第59話

 僕と越谷さんの二人で合宿所の外へ出てきた。外は山奥だから六月というのに肌寒い。僕は正直謝るだけのつもりだったのでわざわざ外に出てきたというのはどういう事なんだろう。合宿所の扉の前で越谷さんは立ち止まった。ここで話すつもりなのだろう。


 「で、話ってなに?」


 越谷さんは腕を組んで尋ねてくる。怒ってはいないようだが、何故かピリッとした空気がする。


 「い、いや、越谷さんの夢について余計な事を言ったかと……」


 「でも、アンタは間違ってないと思ったんでしょ?」


 うっ、確かにあの時の僕は自分が間違った事を言っていない。正しい事を言ってるって認識があったので何と返したら良いか分からない。


 「いや、春日部はそれで良いんだよ」


 「え?」


 何か言われるかと思って身構えていたが予想とは違った返答だった。越谷さんの顔を見ても嘘を言っている、ましてや気を遣って話をしている訳じゃないと感じた。


 「当たり前だけど、私と春日部の考え方は違うんだから」


 「じゃ、じゃあ、何で話し合いの時、越谷さん怒ってたの?」


 今話してくれた事を信じるなら、話し合いの場で僕の意見を言ったことは全然問題ないように思えるんですけど。


 「まあ、素であんな意見言われたら、私の何を知ってるんだ?ってキレちゃって」


 越谷さんはテヘと舌を出して誤魔化す。いや、それ越谷さんがやったから可愛いで済むけど、僕がそれやったら脳天チョップ食らいますよね?とは怖くて言えないので黙っている。


 「ま、まあ、怒っていないなら良かったよ……」


 「ふ~ん、で話ってそれだけ?」


 「え、うん」


 僕が肯定すると、こいつマジかという顔をされる。いや、外まで連れ出したのアナタですやんと脳内でツッコミを入れる。


 「まだ夕食まで時間ちょっとあるし話でもする?」


 「ほっけー」


 何その返事と問われたので、オッケーとほっけを合わせたギャグだと伝えたらバカじゃないのとまた呆れられてしまった。何か自分って人と話していると呆れられる事多すぎやしないか?


 「そんなどうでもいい事はほっといて」


 「はい」


 「明日、夜にキャンプファイヤーやるじゃない」


 「あ、らしいね。朝、山登って、合宿所戻ったらキャンプファイヤーの準備だから結構ハードだよね」


 明日のスケジュールとしては朝から昼過ぎまで山登りをして夕方キャンプファイヤーの準備をして夜に行うというスケジュールになっている。新入生合宿という名に恥じないくらいには大変だ。


 「で、さ」


 越谷さんはその後の言葉を言い淀んでいる。僕はその先の言葉を待つが全然言おうとしない。一体どうしたんだろうか。

 

 「そのキャンプファイヤーの噂って知ってる?」


 何十秒か待っていると再び話始めた。キャンプファイヤーの噂?何かそのような話を何処かで聞いた気がするな。


 「あっ、姉ちゃんが言ってたやつかな」


 「へ~、春日部、お姉ちゃんいるんだ。って今はいいや。キャンプファイヤーの噂って何て聞いてる?」


 「え~と、確か、キャンプファイヤー中に告白すると成功しやすいみたいな?」


 「そ、そうそう。で春日部はさ……」


 「?」


 再び、言い淀んでいる越谷さん。何かいつも以上に何か様子がおかしいな。いや、すいません、いつも様子がおかしいと思っている訳じゃないんです。


 「その噂、春日部ってどう思ってる?」


 「ど、どうって」


 「何となくの印象で良いから……」


 「いや~、ありがちな噂というか、学校の七不思議みたいな感じであんまり信じられないなあ……」


 「まあ、アンタはそう言うか……」


 僕がそう言うとまたハアとため息をつかれてしまう。今日だけでこれまでの人生分人に呆れられている気がする……。


 「まあ、キャンプファイヤーの時に言いたい事あるから。それだけ!!」


 「え」


 越谷さんはそう言うと合宿所の中に戻って行った。

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