レアスキル「交配」を使って自分だけの最強の魔物をつくろう!

保戸火喰

第1話 犬も猫も好きです

「この世界ともお別れだな」


魔物を仲間にして中世ヨーロッパ風世界を一緒に冒険する世界で大人気なアクションRPG「ウィズユニバース」、愛称ウィズ。オンラインにも対応、PVP、PVEもできる幅広いゲーム性、サバイバルをしながら家を建てたり道具を作っていく、マップは自動生成で飽きにくい作り。


「良い作品だった」


俺の名前は門上亜礼子(もんがみ あれす)、16歳、実家暮らしの高校生の男の子。ゲームの評判を聞き購入、非常に長い時間このゲームを遊んだ。数千時間という時間を溶かした者達もいる、当然俺もその中の一人だ。しかしどんなものにも終わりはくる。流石に飽きた。中にはRTAに挑戦しているようなツワモノもいるが、完全に運ゲーだからRTAとは相性が悪そうだ、俺はパスだな。


「ワン!」

「いいぞ入ってきて」


飼っているワンちゃんがレバーハンドルに前足を乗せ扉を開けて入ってきた。人語を理解し扉も開けられるなんて賢い子だ。寝る前の挨拶、飛びついてベロベロ攻撃。おかえしにとワシャワシャと体を撫で回し攻撃、突然手を離し止め姿勢を良くして真顔で待つ。するともっと! とお手をしてくるので再度ワシャワシャする、そして止める。ある程度繰り返すと満足して帰っていった。お互いのナイトルーティーンだ。今日もそろそろ寝る時間。おっといけない、PCで軽作業があるのを忘れていた、片付けてしまおう。


「にゃ~ん」


キーボードを触っていると、ワンちゃんと入れ替わりにキャッツが入ってくる。うちは猫も飼っている動物好き一家だ。ちょっと待って、もうちょいで終わるから。関係ないねとキーボードと俺の隙間に入り込み、くるくる周り尻尾をこすりつけてくる。そして急に動きが止まる。まさか! 猫はキーボードに向かって倒れだした。


「や、やめろー!!」


猫をキャッチ、間一髪セーフ。駄目じゃないかと頬でお腹を擦りながらそのまま持ち上げ下に置く。フィニッシュのエンターキー軽快に押す、これで終いっと、PCの電源を落とす。トレーニングして風呂入って寝るか。腕立てしていると猫がまた寄ってきて右手と左手の間に入り横になる。そのまま猫吸い腕立て伏せが始まる。


「寝るか」


さっぱりしたら眠気が押し寄せてきた、あくびをしてベッドに入る。明日からしばらくは自分に合ったゲームを探すことになりそうだ。寂しさもあるが面白いゲームを探すワクワクも感じながら眠りにつく。


「あー、よく寝た。ってここはどこだ」


目を覚まし周りを見る。寝た時と場所が違う、俺の部屋ではない。木材で作られた部屋、ワラとシーツの簡易なベッド、部屋内は知らない人達がベッドで寝ている。地面が揺れる、ここは船の中か。初めて来たはずの場所だが見覚えがある、そうだ、ウィズのスタート時と同じ状況だ。ゲームは魔物使いになるために船に揺られ試験を受けに行く旅の途中から始まる。何度もやり直したから頭と体が覚えている。ということはウィズの世界に飛ばされたのか? まあここは海の上、船の中。こうなってしまっては流れに任せるしかないか。慌てたところで現実世界に戻れないしね。もう一眠りしとこ。港に到着し試験会場がある魔物協会へ行こうと思ったが、道が全くわからない。ゲームのマップは自動生成、当然街も自動生成、わからないわけだ。通行人に聞き協会へ。


「ここか」


協会を見つけ建物の中へ。多数の人が協会内に居た。俺と同じように魔物使いになろうとしている人達だ。


「新規で魔物使いになりたい方ですね、名前の記入を」

「はい」

「こちらは試験札です、無くさないようにしてください。アナタは35番となります。では覚醒室へ」


受付を済ませ言われた場所へ移動。ツンと鼻を突く薬のような匂いが立ち込める場所だ、あまり好きなところではないな。注射のようなもの、少々痛みがあるとか。完全装備のお医者さん達が忙しそうに出入りしている。参加者達に緊張が走る。なんだかペットの予防注射に似ているな、犬の気持ちが少しわかったかも。この雰囲気に耐えきれなかったのか、男の子が一人途中で逃げ出す。わかるよ、お医者さんて無条件で怖いよね。順番待ちをして俺の番。


「この特殊な金属を埋め込むことで魔物使いの力を使うことができる」


椅子に座り頭を固定、大きな機材を使い首元に特殊な金属を埋め込まれた。チクッとした軽い痛みの後に視野内にゲーム画面のようなものが表示される。馴染みのある画面だ、やはりウィズの世界に飛ばされたようだ。


「魔物使いとして覚醒したようですね、では楽にして。この後説明があります」

(あれ?)


一つだけ「交配」という見たことがない文字が。ウィズにこんなものはなかったはずだ。全く同じ世界ではないのかな。なになに、魔物の力を抽出して新しい魔物を作ると。へー、面白そうだ。


「どうしました? 35番さん」


おっとじっくり考えている時間はない。驚いているだけだから大丈夫と返答し椅子から降りる。他にも色々説明が書いてあるが後回しにしておくか。


「これから試験の説明会です、会場へどうぞ」


番号の席に座る。受付終了時間になり、前方の教壇に協会の人が立ち挨拶をしたあと話を始める。

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