第57話

 入間さんによると、先生に言えばボールを借りれる事になったため、軽くサッカーをして休憩時間を過ごした。その後、夕方からオリエンテーションをする。高校生活を過ごしていくうえでの目標がテーマで班ごとに話し合いをして最後壇上で発表するというものだった。


 「目標って何発表すればいいのか分からないんだけど」


 越谷さんが机に頬杖をついて悩んでいるようだ。正直、僕にとって、話し合いのテーマよりも気分が重いものがある。


 「はあ、これ最後発表するのって……」


 「当然、班長の春日部だろ」


 本庄君に念のため、確認したら案の定僕が発表することになるようだ。新入生代表の挨拶をしたときも思ったけど僕の様な陰キャに壇上に立たせないで欲しい……。僕は頭を抱えて悶える。


 「まあ、でも高校入ったばかりで目標とか考えられないよね。三年になったら受験の事で頭一杯になるだろうし」


 入間さんはまだ、将来の事を考えられないと言ってうなだれる。まあ正直、班の皆今までそこまで考えた事が無いといった感じで頭を悩ませる。


 「高校生活を送るうえでの目標っていうアバウトなテーマだから正直何でもいいんじゃないかな」


 「春日部……、そういうならお前はどんな感じなんだ?」


 「え、ええ、僕の場合で例えばだけど、学年一位を目指して最終的には学校の推薦を貰って大学に入るとかかなあ」


 「まあ、お前、頭良いしそういう明確な目標がある訳だな……」


 「そういうのなら俺もあるぜ!!」


 小川君が元気よく手を上げて発言する。ただ、小川君の今までの様子から僕以外の四人はあまり期待してないのか反応が薄い。


 「俺はサッカー部だからまずはレギュラーを目指す。そして大会でも結果を出してスポーツ推薦を取るぜ」


 「おお……」


 小川君の口からちゃんとした目標が出てきて皆、目が丸くなっている。


 「何か……、小川に負けたみたいで悔しいな……」


 本庄君がかなり悔しそうにしている。小川君だって色々考えているのが分かって自分を責めているのだろうか。


 「恥ずかしいんだけどさ」


 川口さんが口を開く。その続きを待つ為、皆が黙って待っている。


 「私、小説が好きだから、将来小説書いてみたいって思ってるんだけどさ。でも高校生活でって関係あるのかな……」


 なるほど、川口さんは生粋の読書好きだ。それで自らでも生み出したいと考えているのか。ただ、その夢に向かってどうするか分からないって感じかな。


 「多分、この時間って、その将来に向かって高校生活の時間をどう使っていくかを考える時間なんじゃないかな」


 「な、なるほど……」


 僕はこの時間が高校生活の目標ってアバウトなものにしているのは、何処まで明確なビジョンが持てるかっていう試験にもなっているのではないかと感じた。


 「俺、将来の夢とかないな」


 「わ、私も~」


 本庄君と入間さんが将来何になりたいかなど、無いし近々の目標も無いという感じか。そういえば、ここまであまり越谷さん喋っていないな。元々、話すのが得意では無いにしろ、このメンツなら話しやすいと思ったが越谷さんはずっと考えて話そうとしない。


 「越谷さんは何か目標とか夢とかある?」


 「えっ、え~と、あるにはあるんだけど」


 「?」


 皆の頭の中ではてなマークが浮かぶ。何だろう、言いたくない理由でもあるのだろうか。


 「絶対笑うもん……」


 「いや、笑わないよ……」


 「どんなに大きかろうが、小さいものだろうが目標や夢をバカにするものではないと思う」


 「うっ、じゃ、じゃあ、将来の夢は結婚ていうか、幸せなお嫁さんになりたい……」


 越谷さんの将来の夢は随分可愛らしいものだった。

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