第40話 ゴールデンウィークは陰キャに関係ない
5月1日。
世の中はゴールデンウィークというものの最中である。高校生であれば、日頃の勉強の疲れを癒すために遊びに出掛けたり、部活をしているものであれば、それに専念するものもいるかもしれない。それが青春である。そんな同じく高校生である影山陸はというと、どこかに出掛けることもなく、ただただ部屋で一日中ゲームをしていた。そこに青春要素は1つもなかった。
「なあ陸よ。高校生がどこにも出掛けずゲームだけで過ごすのはむなしくないか?」
「ん?別に」
ゲームを夢中で楽しんでいる影山に対し、ベッドでゴロゴロしながら漫画を読んでいる花子が水を差す。しかし、ぼっちを極めている影山にとって花子の言葉はノーダメージであった。
「まあ、友達少ないし遊びに出掛けろって言うのも酷な話か!」
「普通に傷つくようなこと言うのやめろよ…」
「うーん、というか雪誘ってどこかに遊びに出掛ければよかったんじゃないの?」
「冬野はゴールデンウィーク中函館に家族旅行中だ」
4月に友達となった学校一の美少女冬野雪は現在函館で家族旅行中である。ついさっき、五稜郭タワーで自撮りしている写真が送られてきて、楽しんでる様子が見れて影山はほっこりしていた。
「それで友達なしの陸はしょうがないからゲームで時間を潰していると」
「いや、単純に積んでたゲームをやりたかったし」
「よしよし、強がって可哀想に。お姉さんがどこかに連れていってあげようか。映画、カラオケ、プール、どこがいい?」
「いや、それって今花子が行きたいところなんじゃ…」
「細かいことは気にしないのよ坊や?」
影山の頭を優しく撫でる花子。完全に子供扱いである。
「じゃあ、映画でも行く?花子が見たいのはあれだろ?最近流行ってるとか言うアニメの実写化されたやつ」
「そうそう!シルバーナイツ!めっちゃ推しの俳優出てるの!」
どや顔でスマホを操作し、画面に推しの俳優を見せてくる花子。俳優に興味ない影山にとって見てもよくわからないが、やはり、自分が映画を見たかっただけのようであった。
「じゃあ、ゲームいいところまで行ったらセーブするわ」
「OK」
10分ほどして、影山はゲームをやめて、出掛ける準備をした。遊びに行けることになった花子も上機嫌で鼻唄を歌い、服を着替える影山を眺めていた。
「そんなに出掛けたかったの?」
「まあねー。映画楽しみにしてたし」
「そっか。てか、その服装で行くの?」
「ん?」
花子の服装はいつもの赤スカートにシャツというトイレの花子さんスタイルであった。基本的にいつもこの格好であるのだが、一緒に出掛けることになると、コスプレ衣装みたいなので目立つことになる。
「服、着替えたら?せっかく出掛けるし」
「んー、そうだね。着替えるか」
影山の部屋には花子の服が置いてある。花子には家がないので、私物は影山家に置かせて貰っている。そのため、寝泊まりも基本的に影山家で寝ていることが多い。
(幼馴染みというか、もう家族みたいなものなんだよな…)
毎日影山家に花子がいるわけではないが、一週間に4回くらいは泊まりに来ている。それ以外の日はどうしてるのか尋ねたことがあるが、花子曰く「乙女の秘密」と胡散臭いことを言われてから聞くのをやめた。当たり前のように家にいることも多いことから、影山にとって花子は家族みたいに感じることが多かった。
花子は影山の部屋にあるタンスを漁り、出掛ける服を吟味する。そして、「これにするかー」と言っておもむろに服を脱ぎ始めた。影山は花子から目を背け、出ようとした。
「おいおい陸、どこいくんだよ?」
「どこって、服着替えるんだろ?」
「どの服がいいか見てほしいからここにいてよー」
「ここにいたら、お前の下着姿見ることになるだろ?」
「それが?別にいいじゃん」
何言ってるんだこいつ?みたいな表情で花子は影山を見ていた。対して影山は耳を赤くして少し声を小さくして返答した。
「…花子は恥ずかしくないのか?」
「別に~。幼馴染みだし、気にしないよ」
「少しは気にしろよ」
「んー?そっかそっかあ。思春期の陸くんには刺激が強いかー」
クスクス笑いながら、いたずらっ子のように笑う花子。対して影山は否定することなく「…まあな」とだけ呟いた。家族みたいなものとはいえ、異性は異性。小学生6年生ほどの見た目の花子であるが、街中で歩いていれば、それなりに人の注目を集めるくらいの美少女である。そんな美少女の裸体に魅力がないかと言われれば、魅力はあるのである。
「水着は見馴れてるのにな」
「水着と下着は別物だろ」
「それもそうだね。じゃあ、外で待ってて。すぐ着替えて行くから」
影山は部屋から出て、1階の居間に向かった。居間には妹の朝がいてソファーで雑誌を読んでいた。
「兄ちゃんどっか行くの?」
「花子と映画に行ってくる。朝も来るか?」
「私はいい。あと一時間後に友達と遊びに行くから」
「そっか」
「何時に帰ってくる?晩御飯必要?」
「一応六時までには帰るつもりだけど、遅くなりそうなら連絡するよ」
「わかったー、今日はご飯作るのめんどくさいから帰りに適当にお弁当買って帰るから」
「了解」
朝と話していると、2階から花子が「おまたせー」と言って降りてきた。花子の服装は白いワンピースを着ていた。初めて見る服なので、最近買ったものだろうと予測しつつ、影山は花子の服装を見て素直に可愛いと思ってしまった。
「…どう?」
「うん。可愛いよ」
「そう?ならいいか」
少し照れた顔で髪をいじる花子。その後、影山と花子はトイレに向かった。目的は当然、花子の妖術による移動である。
「ホントに便利だな。行きたいときにすぐ遊びに行けるし」
「だからと言って乱用はしないよ。あくまでもあたしが使いたいときに使うだけだからね」
「わかってるよ」
2人はトイレに入り、影山は目をつぶった。次に目を開けると、そこは市内にある大型商業施設の個室トイレの中であった。花子の姿はなく、影山1人であった。影山がトイレから出ると、花子がトイレの前で待っていた。
「そしたら行こう。時間調べたらあと30分で始まるし」
「了解。それじゃ、行くか」
影山と花子は映画館に向かって歩きだした。歩いている途中、行き交う人達がチラッと影山たちを見る様子が見られる。当然影山を見ているわけではなく、花子を見ている。一般人から見て花子は美少女であり、人の目を引く存在感がある。
(まあ、昔からこんな感じで注目は集まっていたけど…)
ここ最近影山は冬野とも友達となり、以前学校帰りに遊びに行くことがあったが、そのときも周囲の人達から注目を集めていた。陽キャであれば、この注目は優越感に浸れるのかもしれないが、陰キャである影山にとっては正直苦痛。コソコソと生きてきた影山にとって目立つというのはメンタル的にきついものがあった。
(俺が見られてる訳じゃないってわかってるけど…まわりの視線が痛い…)
実際周囲の人たちの中には純粋に花子の容姿に目を引かれる者もいるが、中には「何であんな冴えないやつが…?」「似合わねえ」と蔑む声もちらほらと聞こえてくる。そんなコソコソ話が聞こえ、影山の顔色が悪くなっていることに気づいた花子が影山の背中をパシッと叩いた。
「まわりなんか気にするな。男なら堂々としろ」
「すまん。やっぱり、人の視線が慣れなくてな」
「ホント、気が弱いよね。雪といるときもそんな感じなの?」
「まあ、まわりの視線は気になるな」
「ふーん、あたしは気にしないけどね。どうせ、他人だし。何言われてもその人と関わることもないし、気に入らないならぶん殴ればいいだけだしね」
「すげー強キャラ感ある台詞だな」
「でしょ?」
へへっと笑う花子。ふざけた会話をすることで影山の気持ちも少し楽になった。その気が楽になったことで、花子が気を遣ってくれてるのだろうと影山は察した。そんなこんなで映画館に着いた。影山と花子は券売場に向かい、11時半からのシルバーナイツの券を買うことにした。
「陸、お金」
そう言って花子はお金を出すが、影山は受け取らなかった。
「奢るよ」
「いいよ悪いし」
「いいからいいから」
影山は素直に花子からお金を貰い、券を買った。それから少し時間があるので、2人分のジュースとポップコーンを購入し、入場まで待機した。
「ごめん、なんだかんだ全部奢って貰って」
「大したことじゃないよ」
影山は気にせず、ポップコーンを食べる。そんな飄々とした態度を見ながら、花子はふと思った。
(普段なよなよしてるのに、急に男らしいとこ見せるんだからよくわかんないんだよねー。でも、そういうところがいいところでもあるんだよねー)
幼馴染みの性格を分析しながら、花子もポップコーンを食べるのであった。
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