第6話 先遣隊の迎え入れ
24 迎え入れ
全知による日本風の太陽時で9月15日午前10時過ぎ、セキテツとの境界にある、あの海辺の平らに削った岩場の上。
今日は昼食ではなく、モーニングティーという感じでお茶をしている。
お茶はセキテツの山間部で採って加工した緑茶で、お茶請けは私が作った、イナゴマメを混ぜて作った茶色く甘いクッキー。
何故昼食では無いかというと、今日は……
「そろそろ先遣隊が、トヨハマに着きそうですわ」
そう、これから先遣隊がケカハに来る。
アルツァーヤから引き継ぎを受けた後、指示して、私が造った村に連れて行って等で、私はきっと目一杯だろう。
当然お昼も忙しいから、時間変更でモーニングとした訳だ。
「ありがとうございます。それでは、先遣隊100名を迎えに行って参ります。今日はこれで失礼します。引き続き、残りの900名をよろしくお願いいたします」
私はアルツァーヤとキンビーラに一礼して、そしてトヨハマと名付けた場所をイメージする。
このトヨハマとは、ケカハとセキテツの道路の結節点で、この岩場の裏側から、100m程度内陸に行った場所。
香川県と愛媛県の境近くに、そんな名前の道の駅があったな。
そんな記憶から、私が名付けた地名だ。
もう少し県境近くにローソンがあった気がする。
でも記憶が定かでは無いし、店名も覚えていないので地名には採用しなかった。
さてトヨハマには、道路だけでは無く簡単な施設が設けてある。
コンビニの駐車場くらいの広場と、やはりコンビニくらいの広さの、屋根付き壁付きドアなし窓ガラス無しの、休憩所だ。
中には長椅子とテーブルを設けて、座ったり横になったり出来る様になっている。
将来的にケカハが栄えて、この道を人が行き来するようになって欲しい。
なんて意味ももちろんあるけれど、基本的には今回及び残りの人員の受け入れの為だ。
さて、暑い道を、人々の気配が近づいてきた。
本当はもう道に出て待っていたいところだけれど、一応神としての体面がある。
ケカハ側に入ったら、出て案内するとしよう。そう自分に言い聞かせて、休憩所内で待つ。
なんて思ったけれど、待つほどの事はなかった。
もともと近づいたから、此処へ来たのだ。だから30秒もしないうちに、先頭が境界を越え、ケカハ側に入る。
列は結構長い。大人だけでなく、子供もいる。
そのうえ大人の大半は、大八車のような車に、山羊だの家財道具だのを載せ、ひっぱっている。
先遣隊というか、まさに移住者の群れだ。
先頭が広場の前で、キョロキョロ辺りをみまわした。
もういいだろう。歩いてでは無く、場所を思い浮かべる方式で、人々の先頭の10m程度先へ出現。
「お疲れ様です。そしてお帰りなさい」
どよめきが上がった。
「取り敢えず、こちらでお話しましょう。あの建物へどうぞ、中で休めるようになっています。また車に積んだ荷物はここでお預かりしましょう。後に村に入った段階で、皆様にお返し致します」
言葉と同時に、大八車ごと荷物を収納する。
手荷物や背負った荷物は、とりあえずそのままだ。
「それではこちらへどうぞ」
歩いて案内した方が、わかりやすいだろう。
それに私の服装は歩く事を考慮したスタイルだ。
皆がついてきていることを確認しつつ、休憩所の中へ。一番奥に陣取って、そして入ってくる先遣隊住民に、声をかける。
「空いているところ、どちらでもいいので、座って待っていて下さい」
皆、神の言っていることだからか、素直に聞いてくれるようだ。
さっと全知で先遣隊の全容を把握。
『成人が男33人、女37人、12歳以下の子供が男15人、女18人の、合計103人です。病人・怪我人はいません』
100人ちょうどでないのは予想の範囲内。しかし思ったより子供が多い。
先遣隊というからには、てっきり屈強な成人ばかりかと思ったのだけれど。
『1,000人程度の集落から、屈強な成人ばかり100人も出した場合、集落の運営が困難になります。また指揮系統も新たに構築する必要があります。ですから既存の居住地区のひとつをそのまま出した形です』
なるほど、了解だ。
さて、全員が座ったところで、私は皆に声をかける。
「私が、ケカハの新たな土地神、コトーミです。皆さんがこの地に戻りました事を、心より歓迎します。ここまで疲れたでしょうから、取り敢えずこれで疲れを癒やしつつ、話を聞いて下さい」
全員の前に出したのは、コップ入りのオレンジジュースと、皿入りのイナゴマメパウダー入りクッキー。
甘い物の方が疲れが取れるだろう。そう思って準備した。
このクッキーは、もちろん私が作ったもの。
村予定地で『恩恵』により収穫したイナゴマメと、やはり『恩恵』で収穫したサトウキビ、そして小麦等を使っている。
何気に私やアルツァーヤのお気に入りで、先程アルツァーヤがつまんでいたのも、このクッキーだ。
何処かチョコレートを思わせる風味がある、この世界にはほとんど無い甘いお菓子。
だからまあ、食べればはまるのは当然かもしれない。
香川のお菓子と言えば『名物かまど』。
しかし今の私では、満足がいく類似品は作れなかった。
白いんげんも鶏卵もないから、仕方ない。
他に香川で甘い物と言えば、東側でサトウキビを栽培して、採れた砂糖を和三盆にしていた。
しかしあれ、今ひとつ私の好みではない。
なんてところでイナゴマメがなったので、全知の教え通り豆ではなく鞘を囓ってみたのだ。
ココアというかチョコレートを思わせる香りと、軽い甘さを感じた。
ならばという事で、収納内で全在を使用して試行錯誤を重ねた結果、チョコクッキーっぽいものが完成。
私やアルツァーヤのおやつとして、定着した訳だ。
なおオレンジジュースは、アルツァーヤが毎回持ってきてくれる、セキテツ特産品。
やっぱり香川っぽい場所の隣は、蛇口をひねるとオレンジジュースの県なのか。
でもアルツァーヤは茶も持ってきていたし、飲み物が進化した地域なのだろうか。なんてのはともかくとして。
「いただいて、宜しいのでしょうか」
そう尋ねたのは30代半ば位の、頑丈そうな中年男性だ。
『この集団のリーダーで、ビブラムという名前です。34歳で、クエルチェという妻と、アルトラという息子がいます』
リア充か、ちぇっ! なんて事は、もちろん言わない。
今の私は神なのだから、そんな人間的かつ個人的なことでひがんだりしないのである。
なんてしょうもない事を思いつつ、真面目に返答。
「ええ。どうぞ食べて下さい。ここまで疲れたでしょうから、甘い物にしてみました」
本当は一息いれるならうどんを駆けつけ一杯というのが、
しかしこの人達には、まだうどんは一般的ではない。
だから今日は初回という事もあって、ちょっと日和った訳だ。
皆が口に運びはじめたところで、私は説明を開始する。
「さて、これから案内する村があるのは、かつてホーライと呼ばれた場所の近くとなります。此処からは
言葉とともに、場所の写真イメージを送るなんて事もする。
神様チート、本当に出来る事が多い。
「また私の領民となった5歳以上の全員に、魔法を授与します。授与するのは力、土、水、熱の魔法です。どうやって使うか考えた時点で、使い方を思い浮かべられるようにしました。
ただしケカハの領内から出たり、犯罪行為を行ったりした場合、魔法は使えなくなります。注意して下さい」
此処にいる中で最年少は、6歳の女児。だから全員が、魔法授与の対象者だ。
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