「気まぐれ創作語り」まとめ(※2024年7月27日現在)

伽藍 朱

●作品全体に関して

・「おこそずきんちゃん」は東西の色々な昔話や伝説の要素を取り入れて作っている物語なんですが、「猟師が妖怪退治をする」という構図は、宇治拾遺物語の「猟師が仏を射た話」から着想を得ています。元のお話は鎌倉時代成立なので、火縄銃ではなく弓矢ですが。

 誰もが知っている定番の構図を、別の世界観にあてはめてみたり、ifの要素をプラスしてみたり、違った角度から眺めてみたりしたら、それまで気づかなかったものが見えて来るんじゃないかなー……と。色々実験中。


・「おこそずきんちゃん」という和風ファンタジーの中で、火縄銃をどこまでリアルに、どこまでファンタジックに描くかという線引きには非常に迷ったんですが、もし発砲までの手間を全部省いてしまったら、それはもう火縄銃じゃないし書く意味がないと強く感じたので、この作品の中では


 ①特殊なのはあくまで銃弾(本来物理攻撃では倒せないものを倒せる)

 ②点火のみひとりでに行われる(「不思議」要素)


とし、あとは普通の火縄銃として描くという事に決めました。

 単発銃である火縄銃の特性を生かしながら、どこまでスピード感と迫力のある場面を描けるかと言うところが難しく、面白い所でもあり、「たまいとつむぎの怪」「まがつ神」と書く中で一番苦心した部分だったのですが、正直まだまだ足りない、勉強不足だなと感じています。いつか実際に火縄銃を使う方々にも「おっ」と思ってもらえるような場面が描けるようになりたいです。


・「運命ってなんだろう」

「おこそずきんちゃん」シリーズは「めぐり」をテーマにした物語です。自然、時、命、人と人……様々なものがつながれ、めぐる様と、そこからはじき出されてしまうものの悲哀や奮闘を描きたいと思っています。

 「めぐり合わせ」は「運命」の意を持つ。運命とは川の流れのようなものではないかとイメージしています。

 仕事や創作など、日々様々な活動している中で、時折驚くほど好調に事が進む時があります。そんな時、自分は今、運命の流れの中にいるのかなと考えます。

 川の流れに逆らって泳ぐことは、とても苦しく困難なこと。だけど、決して悪ではないし、不可能でもない。無数の支流を持ち、誰かの投じた一石で大きく形を変えることもある。運命ってそういうものじゃないかと思います。


・「置いて行かれること」

 私は幼い頃、「お母さんが出て行ってしまったかもしれない」と思ったことが何度かあります。

 当時としても時代錯誤な家父長制の中で、母が感じていたストレスは計り知れず、子ども心にもそうした事態は決してありえないことではないのだと感じていたのだろうと思います。

 何も言わずに荒々しく家を飛び出し車に乗り、けたたましいエンジン音を立ててどこかへ行く母を見送る時の、胃袋がどっかに落っこちていくような感覚は今でも鮮明に思い出します(実際にはちゃんと戻って来てくれたんですが)。

 創作の中の彼らが抱えている「置いて行かれる」ことへの恐怖、それが死に直結しているようなイメージは、あの頃の体験に由来しているのかもしれません。


・なんとなくお察しの方もいるかもしれないんですが、私は一人だけ、何があっても絶対に許さないと「決めている」人間がいます。その人間を、虚構の中で繰り返し断罪するために物語を書いているのかもしれないと思う時もあります。すべてがそうではないけど、一側面としてはそうかもしれない。


・優しく誠実に生きている人が報われてほしい。でも実際にはそうならないことの方が多い。

 安易な「救い」を描くことは、泥のような現実の中でもがいて苦しんで、それでも生きようとしている人々を黙殺する行為のように思える。

 だから痛みも理不尽もしっかり描き出さなきゃいけないんだと思っています。そうじゃなきゃ、いよいよ「救い」がない物語になってしまう。

 ……とはいえこれは私個人の文道(ぶんどう)であって、人には人の文道があると思いますが。


☆「置いて行くこと」「置いて行かれること」

 銀作は、去り行く母の魂に「置いて行かないで」と叫び、死んだ数馬の魂から「置いて行かないで」と呼びかけられます。

 月乃は、不老の自分をよそに成長してゆく庄九郎の背中に「置いて行かれる」ような切なさを覚え、老いた庄九郎は若い月乃に「置いて行かれる」ような恐怖を覚えます。

 生きるも死ぬも、全て大きな環の中にいて、それぞれに動き、めぐり続けている。

 その中で、もっとも苦しく、「さみしい」ことは、ひとところに留まって、前にも後ろにも進めなくなってしまうことではないだろうか……これが「おこそずきんちゃん」という物語の根幹になっています。


 この世への未練によって、地縛霊となってしまった青い魂たち。

 自分の死を自覚できずにさまよう魂となってしまった数馬。

 変若水(をちみず)を口にし、条件つきの不老の身となったことで、歪な永遠の中に閉じ込められた月乃。 

 叢雲に囚われ、強い憎しみの中で苦しみつづける七人の魂。


 銀作はマタギであり、命のめぐりの番人です。

 彼の役目は、ひとところに囚われて、前にも後ろにも進めなくなっている者たちを解き放つことです。

 川の淀みを解きほぐすように。命がつながれ、めぐるように。

 

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