第21話 再習得
小倉と伊織は、二人の攻防を眺めていた。
ありえないほどの動き、目で追いつくのもやっとだ。
夜になり、照明が必要になるほど暗くなってきたところで、椿姫が口を開く。
「帆乃佳、どれだけの研鑽を重ねたのだ?」
「……さあ、もう覚えてない。でも、あなたは私よりも頑張ってみたいね。私はもうクタクタ。あなたはまだまだ動けるでしょ」
「……そんなことない。私も疲れてる」
このままだと決着は近い。小倉は少しうとうとしていたが、伊織はしっかりと見つめていた。
そしてふたたび剣を重ねあう。
竹刀がしなり、椿姫が後方に飛んだとき、目を見開く。
帆乃佳の手が、光輝いたのだ。
長刀が突然現れると、その剣閃が伸びてくる。竹刀では絶対に防げない勢いと威力。
椿姫の心臓が揺れる。だがそこで、椿姫は思い出す。
ドラゴンと相対した時の葛藤。どうしようもない力への苦難。
そして、椿姫の手が光り輝く。
――二刀流。
椿姫は、帆乃佳の攻撃を二刀の剣で受け止めていた。
長刀が、するすると戻っていく。
「あら、おめでとう。で、試合は私の反則負けね。――小倉、うとうとしない。私たちの負けよ」
「えええええ、でもここからが本番じゃないんですか!?」
「能力を使うとは言わなかったわ。ちょっと負けそうになって、手が出ちゃったのよ」
「うう、そ、そんなあ!?」
小倉が崩れ落ちるも、椿姫に向かって涙ながらに顔を向けた。
「お嬢様の本当の力は、これからですから! 負けたのは私だけですから!」
「小倉、やめなさい」
「で、でもお!?」
「……お風呂、一緒に入ってあげるから」
「ええ、本当ですか!? やったー!」
椿姫は、両手の剣を眺めていた。
ふたたび発動させたことへの喜びと葛藤、伊織が駆け寄ってくれて、おめでとうございますと言ってくれる。だが――。
「ありがとう。――帆乃佳」
「どうしたの――って、なんで頭を下げてるのよ!?」
「初めから私の事を考えてくれていたのだな。どうしようもない状況まで追い込み、ギリギで能力を発動させてくれたんだろう」
「……別に。ただ勝ちたかっただけよ」
椿姫は頭を上げて、そして真剣な面持ちで言う。
「私は帆乃佳を知っている。追い詰められていてもそんなことはしない。私たちは剣を愛してる。誇りを持っている。それを曲げてでも、私の願いを叶えてくれたのだろう。本当にありがとう」
椿姫の言う通り、帆乃佳は初めから試合をしようとは思っていなかった。椿姫と戦い、どこかで
だからこそ必死だった。絶対に負けられない、今までの全てをぶつけていたのだ。
「……ま、そういうことにしといてあげる。そのほうが、私もなんだか気分がいいしね」
「お嬢様さすがです! 小倉は何もわからず申し訳ありません」
「もういいから。ほら、お風呂入りましょう。いっぱい汗かいたしね」
「お任せください! 小倉はお嬢様の全身を、小倉の全身でお洗いします!」
「あはいはい。――椿姫、伊織さん、一緒にどう? この家のお風呂、すっごく広いから」
帆乃佳の頬が少し赤い。小倉が続くように答える。
「みんなで入りましょう! そのほうが楽しいっす!」
「そうだな。なら湯をいただこう。――伊織、どうだ?」
「はい! もちろんです! 後でみなさん、私が
すると小倉が鞄を持ちあげる。
そこには『生配信中』と書かれていた。
「ん? あ、大会の動画撮っててそのままだった? 停止っと」
小倉はもちろん、椿姫、帆乃佳、伊織は知らなかった。
今の試合のすべてが、配信の片隅に映っていたことに。
”小倉大会よりやべえ動きしてねえ!? いや、伊織ちゃんの見極めどうなってんだ!?”
”伊織ちゃんこんなに凄かったのか。眼がいいのかな”
”
”大剣豪vs帆乃佳だ! 楽しみ”
”ヤバすぎ二人の動き、みえねえ”
”画角が良ければいいのにw でもすげえな”
”マジで長時間戦っててすげえ”
”うおおおおお、二刀流復活!”
”なるほど、帆乃佳ちゃんそんなことを考えていたのか”
”やっぱり帆乃佳ちゃん優しい。いいこ子だよな”
”それが気づく大剣豪も優しい。みんな尊い”
”四人の風呂!?”
”頼む配信してwwwwwwwwww”
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