第17話 どうした? 舌圧がいつもより弱いぞシロ

移住の準備を進める、必要なものだけ持っていけばいいから楽だな。家を破壊するとなるとなかなかに面倒。


「ここからどれだけ持っていく?」


家の素材は木製、石、レンガであろうと全て現地で調達可能だったから用意していく必要はない。ここにあるものはほぼある。この街に魔物使いが寄り付かない理由の一つだろう。もっと便利な街があるわけだからな。


「どんな家を建てるの?」

「まだ決めてない」


選択肢が広がったのはいいがおかげで悩むところではある。持っていく物はここで作った道具と旅中の持ち物くらいか。テントは協会に貰った物を使おう。ソリでは距離があるから大変だな、荷車を作ろう。量的には一つあれば十分足りそうだ。


「物資を運べる荷車を作ろう」


胴体部分は木材を組み合わせるだけだが、タイヤが非常に難しい。アリーにホイールの製作を要請する。今更ながらアリーが仲間になってくれてよかった。全部持ち運ぶことになりそうだったからな。木材を切り出し胴体部を作成、魔銅製のノコギリはよく切れる。魔銅で金属のタイヤを作る。魔銅を板にして伸ばし円形のタイヤに。


「できたよ」


木製ホイールが完成、円周の長さを測りタイヤの微調整をする。タイヤを熱し、熱膨張したら吊り上げ木製ホイールにはめ込む。ハンマーで叩きながら冷やしていく。こうしてタイヤが完成、もう一つ作り、シャフトを取り付け荷車の完成。問題なく動く、よしとしよう。予備のタイヤも作っておく。作り終える頃には夕日が差してきた。晩ごはんの準備をしよう、そうだ良いものがあるぞ。


「お酒飲んでみる?」

「飲みたーい!」


ワインを作ってから約半年。そろそろできあがっているかな。封をはずし蓋を開けてみる。芳醇な香りが中からしてきた。いい匂いだ、これはうまくできたかも。液体を少しだけすくって味見。口に広がる葡萄の香りと甘み、少々雑味と苦みがある。そして体の芯から熱くなるこの感覚。アルコールになっているようだな。


「まあワイン飲んだことないからよくわからんのだけどね」


おそらく完成! アリーを呼び一緒に飲むことに。


「へぇ、おいしい。お肉と合うね」


なかなかにうまい。調子に乗って飲みすぎてしまった。


「顔が赤くてろれつが回ってないよ。もうお酒はやめて寝た方が良い」


うーむ、意識が飛びそうだ。いけない、飲みすぎた。アリーの言う通りこのまま寝るとしよう。では失礼とベッドに飛び込みそのまま眠る。アリーも自分の拠点に帰っていった。


「あー、喉乾いたけどコップをアレスの家に忘れちゃったんだよね。お邪魔しまーす、って寝てるか。……シロ達、秘密にしておいて」


口元に物体が接触した感覚がした。


「えへへ、しちゃった」

「ん~」

(うっ、何だ起きてはないな)


そうかシロか。まだ暗いじゃないか、本当に甘えん坊だな。


「仕方ないな、まだ暗いけどおはようのベロベロをするとしよう」

(むぐっ、捕まって抱きしめられて。ちょっ、ちょむぐぐ)


翌日、うー頭が痛い。これが二日酔いってやつか。しかも昨日の夜の記憶がほとんどない。お酒で失敗してしまったな。朝食はお酒のお礼にアリーが作ってくれるって言っていた。彼女の拠点に移動。いつもは見ない食べ物がテーブルに並んでいる。こいつはパンか。野生の麦を採ってきてパンにしたんだろう。あー、この香り懐かしいな、朝食にパンはよく食べていた。スープを飲みながらパンを食べる。表面はパリッとしていてなかはふわふわ、うまい。昨日はお酒を飲んだし、この世界ではかなりの贅沢をしてきたな。


「朝から豪華だな」

「そうだね」


アリーは妙にぼーっとしている。彼女もお酒にやられたか。大量に飲んでなかったから俺ほどではなさそうだが。


(すごかった……)


そうだな、彼女にはコーヒーとハーブティーを教えておこう。ドンモルだと一緒に暮らすことになるから彼女の目を盗んで飲むのも難しくなるだろう。この時代にないものだから少々迷ったが、仲が良いし口も固そうだから話しても問題ないかな。拠点から材料を持ってきてアリーにコーヒーとハーブティーを作ってみせる。


「おいしい! こんな飲み物があったなんて」

「秘密で頼む」

「ふふ、二人だけの秘密ってわけだね」


その後はレベル上げの日々。そしてついにこの街に来て一年の月日が流れた。


「アレスを正式に魔物使いとして認める」

「ありがとうございます」


一年間の人を見る試験は合格、魔物使いの認定証を受け取る。脳内画面にも合格の文字が記入される。


「しばらくはこの街に留まるんだったな」

「はい、アリー待ちですね」


これからは宿屋で寝泊まり。魔物は森に寝泊まりしてもらう。今までは森は国からの借り物、これからはお金を出して森を借りることになる。森に毛皮を敷き魔物の寝床を作っておく。


「アリーも問題ない」

「そう聞いてます」


そして月日が流れアリーも魔物使いに。旅の準備をしていよいよ出発の日。


「いってきまーす」

「元気でね」


街の人に見送られながらドンモルの街へ。

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