第24話

 川口さんが叫んだ後、図書室にいた生徒達は川口さんの様子に恐れをなして図書室から出て行ってしまった。つまり、この図書室にいるのは僕と川口さんの二人きりという事になる。だがそんな状況でも僕は別の意味で緊張している。何故だか川口さんが何でだか不機嫌だからだ。


 「あの~、川口さん?」


 「……、何?」


 ずっと二人で黙っていたが、いたたまれなくなってきたので僕から声をかける事にした。何故怒らせてしまったのか分からないが僕のせいという事ならば僕から謝るしかない。


 「理由も分からず謝ったらそれこそ怒るから」


 「……」


 これはもうダメみたいですね……。これは下校の鐘が鳴るまでこのまま耐えるしかないようだ。僕は絶望して現実逃避の為に机の木目を眺める事にした。あっ、この木目人の顔みたいだ。ふふっ。とそのようなくだらない事で笑っていると何故か視線を感じるので横目で川口さんをそっーと見ると、僕の事をずっと微動だにせず凝視している。その様子に気が付いた僕は思わずひっと驚いた声を出してしまった。


 「何?」


 「いえ、何か用があるのかな~と」


 「自意識過剰なんじゃないですか?」


 と何故か嫌味で返されてしまった。こりゃもうだめですわ。もう諦めて怒っている理由を聞こう。余りにこの時間はキツイ。


 「あ、あの、川口さん」


 「はい」


 何故か敬語で返してくる川口さん。僕は気になるがスルーして続けて話し続ける。


 「本当に申し訳ないんですけど、何故川口さんが怒っているのか分からないのです。お教えいただきたく存じます」


 緊張しすぎて僕の方が固い文章になってしまった。これもっと怒られるやつなんじゃないかとビクビクしながら川口さんの方を見ると、先ほどとは打って変わっていつも通りの川口さんに戻っているような気がする。


 「まあ、怒っているのは半分冗談なんだけどね」


 「な、なんだ~、僕はてっきり怒らせちゃったのかと」


 な、なんだ、今までのは全部僕を脅かす演技だという事か。全く本当に怖かったのに。


 「半分って言ってるでしょ」


 川口さんの言葉を聞いてビクッと背筋を伸ばす。え、どっちなの?


 「ふん、私に怒る権利がないってだけよ……」


 「?」


 川口さんは意味ありげに独り言をつぶやく。ごめんなさい、全然聞こえません。


 「ていうか、春日部君!!クラスの友達が女子だなんて言ってなかったじゃない!!」


 「あれ?そうだっけ?」


 伝え漏れがあったかどうか脳内で考えるがゲーセンでちょっと話をした内容など忘れているので分からない。


 「え、春日部君、友達いないのに女子の友達居るっておかしくない?」


 まあ、そういわれてみれば確かにそのパターンは珍しそうではあるがそれで怒られるの理不尽では?


 「え、それで怒ってるの?」


 「……イライラしただけで怒ってないわよ」


 それ、要するに怒ってるってことでは?と疑問に思ったが触らぬ神に祟りなし。僕はそれには触れない事にした。


 「で二人は付き合ってるの?」


 「はい?」


 川口さんは予想外な疑問を投げかけてきたので素っ頓狂な返事をしてしまった。


 「まさか、僕が女の子と付き合えるわけないじゃない」


 「……、女子と二人で出掛けてる癖に何でそんな自己評価低いのか理解に苦しむんですけど。しかも私とその子の二人」


 「……」


 自己評価が低いか……。自分にあまり期待をしなくなったのは過去の事があるからだ。だがそれを学校の誰かに話すつもりはない。


 「……春日部君にも何かあるみたいね。ハア、じゃあもう今日はこの話終わり。もうすぐ下校時間になるし」


 こうして今日の委員会は終わった。

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