いつかきっと迎えに行くから!
白石 はく
いつかのあの日のプロローグ。
それは何でもない日常の1ページだった。
退屈な授業が終わり、少し長めの休み時間。
あの頃の俺は、どこにでもよくいる元気な小学生だった。
ドッチボール、ケイドロ、鬼ごっこ。
体を動かす遊びが大好きで、その日も外に出てドッチボールをした。最後にボールに当たったのが俺ではなかったので、ボールを当てられないよう、早足で教室に戻った。小学生の謎ルールってのは面倒だ。
廊下を歩いていると、6年1組の教室から大きな声が聞こえた。
「あんたがとったんでしょ!」
クラスメイトの女子が喧嘩をしているらしい。何があったのだろうか。
「とってないよ...コレは妹に貰ったものだから...」
怒鳴りつけられている女の子は、小さな声でそう言った。
だが、その控えめな態度が、より火をつけたようでさらに大きな声でこう言った。
「じゃあ私が新しく買ってもらった消しゴムはどこにいったわけ!?アンタが今日都合よく同じものを持ってきたって言いたいの?」
「そう言ってるよ。〇〇ちゃんの消しゴム、私はとってないし知らないよ。」
よく見ると、消しゴムをとられたと主張する彼女の取り巻きの1人が少し俯いている。
だが、今の彼女は、怒りで周りが見えていないこともあり、気がついていないようだ。
ここでその事を言ったところで、怒りの矛先が変わるか、まったく受け入れられないかの2択だろう。
「なぁどうしたんだよ」
俺は、まず落ち着いて状況を整理する事が重要だと思った。
「この子が私の消しゴムとったの!新品の!」
彼女の指差す先には、なんて事ない普通の消しゴムと、大きな声で怒鳴られて、震えている小さい手があった。きっと沢山の人に囲まれ、怒鳴られて、こわくてたまらないのだろう。
「本当にとってないの。これは妹に誕生日で貰ったもので...」
震える彼女は、小さい声でそう言った。
人に囲まれながらも、自分の大切なものを守ろうとする姿は、当時の俺の目には、少しかっこいいとも思えた。
「なぁコレの事だろ」
「おい、やめろよ。お前それ新しく買ったって言ってただろ。」
小さな声で、後ろからそう声をかけてきたのは親友の国津 信也だ。
そう、俺も全く同じ物を持っていた。
「とったのアンタだったの!?さいてー」
「あぁ、そうだよ。悪かったな」
震える女の子が大きく目を見開いている。
彼女も取り巻きの1人がとったであろう事に気がついていたのかも知れない。
「ち...違うよ...それは...」
彼女の小さな声は誰に聞こえる事もなく、休み時間の終了を告げるチャイムの音と共にかき消されたのだった。
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