第28話 残すは宮本ただ一人。

「確かに、出てくる敵は水の魔物ばかりだな」

「椿姫さんの剣技、本当に凄いですね。でも――倒すとき、ちょっとやりすぎかもです!」

「ん? どうした伊織、なぜそんなビチャビチャなんだ?」


 “伊織ちゃん濡れすぎてて草”

 “もうちょい! もうちょい!”

 “これセンシティブ判定大丈夫なのか?w”

 “服を着ているからセーフ。水着だしなw”

 “このために白服をチョイスしてきたのか。天才?”


 椿姫はウォーターダンジョンを突き進んでいた。

 壁は綺麗な青い水で覆われているが、 壁から勢いよく魚の魔物が飛び出してくる。

 これは、多くの探索者の身体に穴をあけた『ジェリーフィッシュ』。

 先端に鋭い刃がついていて、そこに魔力が通っている。


 しかし椿姫は誰よりも早く反応し、闇剣ダークソードで切り裂くのだが、あまりの威力の強さに魔物がはじけ飛んでしまう。

 そして後ろにいた伊織にすべてかかっていた。


 白服が濡れて透けて、伊織の青水着とたゆんが少し見えている。


 それに対し、椿姫が謝罪すると、帆乃佳が前に出た。


「しょうがない。次は私が前に出るわ。椿姫、あなたは私の後ろにいなさい」

「いいのか? 危険な役目だが」

「私を誰だと思ってるの? それくらい、朝飯前よ(椿姫の水着見たい。見たい。見たい)」

「さすがお嬢様! 小倉はしんがりを務めますゆえ!」


 帆乃佳は、先頭で長刀を構えた。準備は万端と言わんばかりに、椿姫にピッタリ後ろをついてもらう。


「もっとくっついていたほうがいいわ、椿姫」

「あまりにも近すぎないか?」

「いいえ。ダンジョンは何が起こるかわからないのよ。私が本当に背中を預けられるのは、あなたよ」

「小倉、小倉はー!?」


 “二人ともぴったりすぎないか?w”

 “くっついてるなw”

 “次は椿姫か!?”

 “なんだこの配信、たまらん”

 “百合百合百合百合”

 “普通、新ダンジョンの未到達ってもっと見てて怖いんだけど、これはほのぼのすぎる”


 当然、コメントはお約束を期待している。

 伊織は小倉にタオルを貸してもらう。とはいえ、上から水がぴちゃぴちゃ落ちてくるので、すぐ濡れてしまう。


「――上」


 帆乃佳が反応した瞬間、上から水のスライムが降りてきた。

 それも大量に。


 長刀を伸ばして遠くへ逃がそうとするも、想像以上に防御力が低かったのか、剣が触れた瞬間、はじけ飛ぶ。


 当然、上から水が降り注ぐ。


「これは――」


 帆乃佳が気づくも、椿姫が濡れることなど気にすることはない。


「――宮本流――」

「椿姫、ダメ――」


 椿姫は、空を飛んだ。そして、目にもとまらぬ速さでスライムを撃退していく。

 スライムは弾け、水となり落ちる。スライムは弾け、水となり落ちる。スライムは弾け、水となり落ちる。


 そして着地したころには、当然の結果が起きていた。


「あまり強くない相手だったな。――どうした帆乃佳、黒いのが見えているぞ。……なんとも大胆だな」

「……椿姫、あなたって昔から前しか見ないわよね」

「何がだ? ……伊織も青いのが透けているぞ」

「つ、つ、椿姫さんがしたんですよ!?」

「お嬢様の黒い水着、私が選んだんですよ! トップクラスに可愛いです! ええい、小倉びちょびちょなので脱ぎます! どうですか、このピンク水着! お嬢様に選んでもらったんです!」


 透けている二人、脱ぐ小倉。

 当然、コメントが鬼のように加速する。


 “佐々木ちゃんの黒水着、なんというか、たゆんすぎる”

 “たゆんたゆんたゆんたゆん”

 “伊織ちゃんの青水着可愛すぎるんだが”

 “意外にも小倉はピンクなのか”

 “この配信、無料でいいんですか?”

 “一応これ、政府からも公式認定されてる配信ですよねwwwwww”

 “皆さんこれはFC3ではありません! 落ち着いてください! これは、ダンジョン制覇です”

 “いまだ無傷なのは大剣豪、ただ、一人……か”

 “同時接続凄いことになってるんだけどw”

 “私女だけど、この配信のために生きていたかもしれない”

 “ダンジョンって、最高なんだな”


 ようやく気づいた椿姫が、三人に頭を下げる。


「す、すまない。魔物を倒すので頭がいっぱいだったんだ……」

「別に構わないわ。どうせ、こうなるとわかっていたし。――それに油断しないで。この水、魔力減退も含まれてるみたい。ただびちょびちょにさせるだけじゃないわ」

「……確かに、なんだか魔力の低下を感じます」

「小倉は大丈夫です! まだまだ動けます!」


 帆乃佳と伊織は、ピッタリと張り付いた上半身を脱いだ。それぞれのスタイルの良さにコメントが大爆発。

 椿姫は思わず目を逸らした。


 住んでいた場所には海はなく、山ばかりだった。当然、プールにも行ったことはない。

 目のやり場に困ったところを見て、帆乃佳が微笑む。


「あらどうしたの椿姫、ほら行くわよ」

「わ、わかった」

「次は三階層、そろそろ大型級・・・が現れてもおかしくはないわ。気を引き締めてね(椿姫の水着見たい見たい見たい。でも、見せたくない。――彼女は、私が守る)」


 勝手に覚悟を決めた帆乃佳は、より一層気合を入れる。


 “大型級、つまり!?”

 “水の容量が倍、さらに倍、いやさらにさらに倍!?”

 “今日、仕事休むわ”

 “俺も電車で見てたけどUターンした”

 “学校辞めます”

 “この動画、絶対アーカイブは残らなそう”

 

 トレンドには“残すは宮本ただ一人”が急上昇にランクイン。

 それにより、SNSでは、とんでもないダンジョンに立ち向かっているのではないかと噂になっていく。


 ただそれと合わせて、“水着配信”“たまらん百合”“政府認定FC3”というギリギリのコメントも増えていった。


 一方、探索協会では――。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ――プルルルル。ガチャ。


「あ、はい。今アルメリア会長は忙しくてですね。え、配信がギリギリすぎる? そう申されましても、これは一応討伐でして」


 ――プルルルル。ガチャ。


「はい。あ、そうですね。会長は今、忙しいんです。水着は大丈夫なのか? 一応そうですね。こちらが指定したものではありませんので。ええ、はい。はい」


 各方面の対応に追われていたのはゼニス。

 その後ろでは、アルメリアがタイピングしていた。


「ええと、む、り、は、しない、でね」

 “無理はしないでね”


 文明の利器に慣れていないのか、ブラインドタッチはできない。


「ふう、まさかこうなるとは思わなかったけど、未到達ダンジョン既に三層ね。ここから難易度が上がるはず。――気を付けてね」


 その後、アルメリアは“大型級の水、どれくらいあるのかな”

 と、打ち込んでいた。



 ――――――――――――――――――――――

 あとがき。

 多分、アニメで見たらめちゃくちゃ人気回です。


 評価は下にある【★★★】をタップorクリック!!!

 ブックマークもポチッと押せば超簡単にできます。


 感想もお待ちしております!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る