暇つぶし短編集

しろおび

魅力の穴

 穴が開いている。ポッカリと空いたその巨大な穴は、全てを飲み込もうとしている。飲み込もうとするからこそ、私は逃げ出そうとする。穴の底は見えない。一度入ってしまえば二度と出ることはできないだろう。しかし、その穴は妙に人を惹きつける。


 私は考える。穴の縁で、見えるはずもない穴の底を見つめながら、ただ無心に考え続ける。


 結論から言うと、私はこの魅力的な穴に飛び込むことを決めた。足を踏み出そうとする。


 ようやく穴の底へと飛び込むことができる――そう思った矢先、突然、足がピタリと止まる。


 なぜだ。なぜ動かない!こんなにも必死に足を動かそうと脳が命令しているのに、体はいうことを聞かない!どうしてだ!どうして!


 にゅるりと私の影から大きな蛇が現れる。蛇は私の体に巻きついて、締め上げようとする。


 ――痛い!


 蛇の締め付ける力はとても強く、私の体はギシギシと悲鳴を上げる。私はその痛みから逃れようと必死に足を動かして穴へ飛び込もうとするが、穴に飛び込もうとするほど蛇の締め付けはますます強くなる。


「――もうやめて!」


 私は大声で叫んだその瞬間、私の意識は覚醒する。


 ♢♢♢


 ハッと、私は目を覚ます。そこにはいつもと変わらぬ天井が私を迎え入れている。時刻はちょうど7時。スマホに設定した目覚まし時計が大音量で音楽を流している。私はベッドの近くに置いてあったスマホを手に取り、目覚ましを止める。


 何やら不穏な夢を見たような気がしたが、いつもと変わらぬ日常がそこにはあった。変わらないのは全身にビッシリとかいた汗の量で、尋常ではなく、私自身も驚くほどだった。


「うわっ……早く着替えなきゃ」


 私、佐賀さが夕菜ゆうなは起きてすぐにシャワーを浴びに浴室へ向かった。

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