第49話

 「はあっはあっ」


 僕は額から零れる汗を拭う。


 「いや、まだバスで合宿所来ただけなのに疲れすぎだろ」


 本庄君からツッコミを入れられてしまう。まあ、ちょっとオーバーリアクションだが、行きのバスだけでこんなに疲れるとは思わなかった。これも越谷さんにあそこまでからかわれたからだ。


 「よーし、各生徒は自分の部屋に荷物を持って行って荷解きをして、今から一時間後、この広場に体操着で集合しろ」


 上尾先生に促され各生徒は男子寮、女子寮に分かれて移動し始めた。この合宿所は学校のものらしく、長期休暇の時は運動部が合宿所として使用するらしい。僕達は事前に知らせている部屋番号の元に向かう。部屋に着くと二段ベッドが二つあった。僕の部屋は班と一緒で僕、本庄君、小川君の三人が泊まる為、一つが空くことになる。


 「どうしよう。二人共下が良ければ僕が上行くけど」


 基本的に二段ベッドの時は、利便性の為下のベッドの取り合いになる事が多い。その為、先に僕が上に行けば揉める必要も無くなるだろう。


 「いやいや、こういう時はじゃんけんだろ」


 「そうそう」


 本庄君と小川君は腕まくりをしてじゃんけんの準備をしている。まあ、二人がこう言うんだったらじゃんけんするか。


 「じゃーんけーんぽん!!」


 結果は僕と本庄君がパーを出して小川君がグーを出した。つまり小川君だけ上のベッドに決まったという訳だ。


 「があああああああああ」


 「お、小川君、僕は上でも全然……」


 「春日部、甘やかさなくていいぞ。小川、さっさと負け組は上登れ」


 本庄君はニヤッと怪しい笑みを浮かべて煽っている。いや、負けた相手にそこまで言わなくてもと思ったが小川君はクソーと言いながら二段ベッドのはしごを登ってベッドの上で叫んでいる。いや、何で?


 「小川君、着替えとか準備してからの方が……」


 「あああああああ」


 小川君はまた叫びながら下に降りてきた。いや、合宿でテンション上がっているんだろうけどノリがおかしい事になっているな。


 「騒いでいるの誰だ。うるさいぞ!!」 


 部屋の外から上尾先生の声が響く。その瞬間、小川君はシュンとテンションが下がってしまった。何をしているんだこの人は。とおふざけをしながら荷解きなどを行っているとすぐに時間になったので合宿所の敷地内の広場に向かう。


 「それでは準備運動としてラジオ体操を行った後、合宿所の外周をジョギングをする」


 生徒達からは不満の声があがる。まあジョギングといっても運動が苦手な生徒も多いから本当にゆっくりだろうしそこまで問題ではないだろう。その後、全体で体操をした後、クラス毎にジョギングの為、敷地の外に集まった。


 「走るとか本当無理なんだけど」


 いつの間にか僕の横に立っていた越谷さんがダルそうにしている。


 「越谷さん、運動苦手なの?」


 「は?春日部だって運動部じゃないんだからきついでしょ?」


 越谷さんがジッと見つめて来る。


 「そりゃ、本格的な運動は厳しいけど中学の時、運動部だし別にこれくらいは」


 「くそ、ガリ勉の癖に……」


 越谷さん、結構な悪口飛んでますよ?それ僕じゃなきゃ結構傷付くからね?


 「そもそもこれどれくらい走るの?」


 「確か、三キロくらい」


 「それなら三十分くらいだよね……、まあ何とか……」


 「いや、ここ山奥だから高低差あるはずだし割とキツイかも」


 僕の言葉を聞いて越谷さんの顔が死んでしまった。まずい、余計な事を言ってしまっただろうか。


 「よし、じゃあAクラス出発するぞ」


 先頭にいる上尾先生の号令で生徒達は走り出した。僕は越谷さんの様子を見ながら走った方が良さそうだなと思いながら一番後ろから越谷さんと並んで走り始めた。

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