第55話
「そ、それってどういう……」
越谷さんから今度、料理作ってあげようかと提案されて意味が分からずそのまま反射で質問してしまう。
「そ、それは例えばお弁当作ってきてあげるとか。私の家で食べるとか色々よ!!」
越谷さんテンパりすぎて凄い事言ってるんだけど、自覚あるんだろうか。でも僕のお弁当作ってくれるのか……。正直、女子、ましては越谷さんの手料理だなんて他の男子が聞いたら天変地異が起きるのではないだろうか。
「こ、越谷さん、落ち着いて……」
「ご、ごめん。変な事言っちゃって」
取り合えず興奮したまま包丁を持つのは危ないので落ち着かせる。越谷さんはふーと深呼吸をして少し落ち着いてきたようだ。越谷さん定期的に興奮状態になるけど大丈夫なんだろうか……。
「春日部、さっきの事忘れて……」
「い、いや……、でもさ越谷さんが良ければさ」
「うん?」
何故だろう。僕は先ほどの話を無かった事にしたくないって思ったんだ。
「越谷さんの手料理食べてみたい……」
「えっ」
僕の心の声が気付けば口から溢れ出ていた。その事に気付いたのは越谷さんの真っ赤な顔を見てからだった。あれ、今僕何を言った?
「そしたらさ……、今度、私の家来なよ……」
越谷さんは真っ赤な顔を隠すかの様に下を向いて声を絞り出していた。その言葉を聞いた時、僕は自分の心臓の音が聞こえるほどドキドキしてしまった。
「こ、越谷さんが良ければ」
「基本的にうち、親いないから何時でも良いから」
「わ、分かった」
了承の返事をした瞬間、越谷さんが話した言葉の意味を考える。ん?越谷さんの両親が居ない時に家行くのって結構大変な約束してないか。しかし、今更その事を聞くのは憚られた。
「うわ~、米がボウルからめっちゃ零れてる!!」
「川口さん、雑に洗いすぎだって!!もっと力抑えて洗って」
越谷さんの家に料理を食べに行く約束をしている時に、洗い場から川口さんと入間さんの声がする。今の会話を聞いただけで川口さんがどんな行動をしているか想像出来てしまい、僕と越谷さんはプッと笑ってしまった。
「ふふ、川口さん大変みたいだから行ってあげたら?」
「野菜も大体切り終わるしその方が良さそうだね」
僕は越谷さんと離れて、洗い場の方まで歩いた。すると川口さんの今にも泣きそうな顔を見てしまい、笑顔になるのを我慢した。
「川口さん、大丈夫?」
「あっ、春日部君、ダメみたい~」
流しに米粒が結構落ちているのが見えた。どれだけの勢いで米研いだんだろう……。
「川口さん、そんなに勢いよくやらなくていいんだよ」
「ええ、でもちゃんと研がないとでしょ?」
「あまり研ぎ過ぎない方が美味しく食べれるんだよ」
「え、そうなの?」
川口さんはカルチャーショックと言ってかなり驚いた顔をしている。豆知識だが、お米の表面に旨味があるので水が透明になるまで洗わない方が美味しく食べれるらしい。
「うわ~、勿体ない事しちゃったな……」
川口さんは見るからに落ち込んでしまっている。
「川口さん、大丈夫だよ。まだ米はかなり残ってるしまだ美味しく食べれるよ」
川口さんの落ち込んだ顔が見たくなくて慰める。それを聞いて川口さんはよーしと気合を入れなおして準備に取り掛かっていた。後はそろそろ火の準備をしないとだ。僕はかまどの準備をしに本庄君達の所に戻って火の準備をする。
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