018 採点
ほどなくしてウェルカムドリンクが運ばれてきた。
ついでに新しいフィンガーボウルがやってきて、さらに謝罪された。
ドリンクの提供が遅くなってしまい申し訳ございませんでした、と。
さすがは人気店だ。
フィンガーボウルの水を飲む狂った客に対しても寛容である。
「大変お待たせしました、こちらが前菜の――」
そして、料理の提供が始まった。
純白のプレートに、旬の食材を使った料理が次々に出てくる。
どれがどういう料理かの説明を調理担当者が説明してくれた。
ウェイターではなくシェフが説明してくれるのは初めてだ。
店のこだわりを感じられた。
「残すはデザートだけか」
「お高いだけあって量も十分にありますねー!」
円滑に食事が進んでいく。
フィンガーボウル以外の粗相はしていない。
「アイリス、このお店の料理はどう思う?」
フリックスが尋ねてきた。
「美味しいですよ! お店の方も丁寧で優しいですし、説明も分かりやすくてすごく楽しいです! それに、フリックスさんがこんなオシャレなお店に連れていってくれるとは思っていなかったので感動しています!」
フリックスは「ははは」と笑った。
「ならこのお店の評価は100点満点で何点だい?」
「そりゃもちろん――」
100と言おうとする私だったが、フリックスが言葉を遮った。
「
「……と言いますと? 忖度ってどういう意味ですか?」
「遠慮するなってことさ。たぶん君は100点と言いたかったはずだが、俺が求めているのはそういう聞こえのいい回答ではなくて、より具体的な意見がほしいんだ。むしろ強引に粗を探して『スタッフの足音が気になったので70点』などと言われたほうが嬉しい」
「分かりました!」
そういうことであれば……と、私は全力で考える。
ここまでの流れを思い出して厳しいジャッジを下すことにした。
「従業員の方々に関しては非の打ち所がありません。言葉遣いだけでなく振る舞いも好印象でした。座席も悪くありません。他のお客さんとのスペースが保たれていますし、衛生面も完璧で、内装も綺麗です。なので、これらの点に関しては100点です」
「ふむ」
「ただ、料理のほうは少し減点かなと思いました」
「口に合わなかったのか?」
「いえ、どれも絶品でした。しかし、バランスが微妙だと思いました」
「バランスとは?」
「ただ極上の料理を並べているだけで、テーマ性が見えてこないなって」
かつてライルに教わった。
コース料理で最も重要なのはテーマ性である、と。
その時に受けた説明は印象的だった。
「テーマ性か」
「コース料理って、全ての料理を合わせて一つのものなんだと思います。ですが、ここの料理はどれも主張が強くてまとまりに欠けていると思いました。上手く言えないのですが、100点満点なのに500点くらいになっちゃっている感じです」
「なるほど。すると料理は少し減点か」
「そうなります。とはいえ美味しいのは事実なわけですから、点数をつけるなら90点とか95点とか、そんな感じだと思います」
「すごく参考になった。ありがとう、アイリス」
「いえ! お役に立てたのであれば何よりです!」
「想像以上にしっかりした意見で驚いたよ」
「頑張って考えてみました!」
フリックスは「ふっ」と笑った。
「ところで、気になるかい? 俺がどうして採点を求めたのか」
「はい! ちょうど訊こうと思っていました! 教えてくれるんですか?」
「もちろん。隠すほどのことでもないからね」
そこで一呼吸置いてからフリックスは言った。
「この採点に何の意味があるかというと――」
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