25 面倒の予感と独裁宣言

 授与した魔法は、ある程度のチュートリアル機能がついている。

 自分で『こういった場合にこんな感じで使用可能だろうか』と考えれば、使用可能な場合は使い方が自動的に思い浮かぶという形だ。


 しかしただ思い浮かべろ、ではわかりにくいだろう。

 だからある程度、実例をあげて説明をした。


「……力の魔法を使えば、それなりの速度で走っても疲れる事はありません。代償の薪を1本持って歩いて頂けば、充分間に合う筈です。

 この場での説明は、以上です。何か質問はありますか? 周囲の皆さんと相談してもかまいません。またこの機会に限らず、今後も疑問などがあれば、特に忙しい時でもない限り、いつでも質問していただいて結構です」


 そんな感じで、説明の後は質問の時間。

 先遣隊の皆さんは最初はおそるおそる、そしてがやがやと話し合いをはじめた。しかしなかなか質問は入らない。


 理由は想像がつく。今までの生活や待遇とあまりに違うので、どこから質問をしていいかわからないのだろう。

 あと私は一応神なので、遠慮をしている可能性もある。


 3分くらい待ってみたけれど、質問は出てこない。ならそろそろ、まとめてもいいだろう。


「それでは、とりあえず質問の時間は、また後でとることとします。それでは出発しましょう。外で指示をしますので、出たところで待っていて下さい。

 また移動する際、荷物が邪魔になるから預けたいという方がいましたら、このテーブルの上に置いて下さい。私が村まで運びます」


「よろしいのでしょうか。そこまでお願いして」


 こう確認したのは、リーダーのビブラムだ。


「今回は例外です。移住予定の村まで11里44kmあります。それに皆さんは、まだ魔法を使う事に慣れていません。更に片手には、薪を持っていただく事になります。ですから遠慮することなく、荷物を預けてください」


 私が教えた魔法は、薪の燃焼エネルギーで使用可能。だから両手か、せめて片手は薪を持って走ることになる。

 

「わかりました」


 置かれた荷物は例によって収納して、皆が外へ出た時点で私も外へと移動。

 皆の前に出現し、神力駆動の荷車と、1kg程度にカットした薪103個を出す。


「この荷車には、30人程乗る事が出来ます。また魔力や神力を使用して、人が全力で走る倍の速さで走る事が可能です。まず乗せるのは、体力の無い者、子供、そして向こうに先について、全員が到着するまで子供達の面倒をみる者。これらを30人まで、選んで下さい」


 言ってすぐ、失敗したと理解した。

 全知がこう注意してきたのだ。


『この世界において、11以上を数える事が可能な人間は、それほど多くありません。この中では8人だけです。なおこの中で、少しでも文字を読み書きできる者は10人。2桁以上の足し算が出来るのは、5人だけとなります』


 義務教育がない世界を、甘く見ていた。そう思いつつ、私は命令を変更する。


「訂正します。私がこの中から、この荷車に乗っていく者を選びます。選ばれた者は、この荷車の、ここから後ろの席に座って待って下さい」


 早々に義務教育をはじめなければならないかもしれない。子供だけで無く、大人にも。

 そう思いつつ、全知で『全体の中で、体力的に村へ行くことが厳しい者を体力がない順に25人と、向こうで先についた者の面倒をみて問題無い体力と性格を持つ者5人』を選ぶ。


 選んでいる最中、全知が更なる注意をしてきた。


『この者は体力はありますが、思考力に欠けているので、魔法を使用しての移動においては、下位20名に入ります。しかし体力そのものはありますので、今まで集団内では発言力がありました。ですので車に乗せて先着すると、好き放題する可能性が極めて高いと思われます。どうしますか』


 そんな面倒な奴に、問題を起こさせる訳にはいかない。車には乗せないことにする。

 他にはこんなのも……


『この者は、この集団の中では体力が明らかに下位10人以内に入っています。ですが理解力に乏しく、すぐヒステリーを起こすので、やはり衆人環視の目から離すのは危険です』


 うん、体力は無いけれど、こいつも自力で走って貰おう。


 100人もいれば、こういう輩がいるのは仕方ない。

 最低でも義務教育で中学までは通っている筈の日本でも、どうしようもない輩は結構いるのだ。


 役所の窓口なんかにいると、性格も理解力も知識も常識も劣悪という輩の見本を、それこそ毎日観察する事が出来る。

 ついでに言うと『馬鹿は日本語を喋るけれど、日本語が通じないし、自分の気分に反する事を理解出来ない』なんて悲しい事実も。

 そんな感じで更に何人か、体力は足りないけれど性格や思考に問題がある大人を弾いた。


 なお子供でも3割ちょっとは、村まで走って貰うことになった。

 こちらは全員、1時間半程度で村に到着するだろうと判断している。

 何せ、8歳女児でもこんな子がいた位だ。


『この子は8歳で、年齢平均より身体は小さいですが、思考力と向上心があり真面目です。新たに授けられた魔法も、既にかなり理解出来ているようです。1時間半あれば村に到着すると判断されます』


 ただこの子は、周囲の中でもかなり小さいので、一応という事で車に乗って貰った。

 なんて感じで取捨選択した結果、最初の荷車便の乗員は、子供20人、大人10人で決定。


 それでは行く前に、追加注意をしておこう。


「最初に乗せる者は以上です。他の者は最初は自分の足と魔法で、この道を村へ向かってもらいます。ただし無理はしないでください。向こうへ着いた後此処へ戻り、もう一度この荷車を走らせて、拾っていきますから。歩けなくなる前に休憩を取って、この荷車が来るのを待ってもかまいません」


 全知の判断では、魔法を使っても2時間以内に到着出来ない者が10人ほどいる。

 全員性格や思考に問題があって、最初の便に乗せなかった大人だ。

 だから更に、追加注意をしておく。


「なおケカハの住民には、最初は全員に、先程話した魔法を授与します。ですから人としては多少力が強かった程度の優位は、今後一切なくなります。

 また私は神です。領域内で起きた全てを知る事が出来ます。問題が生じた場合は、その背景を把握した後、私コトーミの判断で、それなりの処分を行います。処分は魔法の剥奪、行動制限、更には村への立入禁止などといったものとするつもりです。

 今、私が言った事の意味を考えた上で、以降は行動して下さい」


 こういう注意は届いて欲しい奴程、聞いていないものなのだ。

 しかしそれでも、事前に注意しておく事は重要だ。

 既に説明済みだから、聞いていないといういいわけは聞かない。そう言う事が出来るから。

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