結末

探偵・誠は、施設が安楽死を選んだ人々や製薬会社などから、莫大な寄付によって運営されていること、そしてその寄付金が、施設運営費や多種多様な物に利用されているかについても詳細を知る。

誠は施設の創設者でもある田中 雅子の情報を集め、彼らの何を目的としてこの施設を運営しているのかを突き止めようとするが、田中雅子は探偵に静かに語り始めた。「私は若い頃から医療の現場で働いてきました。患者の苦痛を和らげることに情熱を注いで、何十年も終末期医療に携わってきました。」


彼女は遠い目をしながら続けた。「多くの患者の最期の瞬間を見届けてきました。苦しみながら亡くなる姿を見て、彼らにもっと楽な方法があればと思うようになったのです。最期の瞬間を少しでも安らかに過ごせるようにしたい、そんな思いが募る一方でした。」


「そして、その思いが安楽死を選択する人々のために、この施設を立ち上げる決意につながりました。ここでは、彼らが苦しまずに死を迎えられるようにすることが私の使命です。」雅子の目には、決意と優しさが交じり合っていた。「それが、私がここにいる理由です。」





探偵との対立

誠は施設の秘密を明らかにする一方で、他の志願者たちにもその情報を共有しようとした。しかし、悟、翔子、光輝の三人は誠の行動を止めるべきだと主張し、探偵と対立するようになった。


「誠さん、なぜそんなことをするのだ?」悟は探偵に詰め寄った。「私たちはこの施設を信頼してここに来たのだ。何も知らないほうがいいことだってある。」


探偵は冷静に答えた。「君たちがこの施設に来た理由を理解している。しかし、真実を隠すことが解決策だとは思わない。」


翔子も口を挟んだ。「探偵さん、私たちは茂田将さんを殺害するなんて協力していません。そう言われたけれど、それは誤解です。ただ、この施設の情報を信じてここに来た」


悟が力強く続けた。「俺たちはもう帰るつもりはない。親が連れて帰って欲しいと依頼してきたって、今さら手を取ってくるなんて遅すぎる。俺たちはここでどうすればいいか、ずっと悩んでいた」


探偵は三人の言葉を聞きながら、彼らの絶望と苦悩を感じ取った。「君たちがここで何を感じ、何を求めているのか分かるつもりだ。しかし、真実を知ることが君たちのためになるかもしれない。」


悟は頑なに首を振った。「探偵さん、私たちにとって大切なのは、ここで安らかに過ごすことなのです。真実がどうであれ、私たちの選択を尊重して欲しい。」


翔子も同じ意見だった。「私たちはもう決めたのです。ここでの時間が私たちにとって最良のものになるようにしたい。」


探偵は深いため息をつきながら、彼らの決意を理解した。追求する意志を持ち続けた。

真相の理解と選択

探偵は三人に対して、施設の運営方法や過去の出来事について詳細に説明した。施設の真実は、確かに安楽死の名のもとに行われているが、それは自殺幇助と法的には同義であることを強調した。彼らはそれを理解したが、依然として自分たちの選択に揺るぎない意志を持っていた。


悟は言った。「確かに、法的には自殺幇助にあたるかもしれない。でも、私たちは安楽死を望んでここに来た。自分たちの決断を変えるつもりはない。」


翔子も静かに続けた。「ここに来たのは、自分たちの意志であり、最後の選択です。真実を知っても、その思いは変わりません。」


光輝は探偵を見つめながら話した。「私たちの苦しみを理解し、支えてくれる場所がここだった。それが何であれ、ここでの決断は私たち自身のものです。」


探偵は彼らの言葉に深く考えさせられた。彼の仕事は真実を追求することだが、それと同時に、個々の選択を尊重することも重要だと感じた。


終わりの時

数日後、施設内ではそれぞれの志願者が静かに自分たちの最期を迎える準備をしていた。悟、翔子、光輝、そして塩谷夫妻は、それぞれの思いを胸に安楽死を選んだ。


悟は最後に翔子の手を握りしめた。「君とここで出会えたこと、本当に感謝しているよ。」


翔子は涙を浮かべながら微笑んだ。「私も、悟さんと過ごした時間が心の支えだった。」


光輝は彼らを見守りながら、静かに言った。「僕たちはそれぞれの選択を尊重し、支え合ってきた。ここでの時間は、無駄じゃなかったと思う。」


塩谷夫妻は施設での時間を大切に過ごしながら、最期の時を迎える準備を進めていた。彼らはお互いに寄り添いながら、長い人生を振り返り、静かにその時を待った。


施設のスタッフたちも、二人の決断を尊重し、最期の瞬間までのサポートを惜しまなかった。勤務医の古平誠司と看護師の荒川澄江は、二人が苦しむことなく安らかに逝けるように細心の注意を払っていた。


川添幸雄施設で働く従業員であり、同時に安楽死を望む者でもあった彼女は日々、安楽死を希望する人々の最期を見届けながら、最後に自分の役割を果たしながら、自身の安楽死を迎える。



最後の瞬間、塩谷夫妻は手を取り合いながら、穏やかな笑顔で永遠の眠りについた。彼らの最期は、まさに「静寂の安楽死施設」という名前にふさわしい、静かで安らかなものであった。


探偵は彼らの最期を見届けながら、深い感慨に浸った。彼は彼らの選択を尊重し、その思いを心に刻んだ。


施設内では、静かに時間が流れていった。それぞれが自分たちの選んだ道を歩み、安らかに最期の瞬間を迎えた。その姿を見守りながら、探偵は一つの結論に達した。


「真実を追求することも大切だが、それ以上に個々の選択を尊重することが重要なのかもしれない。」


彼は心の中でそう呟きながら、施設を後にした。



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