17 戦国時代は無視して、蒲鉾を作ろう

 この世界は戦国時代で、大名では無く神が人を率いて戦うシステムになっているようだ。

 話には聞くけれどやった事がない『信長の野望』とかいうゲームのように。

 私に取っては現実なのだけれど。


 なお私がゲームをやっていないのは、通称『香川ゲーム条例』のせいではない。

 単に家の方針というだけだ。

 父も母もスマホゲームやVTuberに課金しまくっていたけれど、その辺の不条理は別論として。


 なんて事はともかくとして、まずはケカハの外について、ある程度広域の地図を見てみよう。


『ケカハやセキテツがあるフタナジマの島の北側には、より大きなアキヅシマという島があります。この2つの島は、最も近い場所で20km、遠い場所でも100km程度の距離で、ケカハ付近では南北にほぼ平行して存在しています』


 例によって画像で脳内に表示される。

 どうやら四国と本州の位置関係と似たような感じだ。

 ただし距離は倍近く離れているし、フタナジマも四国より二回りくらい大きい。


『現在のアキヅシマやフタナジマの人間には、大型船を作る能力はありません。現在までに作られた最大の軍船は全長30mサイズで、漕ぎ手と戦闘員あわせて180名が乗船する事が可能ですが、動きが遅く、陸上からの火弩攻撃で容易に倒せます。故に実戦的なものと見做されていません』


 つまり大型船による揚陸作戦は、今のところ無謀だという事らしい。

 今のケカハには、火弩なんて武器ところか、人すらいないのだけれど。


『またケカハ沖、アキヅシマとの間にあるシワクの島々の民は、セート海域の神キンビーラの加護の元、アキヅシマからの侵略に激しく抵抗しています。海上及び島周辺での戦いにおいては、あと十年程度は、セート海域において、アキヅシマ側の勢力が優位となる可能性は低いでしょう』


 海からの侵略は、今のところは気にしなくていいようだ。

 なら今は、ゲームで言うところの内政に集中して、ケカハの環境を早期に良くするのが正しいだろう。


 つまり当分の間は、川やため池を掘る作業続行という事だ。


『ただし本日はもう、大きく神力を使う作業はやめた方がいいでしょう。衣食住に必要な動植物の調査や、土木作業の今後の計画立案、あるいは食事の調理等を行うのがいいと思料されます』


 確かに食事関係で、調理しておきたいものがある。

 実はアルツァーヤとキンビーラから、ちょっとしたお願いと材料各種を頂いてきたのだ。


「この魚を使った食べ物、肉に似ているけれどまた違った味で、他にはありませんし、美味しいです。もし宜しければですが、もう少し作っていただけませんでしょうか」


「確かにこれが魚で作れるというのは、私も知らなかった。もし良ければ作り方を教えて貰えないだろうか。あとは出来上がった現物も。材料となる魚は幾らでも調達しよう」


 二柱とも神なので、現物があれば、全知で作り方を理解出来る。

 だから私が用意すべきなのは、美味しく作った揚げ蒲鉾てんぷらと、その類種。


 ならばという事でイトヨリタイ、エソ、アジ、更にはホタルジャコといった材料になる魚大量と、セキテツで取れたという菜種油をやっぱり大量にいただいてきた。


 更にはちょっとした目的の為に、木材もいただいた。これはセキテツに生える、細葉樫という木材だそうだ。


 この木材の目的は、蒲鉾板と竹輪の棒の為。

 揚げではない蒲鉾関係も、ついでに作ってしまおうと思ったのだ。

 

 ひょっとして、ケカハ名物になるかもしれない食べ物を、セキテツやキンビーラの領域の島に伝えてしまう事になるかもしれない。


 しかし、まだ船運もそれほど盛んではない世界だし、そもそもケカハには現在、ほとんど住民がいない。

 それにキンビーラやアルツァーヤには、まだまだ世話になる事が多い気がするのだ。

 だからまあ、此処はサービスしていいと思う。


 だいたい瀬戸内海に面した辺りは、何処にでも名物の蒲鉾屋が存在する。

 香川であっても愛媛であっても徳島であっても、海向こうの岡山だろうと広島だろうと山口だろうと。

 秘密にする必要は、あまり無い気がするのだ。


 さてそんな訳で、高松市内にも蒲鉾屋は何軒かあった。

 当然、私もある程度はこれらの作り方を知っている。

 原理的には魚をミンチにして塩を入れて練って、熱を加える。

 以上だ。


 ただし入れる魚の種類とか、骨を入れるのか入れないのかとか、ミンチにしたものを水でさらすかどうかという辺りで、かなり変わってくる。

 この辺は、キンビーラやアルツァーヤに食べて貰って、実際の好みを確認して貰えばいいだろう。


 あと、本当は山芋を入れて、ふわふわにするなんてレシピもあったような気がする。

 でも私は魚すり身オンリーのがっしりしたのが好きだし、山芋をまだ探していないので、ここは無視。


 それでは、本日の残りの時間を使って、蒲鉾を量産するとしよう。

 エソを材料にして何度か水にさらして作る上品な板蒲鉾、やっぱりエソを材料にした揚げ蒲鉾天ぷら、エソの皮とホタルジャコの身、骨のミンチを材料にした、愛媛でもずっと向こうの方風のじゃこ天。まずはこの辺が前世からの基本的なもの。

 

 あとは材料を変えたり、骨を入れる入れないで変えたり、ちくわバージョンも作ったりと、少しバリエーションを作る。

 揚げ蒲鉾てんぷらは、形状も小判型、樽形と変えてみる。


 なお個人的には、エソがメインで長天っぽく作った揚げ蒲鉾てんぷらが好みだ。

 長天とは香川うどん県独自仕様の、揚げ蒲鉾てんぷらの一種。

 成形に巻きすを使うので、縦に筋が入った長方形になる。


 これをさっとオーブントースターで焼いて食べると、ツルっとしたようなプリっとしたような独特な食感で、非常に美味い。

 うどん屋のおでん鍋に入っているのも、また良し。


 今回は出来たての熱いのを、そのままいただく。

 うんうん、やっぱり美味しい。

 今後、私個人が食べる分には、全部この長天タイプでいいだろう。

 キンビーラ用やアルツァーヤ用は、明日以降、本人に選ばせるとして。


※ 通称『香川ゲーム条例』

  正式には、『香川県ネット・ゲーム依存症対策条例』令和2年香川県条例第24号。2020年4月1日施行。

  18歳未満はゲームの利用時間を1日60分、休日は90分まで。またスマートフォンの使用はは中学生以下が21時まで、それ以外は22時まで。

  そんな家庭での目安を定めた、香川県が誇る? 全国でも類を見ない条例。なお時間はあくまで目安であり、罰則はない。


※ 長天

  『平天』とも呼ばれる、長方形の揚げ蒲鉾てんぷら。うどん屋にあるおでんの中にも良く入っている。

  なお、此処には『成形に巻きすを使うから、縦に筋が入っている』と書かれているけれど、店によっては単なる長方形で、縦に筋が入っていないものもある。

  また長方形の蒲鉾は、実は結構全国にあるらしい。中でも北海道の網走には、同じように『長天』と呼ばれるものが存在したりもする。

  ついでに言うと作者個人としては、やっぱり長方形だけれど赤い、島根県浜田市付近名産の『赤てん』が個人的好物だったりする。というのは、まあ置いておいて……

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