愛が空から落ちてきて~空から未来のお嫁さんが落ちてきたので一緒に生活を始めます。ワケアリっぽいけどお互い様だし可愛いし一緒にいて幸せなので問題なし~
第8話 ホームセンターとかいうペット売り場見たあとゾンビやテロリストについて妄想する為の場所
第8話 ホームセンターとかいうペット売り場見たあとゾンビやテロリストについて妄想する為の場所
喫茶アントワープの最寄りである
大きな敷地の半分がお店で、半分が駐車場。
駅からも歩道橋が延びていて、横断歩道を使うこと無く敷地へと入れる。
リヒトと紅久衣の二人も駅から通されている歩道橋を通って、そのお店
「巨大なホームセンターって意味もなくワクワクしない?」
「わかる」
お店の入り口から建物を見上げていた紅久衣が、目を輝かせながらリヒトに訊ねてきて、リヒトは真顔でそれに即答した。
とはいえ、今日は目的を持ってここへ来ている。
冒険気分は置いておいて、掃除用具を買いたいところだ。
「それじゃあ紅久衣ちゃん。どこから行く?」
「ペットコーナー!」
「う、うん。分かった。行こう」
声を掛けたら気合いMAXの握りこぶしにキラキラお目々で振り返られてしまった。
そんな紅久衣を見て、リヒトも否とは言えなかったのであった。
そんなワケでペットコーナー。
「くぅぅぅぅぅ、かわいい……ッ!」
仔犬仔猫の姿が見えるなり、口元を押さえて紅久衣が悶絶しはじめていた。
可愛い動物を見て悶絶しているキミが可愛い――と口に出すには、リヒトの度胸やら勇気やらがまだ足りない。今は恐らく度胸やら勇気やらのレベルが1なので、口に出して言うにはせめてレベル3くらいは欲しいところだ。たぶん。
「仔にゃんこが……あくびをした……ッ!!
あっちは仔わんこ同士がじゃれ合ってる……やはりここは天国……!」
「動物好きなの?」
「可愛い動物が好き、かな? シマエナガの写真とか延々見てられるし」
良い笑顔でドヤる紅久衣。
その様子を可愛いなぁ……などと思ってリヒトは見ていたが、ふと思う。
「紅久衣ちゃんって、ペット飼おうとは思わないの?」
「んー……」
その質問に、かぶりつくようにケージの中を見ていた紅久衣は身体を起こして真面目な顔をする。
「わたしは小さな命に責任を持てるような人間じゃないからなぁ」
「どういうコト?」
「わたしは――たぶんね、動物が好きなんじゃなくて、動物を見て愛でるのが好きなんだと思うの。
だから、命を預かり育てる行いである、『飼う』っていうのには向いてない。
エサやお散歩を忘れるなんて可愛い方で、大きくなって可愛いと感じなくなったら、お世話をしなくなっちゃうかもしれない。
自分の性格や考え方を考慮するとそういう結論になっちゃうからね。
だからわたしは、『飼えない』し『飼わない』……かなぁ。
飼ったら変わるかもしれない。だけど、変わらなかった場合が怖いから。
今後どうなるかは分からないけど、これまでは引っ越しも多かったから余計にね」
「そっか」
しっかりと自己分析して結論を出している紅久衣に、リヒトは何も言えない。
それはそれとして、ほわほわした毛の子猫の姿を見て、真面目な顔を一瞬でとろけさせた紅久衣は、可愛いと思うが。
そのまましばらく、小さく可愛い動物の子供たちを前にほわほわしている紅久衣だったが、やがて正気に戻ったのか慌てて振り向いた。
「ご、ごめん! なんかずっと見てた!」
「大丈夫。ボクもずっと見てたから」
「そ、そっか。良かった」
キミの横顔を――と口にするには、やっぱり勇気と度胸が足りなかったけれど。
「リヒトくんも動物好きなの?」
「うん。好きだねぇ、猫画像とか犬画像とか、ついつい見ちゃうよね」
「わかるー!」
冷静になってみると、彼女としても友達としても、付き合いだしてまだ24時間経ってないのだから、言わなくて正解だったかもしれない。
そんなことを思いながら、動物の話題に花を咲かせつつ、次のコーナーへと向かう。
ペット用品と日用品の間に、DIYやそれよりも専門的な工具のコーナーがあった。その前を歩いていると、紅久衣がふと真面目な顔する。
「こういうコーナー歩いてると、ついつい考えちゃうよね」
「なにを?」
「テロリストやゾンビが現れた時、ホームセンターにある道具でどう戦うか」
人差し指と親指の間に顎を乗せ、目を輝かせながらそう口にする。
それに、リヒトは笑いながらうなずいた。
「学校とかでもするって聞くよね」
「するんだ」
「あれ? しない?」
「学校の記憶がイマイチねー」
何やら紅久衣は言い辛そうにするので、敢えてそこには触れずにリヒトは訊ねる。
「紅久衣ちゃんは、どんな道具で立ち向かうの?」
「やっぱゾンビ相手ならチェーンソーかなー! テロリストなら高圧水量を噴射できるホースとか?」
「ホースの場合は、水道を確保しなきゃだから使いづらくない?」
「ここで使うんだから問題ない気もするけど……」
うーん――と、真面目に悩み出す。
その様子を見ながら、リヒトは胸中で微笑む。
(女の子とお喋りするってこんな楽しいモノなんだなー)
相手が紅久衣だから――という可能性に思考が辿り着けないのは、悲しいかなリヒトのこれまでの人付き合いの少なさ故である。
「リヒトくんは、どんな武器使うの?」
「ボク? ボクは……うーん、そうだな~……」
紅久衣に問われて、リヒトは少し思案してから、うなずくようにして答えた。
「やっぱりボクは自分の身体でパンチとキックかなぁ」
「フィジカル全振りッ!?」
「いやだって変に道具使おうとして上手く使えなくてピンチになるくらいなら、そっちの方が良くない? ゾンビはともかくテロリストならなんとかなりそうじゃない? グーパンで
」
「完全なる
「パンチじゃなくても鳩尾入ったらだいたいウッってならない?」
「大抵はなるけど!」
「あ、でも……この答えだと道具でどう戦うかって妄想遊び的には反則かな?」
「そういうのもあっていいと思います。道具に頼りすぎるのは良くないからね」
「良いコト言ってるようで、そのセリフの使い道間違ってない?」
「そうかな?」
そうこうしているうちに、日用品の掃除用具売り場をスルーして家電売り場へと突入する。
「いつまでアントワープの二階を使うか分からないけど、やっぱテレビ欲しいなー……リヒトくんの家にはある?」
「一応あるよ。あんまり見てないけど。必要なら、あげるよ? だいぶ前の型落ちで良ければ」
「え? ほんと!?」
そんなこんなで、二人はたっぷり三時間ほどかけて心ゆくまでホームセンターを堪能するのだった。
「あ、マスターから
リヒトがスマホを確認した時、メッセージが届いていると画面に表示されているのに気がついた。
すぐに定番のチャットアプリ『Linker』を起動して、マスターから届いたメッセージを確認する。
《だいぶ日が落ちてきたけど帰ってきて掃除しないの?》
横から覗き込んでそれを目にした紅久衣と顔を見合わせて、二人は思わず同時に口にした。
「完全に当初の目的忘れてた」
どうやら本格的な掃除は翌日以降になりそうである。
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