合ってないぞ」
「そうなの?別にどっちでもいいけど、付き合ってないならあたしと一緒にいてよ。君、無害そうだし、君がいればとりあえず男どもから言い寄られないだろうし」
「んー、まあ、いいけど。それで、何に付き合えばいい?」
「映画。見たい映画あるから、付き合って」
映画。影山は先ほど見たばっかであるが、もう一回見てもいいかと、自分を納得させた。
「わかった。ちなみに何見るの?」
「シルバーナイツ」
「…俺さっき見たばかりなんだけど」
「へー、ネタバレしないでね」
「…はい」
見たくないと、言おうと思ったが、白井のツンとした目線で否定することができなかった。ということで、影山はなぜか白井とシルバーナイツをまた見ることになったのであった。
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