愛が空から落ちてきて~空から未来のお嫁さんが落ちてきたので一緒に生活を始めます。ワケアリっぽいけどお互い様だし可愛いし一緒にいて幸せなので問題なし~
第16話 あれもこれもやりたいから、誰ひとり邪魔させたりしない的な歌に乗せて(後)
第16話 あれもこれもやりたいから、誰ひとり邪魔させたりしない的な歌に乗せて(後)
戻ってきたら紅久衣がいなかった。
「す、捨てられた――……」
ペットコーナーで打ちひしがれたかのように、両手を床に着くリヒト。
あまりの絶望感たっぷりな空気は、周辺の色んな仔ペットたちも、心配そうだったりドン引きしてたりするほどだ。
「あ、そうだ。Linkerで連絡を……って! 今の紅久衣ちゃんはスマホ持ってないし!」
連絡手段がない。
ショットマンと長々と話すぎて飽きられてしまったのだろうか。
もうダメだ。おしまいだ。
今からトイレに戻ってショットマンをもっと殴ってくるしかない。それで気持ちが晴れるかというと絶対に晴れない自信はあるのだが……。
「あの、お兄さん?」
「……はい?」
見る人が見たら、オシマイダと鳴く怪人を発注しそうなくらいネガティブオーラ纏って落ち込んでいるリヒトに、ペット売り場のお姉さんが声を掛けてくる。
「一緒にいたお姉さんからの伝言で、私もお手洗い行ってくるから……って」
「え?」
「スマホ壊れて連絡できないんですよね? もしかしたら変な勘違いしてお兄さんが落ち込むかもしれないからって」
実際、変な勘違いして落ち込んでましたよね? と苦笑気味に言われてしまう。
リヒトは恥ずかしくなって両手で顔を覆った。
「と、とりあえず……すれ違わないようにここで待ってます」
「そうした方がいいと思います」
お兄さん可愛いですね――とクスクス笑われてしまうのは、とてつもなく恥ずかしい。
顔を真っ赤にしながらリヒトは立ち上がると、ペットコーナーに置かれているベンチに腰を掛ける。
「ところでお兄さんは動物好きです?」
「あ、はい。好きですよ?」
「わんこ派です? にゃんこ派です?」
「どちらかといえばわんこ……かなぁ?」
そう答えると、お姉さんは仔犬を連れてきた。
「お姉さんが戻ってくるまで抱っことかしません?」
「……是非」
人懐っこい仔犬の誘惑は強烈だった。
・
・
・
ホームセンター
紅久衣の目の前には、筋肉の上に白衣を纏ったような怪しい男がいる。
「おやおや? もしかしなくとも誘い出されました?」
「気づいてなかったんなら、大したコトないのね。貴方」
「久慈福氏に言うコトを聞いてもらう為に、カノジョを人質に……と思ったのですが……」
プロレスラーなどを思い出すような体躯ながら、喋り方はどこか気弱で丁寧さがある。あるいは、陰キャの丁寧さと言うべきか。
「はぁ……リヒトくんも何か隠してるかなぁと思ったりしてたけど、結構なのに目を付けられてるな?」
「おやおや? 『も』というコトは、そちらもですかね?」
「まぁいいわ。リヒトくん案件の貰い事故。それでいい。面倒ゴトになる前にちゃちゃっと処理しちゃうから」
「またまた……何か荒事の心得がお有りで? でもでも、あまり調子に乗らないで頂きたいですな?」
そう言って男は、黄色ベースの不思議な色合いと光沢を放つ弾丸のようなものを取り出した。
紅久衣は表面は今まで通りにに、内心では警戒心を高めて、その様子を見る。
「不思議そうな顔をしていますな? これはバニヤンの弾丸。人間の潜在能力を引き出す発明品です!」
オタク気質というか研究者気質として、黙ってはいられなかったのかもしれない。
「フン!」
男が弾丸を握りしめる。
すると、その手の内側から黄昏色の光が放たれ、彼の顔に奇妙な形のメガネが現れた。
「このメガネは……我が心に宿る潜在能力の現れ! まぁまぁ、貴女には目に映らないかもしれませんが」
「ふーん」
興味なさげに鼻を鳴らし、紅久衣は自分の背中に機械――ロボットモノのそれを思わせる形状の純白の翼を展開する。
片方が、四枚の板で構成された翼が一対。つまりは純白の板が八枚。
「ぬ……よもや、おぬしは天然の開拓者……?」
「いいえ。人工の能力者よ。詳細は知らないけど、天使の模造品だってさ」
「我ら以外にも人工能力者に関する研究者が……!」
「はぁ――……貴方たちの正体はさておき、敵であるコトは確定ね」
人造の超能力者なんてモノは、自分たちだけで十分だ。
宣言とともに、両翼の一番外側にある羽の一枚づつ外して、その先端を男に向ける。
「ど、どのような能力かは知らりませんが、このメガネがあれば……ッ!」
「それこそどのような能力であるかは知らないけどさ――」
瞬間、宙に浮いていた羽の一枚が勢いよく射出された。
「ごふ……ッ!?」
男のボディに羽の先端がめり込む。
続けて二枚目の羽が射出されると、男の背後に回り込み、軽く回転して後頭部を強打して吹き飛ばした。
「ごあ……!?」
そのまま公園の植え込みの茂みに頭を突っ込む男。
痛みに耐えながらも、茂みから抜け出してきた彼は、紅久衣を見上げる。
「そのメガネがどういうチカラを持ってるか分からないけどさ、でもメガネの形をしている時点で『視る』能力でしょ?
その場合、『視て』から能力者が何かしらアクションを取る必要があるワケで……それをやらせないように立ち回るだけよ」
紅久衣は詰まらなそうにそう口にすると、男は含み笑いをしながら告げた。
「……ふ、ふふ……このメガネは『視る』能力ではない――なぜ、ならッ、これは……ッ!」
次の瞬間――メガネのレンズからビームが発射された。
「メガネ型のビームライフルとでもいうべきチカラなのですからッ!!」
だがそれは、紅久衣は背中から外した羽を目の前に並べて盾にして防いでいた。
まるで、発射されるのを予想していたかのようだ。
「まぁ視るではないと言った時点で、選択肢はそう多くないし」
羽が左右に動き、その隙間から紅久衣がゆっくりと姿を見せる。
「あ、ああ……」
「初見殺しでこれまで戦ってきた? それとも能力者同士の戦闘が初めて?
どっちにしろ、悪くない能力なのに宝の持ち腐れよ」
リヒトの前では絶対に浮かべないだろう冷たい目で男を見下し、紅久衣は右手を掲げる。
それに反応するように、羽のうち四枚が、紅久衣の頭上に移動し、その先端を男に向けた。
「く、くそ……!」
「遅い」
メガネからビームが発射されるよりも早く、四枚の羽が男に殺到するように動き、身体にめり込んだ。
「が……あ……おの、れ……」
羽の動きはそれで終わらず、幾何学的に動きながら、男をメッタ打ちにしていく。
「久慈福氏は……気配に敏感すぎるから……近づかず、先に女の子を……と、思ったのに……!」
飛び交う羽でボコボコにされながら、こちらを睨んでくる男。
彼を見ながら、紅久衣は口を開く。
「最初はさぁ、リヒトくんは目くらましに利用するだけのつもりだったんだよね」
ちょっとした独白だ。
別に男に聞かせるつもりの話ではない。
ただ、気持ちの整理を兼ねた独り言のようなモノだ。
ここで戦闘をしたことで、自分の感情が整理しやすくなったからしてしまおう――そういう個人的な理由で、紅久衣は続ける。
「火事は偶然だったワケなんだけどさ。そっから親身になってくれたり、一緒に過ごしているうちにねぇ……なんか、完全に
たった一日の付き合いだ。
だけど、十分すぎるほどの一日だった。
「惚れちゃったとも言い換えられるかな。惚れた弱みとはよく言ったものよね」
「な、にを……」
「こんな気持ちは初めてかな。だけど、これがふつうの女の子の感情ってやつかもって思うと嬉しくなるよね」
羽の一つが右腕と重なり、ガントレットブレードのようになった。
「アンタたちみたいのに狙われてるっていうなら、リヒトくんも同じようなコトを思ってくれてるかな。そうだといいなって思う。
わたしは彼を守るよ。お前たちみたいのから。このチカラで。その為ならいくらでもチカラを使ってやりたいとさえ思うの。
これが恋とか愛とかいうものなのか――っていうのはよく分からないけど、わたしはこの感情を大事したいワケよ」
それを構えて――
「だからさ――お前らのッ、下らねぇ動機でッ、わたしのッ、思いのッ、邪魔ッ、すんなァッ!!」
――思い切り振り下ろすと、男の意識を刈り取った。
「……ふぅ」
気を失った男を見下ろしながら紅久衣は小さく息を吐くと、同時に飛び交っていた羽が紅久衣の背中に戻ってくる。
それから周囲を見回して、改めて羽を切り離す。
茂みの影に羽を使って穴をささっと掘ると、首だけ外に出るようにして男を埋めた。
背中の羽を解除し、消すと公園の外へと視線を向ける。
「さて、一応知り合いにLinkerしと……きたいけど、スマホなかったわ」
どうしたものかと思考して、
「公園側の入り口にあったかな? 小銭にはあるし……念のために電話番号を暗記しておいて良かったわ」
公衆電話で知り合いに電話し連絡が付いたので、公園に埋めたことを一方的に話した。
小銭の消費が激しいから余計な会話が出来なかったとも言う。
「さて、戻るか」
だいぶ時間が掛かってしまった気がする。
リヒトが怒ってなければいいと思うが。
「いや、リヒトくんは怒らないかな?」
むしろ、黙って姿を消してしまったことに絶望して打ちひしがれてしまっている気がする。
その想像の姿がちょっと面白くて、笑みを浮かべながら、紅久衣はペットコーナーの方へと向かうのだった。
そして戻ってくると――
「えーっと、リヒトくんってば、何やってるの?」
「何と言われても困るんだけど……」
――仔犬や子猫の仔ペットたちに囲まれて、途方にくれている姿があった。
「あのさ、リヒトくん。スマホ貸して?」
「いいけど……何するの?」
「そりゃあ、写真を取るのよ。仔わんこや仔にゃんこに囲まれてるリヒトくんの」
「ええ~……助けてよ~……」
戸惑うリヒトが動物の仔に囲まれている姿をフレームに入れて、紅久衣は心ゆくまでスマホのシャッターを切る。
その様子は、カレシの面白可愛い姿にはしゃぐ、ふつうのカノジョの姿だった。
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