14 オアシスもどき?

 朝、起きたい時に起きられるのが、神様業のいい点のひとつ。


『現在の時刻は8時56分です』


 日本風の24時間制太陽時が、一番時間感覚がわかりやすい。そう思いつつ、筵の上から起きる。

 目覚めて最初に思ったのは、もっといい布団を造りたいということ。布さえ出来れば、中身は骨付鳥用の鳥の羽毛が使えそうな気がする。


 さて、それでは今日の大仕事。キンビーラやセキテツの神と食べる料理を造るとしよう。


 うどんはいつもは500gで打っていたけれど、この際だから3kg分くらいまとめて作っておこう。

 麺帯の形にして寝かせておけば、あとは切るだけで出来る。

 神様なので保存は時間停止ありなし、自由だし。


 量が多いので、今回は踏む動作もイメージして、捏ねくりまくっておく。捏ねて捏ねて、のし棒で伸ばして重ねて伸ばしてをイメージして、麺帯が出来た所で一段落。

 あとは麺を切るまで、この状態で寝かしておこう。


 揚げ物もやっておこう。天ぷらてんぷらだけではなく、揚げ蒲鉾てんぷらもだ。

 揚げ蒲鉾てんぷらとは、要は魚のすり身を揚げたもの。

 チーズ入りとかゴボウ入りとか、結構美味しいのだけれど、今回はシンプルなもので挑戦。

 

 天ぷらてんぷらの方は、180℃くらいでさっと揚げて、揚げ蒲鉾てんぷらの方は160℃くらいでじっくり揚げてと。

 イメージするだけで、神の権能たる全在の能力が全て自動で作ってくれる。

 

 揚げを作っている最中に思いついた。厚揚げも欲しいなと。勿論今は無理だ。何せ豆腐が無い。

 ひよこ豆でも豆腐が出来るか、後で試してみよう。もし出来るなら、厚揚げも作れるかもしれない。


 さて、揚げ物の後は、つゆをつくっておこう。

 順番がめちゃくちゃだけれど、時間停止の保存が出来るから問題無い。


 そしていりこから出汁を取るのも、やっぱり神様チートで即座に可能だ。

 今回のつゆは、いりこ出汁の冷たいタイプ。やっぱり醤油と薬味が欲しいけれど、今の段階では、いりこ出汁プラス塩味が最上だ。


 それではうどんを切って、茹でるとしよう。

 3回目だからか、安定の出来だ。高校の昼食で出ていたものよりはずっと上だと思う。

 

 そして今日の目玉は、やっぱり骨付鳥だ。かみ切りにくい部分は、あらかじめハサミを入れたように切断しておく。


 全部が皿に入ったところをイメージ出来れば、料理は終了だ。

 勿論時間停止状態で保存されているから、いつ取り出して食べてもいい。

 

 さて、今の時間は何時だろう。


『現在の時刻は9時15分です』

 

 思ったより時間が経っていない。

 これだけの料理を、人間だった頃の私が作れば、ゆうに1時間以上はかかると思うのに。

 

 やっぱり神様チート、便利でいい。

 イメージするだけで全てがほぼ理想的な状態で出来てしまうし、『寝かせる時間』まで短縮してしまうし。

 

 まだ顔を出すには早い時間だ。

 なら先昨日考えたドキ川の現場を、見に行ってこよう。


 移動したのは最下流部の少しだけ上流、潮止堰を作る辺りだ。

 此処は河口から3km程上流で、満潮時よりも土地の高さが5m高い。

 ここに満潮時より1m高い堰を作って、通常時に海水が入らないようにする。

 高波が来ても、川を3km遡る過程で、高さは大分低くなるだろう。


 予定では、ここから上流に向かって掘っていく。

 概ね1日に1kmずつ、途中の貯水池工事も含めると、1ヶ月半ほどかけて。


 このペースは、全知のアドバイスに従った結果だ


『1日に使える神力の限界を考えた場合、工事は1日に1km程度にしておいた方が無難です』


 だから今年の乾季は、この工事だけで半分近く使ってしまう。

 それでも上手くいけば、来年の乾季には水が得られる場所が一気に増えるのだ。

 悪くはない事業だろう。


 さて、それでは食事前の運動として、潮止堰付近を作ってしまおう。

 まずは勿体ないので、川に生えている使えそうな草はまとめて収穫して保存。


 収穫した草の種類は後で確認しようと思いつつ、自然堤防が出来ている地形と、昨日描いた概略図を、頭の中ですり合わせる。

 更には上空からの位置確認も、神の権能『全知』を使えば簡単だ。


 場所を完全に確定させて、工事の工程と、出来上がり図を思い描く。

 次の瞬間には、川の一部分だけが出来上がった。

 土を石化させて頑丈にした堤防と、幅120mある河原と、最深部で6m近く掘った、幅10m程の水路と、その左右に広がる洪水時用の河原スペース。


 これがほぼ500m、直線で続いている。

 1kmにしなかったのは、万が一の事を考え、余裕を見たからだ。


 現在はまだ、川の上下とは接続されていない

 一応上端部は元々の自然堤防の内側だけれど、この季節は川の水は伏流していて地表には出ていないのだ。


 それでも堀った部分から水が染み出してきた。

 あっという間に河原部分まで残り深さ50cm位まで、水位が到達してしまう。


 これは河口まで掘らないと、溢れるだろうか?

  

『天井川となっている為、元々の水位が地中にしては高いです。また土中にある為、そこそこの水圧がかかっています。結果、そこそこ高い位置まで水が出てくる訳です』


 とりあえず下流側、溢れた時に海まで水が流れるようにしておこう。


 潮止堰よりは3m高い程度の堤防と、満潮時の海面とほぼ同じ程度の高さの簡素な水路をささっと下流にのばしていく。

 明日以降、しっかりとしたものを造るので、あくまで仮工事だ。


 海まで到達したところで、全知に残りの神力を確認。


『本日分の8割程度を消費しました』


 なら今日は、とりあえずここまで。

 それにしても、思ったより簡単に水が出てしまった。結果的にはオーライだけれど。

 これでケカハ平野の中心近くに、水場が出来た。

 乾季にいつまで干上がらずにいてくれるかはわからないけれど、貴重な第一歩だ。


 一応水質を確認しておこう。


『塩分が混じっていない、飲用に適した水です。現在は水が湧いて出た際の勢いで周囲の土と混じり濁っていますが、半日もすれば土も沈殿し、綺麗な水となるでしょう。またこのままでも、水が枯れるという事はない筈です。乾季の終わりまでには、多少水位は下がりますけれども』


 ならもう、これでオアシス完成でいいだろうか。

 いや、洪水対策もあるんだから、今後の工事もしないと。

 そんなことを考えつつ、水が溜まった水路を、しばし眺める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る