011 大成功
ペッパーマンは興奮した様子で言った。
「どれもお高い野菜ばかりじゃないか!」
その反応を見て、私はしめしめと思った。
思った通り高い値段がつきそうだ。
「そうなんですよ。魔法肥料の長所を活かしました!」
「やるなー!」
ペッパーマンの反応は上々だ。
「それで、いくらで買い取って頂けますか?」
期待しながら訊いてみた。
「そうだなぁ……」
ペッパーマンは全ての箱を見た後、チラリと私を一瞥。
そして、値段を紙に書いた。
「これでどうかな?」
スッと渡された紙を見て――。
「ぎょええええええええええ!」
思わず叫ぶ。
そこに書かれていた数字は50万だった。
「ご、50万!? 本当ですか!?」
「お! その反応はご満足していただけたみたいだね!」
「そりゃもちろん!」
私は15万ゴールドが関の山だと睨んでいた。
それが実際には3倍を超える提示額で笑みがこぼれる。
「本来なら30万が限界ラインなんだけどさ、今年はアスパラガスが不作でなー。例年の倍近い価格になってるんだ」
「なんと!」
「ちなみにカボチャとブロッコリーも高騰しているよ。不作だからね」
不作になると価格が高騰する。
当然のことだが、言われるまで気づかなかった。
「なら不作している野菜に絞って栽培するのが良さそうですね!」
「そうしてもらえると助かるよ! 魔法肥料の畑だと品質も安定しているから、季節や天候に関係なく良い物を提供できるからね」
「なるほど。不作の野菜がどれかというのは、どうやって調べればいいですか?」
「一番は王国農業新聞を読むことだなー。俺たち卸売業者が価格を決める際の参考にしてるから」
「ふむふむ」
新聞ならフリックスのパソコンで読めそうだ。
「あとは八百屋に行くのも手だな。俺が高価で買い取るってことは、八百屋でも高く売られているってことだからさ」
「たしかに!」
「なんにしてもアイリスちゃんが熱心な農家さんで助かったよ! フリックスさんは全然だったからさー」
「もったいないですよねー。これだけの魔法肥料を用意したのに! せっかくの畑が泣いていますよ!」
「ははは。んじゃ、仕事があるからこれで失礼するよ!」
「あ、はい! ありがとうございました!」
「こちらこそ! 次は一週間後に来ればいい?」
「すみません、未定です! またフリックスさんに連絡してもらいますね!」
「はいよ!」
ペッパーマンは木箱を馬車に積むと、「またねー」と去っていった。
「50万ゴールドかぁ! これはフリックスさんに自慢しないと!」
今回は額が多いので振込となった。
そのため現金を見せびらかすことはできないのが残念だ。
ただ、額が大きいので絶対に驚くはず。
私はウキウキで家に入った。
◇
「これにて終了! クソッタレ! 今日も大損だ!」
株式投資で景気よく大損をこいたフリックス。
そんな彼に慰めのお茶を淹れた後、私は売上を報告した。
「50万? すごいな!」
フリックスは声を弾ませてダイニングチェアに座る。
脚を組み、涼しい顔でアチアチのお茶を飲んでいた。
「ちなみに今日はいくら負けたのですか?」
「500万ほどだ!」
「ひぇー」
今日に至るまでの間に、フリックスが株式投資で勝った日は一度しかない。
私と始めて出会った時だ。
それ以降は、基本的に数百万単位で負けていた。
そう、フリックスには株式投資のセンスが全くなかったのだ。
(どうして平然としていられるのだろう……)
フリックスがこれまでに負けた額は3000万を超える。
常人であれば気が変になってもおかしくない。
(よほどのお金持ちなのかな? でも、家の中は質素だし……)
ライルの館にあったようなお高い調度品は一切ない。
彼がお茶を飲むのに使っているカップも100ゴールド均一店で買った安物だ。
「50万も稼いだのに今の給料だとやる気がしないだろう」
アレコレ考えているとフリックスが話しかけてきた。
「問題ありませんよ! 来月までのんびり休みますから!」
「いや、その必要はない」
「必要はないと言いますと……?」
フリックスはカップをテーブルに起き、ニヤリと笑った。
「今後は売上の三割を給料にしよう」
「三割!?」
「そうだ。例えば今回は50万稼いだわけだから、給料は4000ゴールドではなく15万ゴールドとなる」
「なんですってぇえええええ!?」
とてつもない大幅増に目が飛び出そうになる。
「その代わり日給制は廃止だ。だから働かなければ1ゴールドにもならない」
「でも働けば働くほど稼げちゃう!?」
「その通り。今日のペースを維持できれば月に60万ほど稼げるわけだ」
「す、すごい! でも、いいんですか!? そんな大盤振る舞い!」
「もちろん。頑張っているのだから還元しないとな」
「フリックスさん……あなたは天使ですね……株のセンスはないけど……」
フリックスは「おい」と苦笑い。
「そんなわけだから今後もたくさん稼いでくれ!」
「お任せ下さい!」
「俺は君の稼いだお金を株で増やさせてもらうよ!」
「それはやめてください!」
私たちは二人して笑う。
(この農園に応募して本当に良かったぁ!)
改めてそう思う私であった。
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