異世界バトル物 ~魔力のしょぼい平民が上を目指して何が悪い~

第1話 その名はジンク・ガンホック

　お外は危ないから出ちゃいけない。

　大人達がどうしてそんな事を言うのか解らなかった。

（だって魔王とかいう悪者はずっと昔に倒されたんじゃなかったの？）

　『チキュウ』って名前の異界から来た四人の勇者様。

　その人達のお陰で世界が平和になったなんて誰でも知ってるのに。

「グルルルル――」

　でも、ようやく解った。

　モヤみたいな物の中から、突然それが出てきた時、どうしてお外に出たいなんて言うとあんなに怒られるのか解っちゃった。

（私、食べられちゃうんだ……）

　怖い唸り声や危なそうな牙。

　それよりもっともっと怖くて震えちゃう魔力を感じたら、不思議とこれが私を食べるものなんだって解っちゃった。

「や、やだ。来ないで……」

　これが魔獣とかいうものなんだと思うよりも先に、身体が逃げ出そうとする。

「ガァッ！」

　けど、そんなお願いなんて聞いてくれないみたい。

　その大きくて怖い魔獣とかいうヤツが私の方に飛び掛かってきて――

「きゃあ！」

（食べるなら痛くしないで！）

　思わず目を瞑る。

　すると、大きな音が響いた。

　お腹にずしんと響く本当に大きな音だったけど。

（痛く、ない？）

　私のお願いを聞いてくれたのかな？

　そう思って私が目を開けると――

「ったく。子どもが結界の外うろついてるなんて、村じゃあ考えられんぞ」

　男の人が立っていた。

　大人の人って言うほどじゃない、お兄さんみたいな感じの男の人。

「あー、くそ。獰猛猪は肉も毛皮もかさ張るし、魔核以外置いてくしかねえな……」

　いつの間にか引っ繰り返ってた怖い魔獣を見下ろしていたかと思うと。

　お兄さんは、動かなくなったそれに手を突っ込んで何かを取っていた。

「あ、あの……」

「と、スマン。怪我とかないか？」

　私がお礼を言うよりも早く、お兄さんはしゃがみ込んで私と目を合わせてくれる。

「だ、大丈夫……」

「そいつは何よりだ」

　そう言うなり、お兄さんは私に手を伸ばしてきて――

「ちょっと失礼するぞ」

　軽々と私を抱え上げてしまった。

「あ、あの……」

　私はどこに連れて行かれちゃうんだろう。

　お父さん達の言いつけを守らない悪い子だし、悪龍の巣に捨てられちゃうのかな？

「瘴気は感じないし暫くは大丈夫だろうが、どうせ魔獣なんてすぐ湧くからな。悪いが急いで街まで送らせてもらうぞ」

　要らない心配だったみたい。

　お兄さんは私に軽く笑い掛けて、家まで送ってくれると言ってきた。

「ちょっとだけ大人しくしてろよ」

　私をしっかり抱きかかえると、お兄さんが物凄い速さで走り出す。

「すごい！」

　すると、景色がどんどん流れていって。

　あっという間に街の門に着いちゃいました。

「スマン。街の外に居た子なんだが、これから急ぎの用があってな。保護とか任せていいか？」

　私を下ろすなり、お兄さんは見張りの人へ私を預けて。

　再び走り出そうとしてます。

「あ、あの！」

　お礼を言わないといけない。

　そう思った筈なのに。

「お名前を教えてください！」

　どうしてなのか。

　私の口からは、そんな言葉が出ていました。

「ジンク。ジンク・ガンホック」

　するとお兄さんは不思議な顔で笑ったかと思うと――

　まるでこれから悪戯するような男の子みたいな顔で言いました。

「天下のオルビス魔術学園に挑む、名もない村出身の平民だ」

　　　○　　　○

「もう少しで始まりますので試合の準備を」

　試験官の声が響き渡る。

　ここはオルビス魔術学園、入試会場の一つである闘技場。

　強さと成果を理念に掲げるこの学園の最終試験は単純明快。

　割り当てられた相手と試合をして勝てば合格。

　逆に負ければ不合格という、名門という響きからは想像し難い弱肉強食のものであった。

「お、凄いな。ここまで平民何人か残ってんじゃん」

「俺もアイツ等と当ててもらいたかったなあ」

　そんな中、ぼやくように放たれた声に一人の青年、ジンクが眉をひそめた。

　短く切られた黒髪、意志の強そうな目が印象的な青年だ。

　一見すると中肉中背か細身にさえ見えるものの、見る者が見れば服の上からでも無駄なく鍛え上げた柔軟な筋肉に包まれている事が解る筈だ。

　だが、この場において何よりも特徴的なのは服装だろう。

　周りに居る人間の多くが服のどこかに家柄を示す紋章がどこかにあるにも関わらず、この青年の服には紋章がない。

　それこそジンクが平民である証であった。

（せめて誰が相手だろうと薙ぎ倒して入学してやるくらい思っとけよ……）

　平民である自分が侮られる事に大して、ジンクにそれ程の怒りはない。

　というのも魔術を扱う為の力、魔力は遺伝性が極めて高い。

　後天的に鍛える事こそ出来るものの、魔力が高い者同士での婚姻を何世代も続けてきた貴族と、そうでない平民の間には生まれた瞬間から大きな差が存在するからだ。

（そんなしょぼい気持ちで、なんで『今』ここに来てんだよ）　

　だからこそ、ジンクの苛立ちは別にある。

　オルビス魔術学園の理念は『力と実績こそが全て』。

　運も強さもない者は学園には必要ないと学園長自体が明言しており、最終試験に一度でも落ちた者は受験資格を永久に失うのだ。

　そして、入学後も競い合いという名目の元に蹴落とし合いが待ち受けており、退学する者が後を絶たない。

（どうして絶対の覚悟も自信もないのに試験に挑めるんだ……）

　それでもオルビス魔術学園への入学を志望する者の数は多い。

　何故なら――

　例え卒業出来なかったとしても、この学園に一年でも所属する事が出来たならば未来は約束されたも同然だからだ。

　他の追随を許さない過酷さは、それに見合った実績を生んでいたのである。

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後書き

　新作始めました。

　これは公募とかに参加している作品ではないので、初っ端から後書き書かせて頂いております。

　大体九月末付近までは毎日更新する予定の作品ですが、チマチマ読むよりは纏めて読みたいという方は、ブックマークでもして後で読んで下されば嬉しいです。

　あるいは下記に第一部、十四万文字まで投稿している前作があるので、そちらを読んで頂ければ嬉しく思います。

　ただ今作はバトルばかりの作品ですが、こちらの作品は『憎まれる程に強くなるスキルを授かった心優しき青年』の話ですので、大分毛色が違う話なので、その辺はご了承下さい。

https://kakuyomu.jp/works/16818093079745925341

　続きが読みたい、書籍化してほしい、挿絵やキャラ絵が見たいと感じて下さった方は是非とも★レビューやフォローなどで応援して頂ければ、小躍りして喜びます。

　感想は小難し考えず、面白かった、続きが読みたいとかだけでも本当に凄く励みになるので。

　あまり量が多くないなら感想は多分大体返しはすると思いますし。

　過去に111件までは全部返した事があります。

　そして、　私の作品以外でももっと続いてほしい、書籍化してほしいって感じた作品には気楽に★やフォローして頂けると大変有難いです。

　読んでくれている人が居るのか解からずに続けるのって中々根性要るモノなので。

　覚えていたらで構いませんので、よろしくお願いします。